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あの家のおじいちゃん異世界転移メカ作ったって知ってた?

作者: くる

 毎日のように眺めるガラクタの山。

 もう動いてはいない工作機械の数々。

 何年も前に潰れた鉄工所の姿は無残なものだ。

 だが、そのすべてを処分するのを業者に頼むにも金額がものすごいし、更地にしても金はかかる。

 つまり放置され続ける哀れな鉄工所の出来上がり。

 まぁ、うちの家族の所有なんですが。

 物心ついたころには、もう、じいちゃんしか工員がいない死にかけの工場で、そのじいちゃんが他界してからはあっさり畳まれた。

 …らしい。

 それでも、禁止されてはいたが我が家の所有なので、遊び場としては良く使った。

 ケガもしたが、いろんなものを見つけて宝物にしたりもした。

 それは、JCになった今も、実は変わっていない。

 たびたび錆びついたこの地に入り込んでは、ちょっとは知恵もついて、いくつかの機械の用途を理解して稼働していたころの工場の様子を夢想できるようになってきていた。

 なるほど、なるほど。

 父が継がなかったのがわかる。 今ならば。

 下請けのパーツ量産のような体制ではなかったのと、無理にいろんな素材をいくつも切り出そうとして失敗したような跡が目立つ。

 面白いのだが、実験めいたそれらを理解はできない。

 ゆえに、最近ここに来る頻度が上がっていた。

 そこに。


「……でっかいなぁ……ずいぶん形になったまま埋まってるじゃないの」


 私、芦路町ヒカル(ろろまちひかる)の、おかしな形の歯車が回りだしたのは、確かに、ここからだったのだ。

 

 いつものように、鉄くずの山を切り崩しているだけ。

 私が「それ」を見つけた時に、何かを感じた気はしないし電気が走るような感覚を味わったりもしていない。

 ただ、大きい塊になったのが出てきたなぁ、くらいの感覚である。

 しかし違和感は当然あった。

 いろいろと、装置かもしれないナニカがくっついた物体が出てきたのを見たのは初めてだったので。

 作業用アームのような工作機械が埋まってるのだと思った。

 それなのだとしたら、使えるなら取り出してみたい。

 そのつもりで、周囲をかき分けて、寄り分けて、掘り進んで確かめる。

 結果。

 80~100センチ程度だろうか?

 形のはっきりした機械が、私の目の前に出現した。

 持ってきたペーパータオルとゴム手袋をほぼ使い切ってしまって結構な疲労感がある。

 動くかどうかわからない、というより、電源コードもプラグも見つからないから一人でこれ以上何かできるか、もうわからないからだ。


「結局何なんだろう、これ」


 おじいちゃんの作ったものなのは多分間違いない。

 試作品なのか、買った機械の改造品なのか、はたまた依頼品なのか。


「あ、ここ開く」


 いくつかの鉄の板で囲んだようなカタマリの一部に、フタ状のものがあるのに気付く。

 そして、これは多分後から知ったことを加味した憶測なのだが、開けるために手を突っ込んだ時、中のタッチパネル的な何かに触れていたのだと思う。

 同時に、開けた時に中の何かが光ったことに気が付いたのは、他のことが起きたのに気付いたこととさらに同時であった。

 つまり。

 ギュインッ。


「なんじゃ!?」


 手のような、または足のようなものが生えてきて、姿勢を変えようとしたかの如く動いた。

 そう。

 動いたのだ。

 そのあとは、叫んでいたことしか記憶がない。

 動き出した「それ」は、手か足を二つ伸ばして、けっこうな勢いで走り出し……。

 私は、手を離せないまま、一緒に敷地周辺を半周くらいさせられる羽目になった。

 後半は上に乗れることをやっと成功させられたので、疲れはしたが致命的な事態こそ免れたが…。

 機械……いや、なんというか、ロボットなんだろうか?

 一応地形を覚えたのだろうか、最終的には元の廃工場に帰還して動きを止めた。

 開いた場所の光ったところに色々表示があるのは見えたが、英語は読めないのであきらめ、父に頼ることに決めてそのまま帰宅。

 居なくなっても仕方ないと思いながら、一応ビニールシートはかぶせておいた。

 

「おとやん、じいちゃんが何してたかって知ってる?」

「ヒカルは今もおじいちゃん子だなぁ」

「そういうのではなく!!それとは別で!!」


 夕飯時。


「一応、おとやんも継ぐつもりで若いころは働いたことあるんでしょ? 前少しだけ言ってた」

「……まぁ、僕しかいないから、みっちり教え込まれたことはあったね……でも、ヒカルくらいの時には、もう、それはしないと決めて情報大に行かせてくれと頼み込んだねえ」

「じゃあ、あそこが何してるところか知らないまま閉じちゃったんだ?」

「手伝いはしてたけど……何というべきか、ぼくには……怖かったところというイメージのほうが強くてどうしてもね」


 怖い?

 おじいちゃんのイメージとは違うが、息子相手には厳しかったということか。


「じゃあ、あそこの話はしないほうがいいのかぁ…出てきたもの、見て欲しかったんだけど」

「危ないから、あまり行かないように言ってたじゃないかヒカル……それはそれとして、家でそれを調べるなら、協力は父さんもするぞ」

「なんと!?」


 想定しない朗報。


「ただしそれを調べるのは庭でして、しばらく鉄工所はしっかり施錠しておくこと、それを守れるならという条件だ」

「いい!それでいい!」


 ただ、あれ移動できるのかな…。

 それはあえて言わず、楽しく夕食の雰囲気を味わうことにする。

 ただし、逆に条件として今日中におとさんと一緒に「あれ」を庭まで運び出すことを承諾させた。

 自分としては知能犯としていい働きをしたと思う。


「ヒカル! ちょっとヒカル!!」


 なお、その食後の、ほんの少しあとの時間。

 おとやんの大声は久しぶりにきいた。


「なになに!?」

「……こ、これかい? その、じいちゃんの機械って」

「そうだね……」


 玄関の前に、「それ」は、いつのまにか自分で移動して立っていた。

 

 およそ、それから一時間後。

 

「じいちゃんの遺品のコネクタ……見覚えがあったから見つけてきたけど、これがどうして接続できたんだろう……」

「さすが職業エンジニアのおとやん!」

 見た事のないケーブルを3つも4つも繋いで、「これ」にパソコンからのアクセスを試みるおとやん。

「中に入っていたディスプレイの表示からすると、ヒカルが指紋登録もしくは、なんらかユーザー認証をしたんじゃないだろうか……ついてくる道をどう知ったのかは、僕にもさっぱりだけど」

「やはりそう思われますか」

「…とはいっても、十年以上前にじいちゃんがシステム構築までできるような知識があったとは、ぼくは全く信じられないし、なんなんだろうこれは……」

「娘もそう思います」


 おとやんが中身について調べたり考える間、私は改めて「これ」を掃除していたが、見れば見るほどロボットだ。

 ディフォルメ系の、ボディの大きさの割に短めな足をしたロボットだ。

 頭のようなしっかりした形はないが、首と頭が埋まり気味の人間型とは言い切れないわけではないロボットだ。

 きっと、おそらく。


「あとは……朝まで様子、見ようか」

「あら、早いねおとやん」

「繋いでたパソコンが動かなくなってるからもういいや」

「……暴走したら?」

「おじいちゃんが悪い」

「そうかなあ!?」

「OSそのものが違う気はするけど、接続信号などはちゃんと確認してるからたぶん平気、たぶん」 

「あんたほどのIT技術者がそういうなら…」


 実際何言ってるかさっぱりだったが、ひとまずこのままなのだけは理解。

 玄関前に「それ」が置かれたまま翌日へ。

 暴走も爆発もなく、本当に何も起きないので、さらにそのまま放置して学校に行った。

 

-翌日。 

「なぁ、ロボットってカッコイイって思うほう?」


 話題に乏しい昨今だったので、帰りのホームルーム前に何となく、友人に聞くことにした。


「最近は仮想中世で無難になんじゃないかなぁ? で、聖女婚約破棄と追放と上級スキルとざまあを初回でやるスピード感、これが必要だと思います」

「そうじゃなく」

「やっぱり魔法が足りないよね! 世界に通用するのはやっぱ魔法とオリジナルスポーツと禁断魔法のコンボですわぁ」

「うん話聞く気がないな」

「そんなことよりジャムパン食べる話したーい」

「論外だなおまえはな!」


 聞いたのがあまりに間違いだった。

 窓側から、口数の魔術師、環腕 好子わかいなこのこ

 隣にオタク気質の、宇塚まほ(うつかまほ)。

 砂糖が脳に詰まってる気がする食べ物の話が好きな、瑠智ヶ寺 比瑪るちがたにひめ

 

 以上、私の席に集まったいかれたメンバーです。


「私の質問に、魂に掠るような何かを持つ人材は誰一人ないのか、君たち」

「言われましても、こう、興味を引く導線がないと状態で急に出されたものはちょっと…」

「……言われてみればそうである」


 少し作戦を変えよう。

 そして、それなりに日常の話から昨日の話をやんわり繋げて話すことにした。


「それでも割と突拍子もないね」

「それもそうね…」


 割と全面的に論破。


「…で、言いたいことはそこそこわかったけど、私たちにできること、そもそもなくない?」

「おっしゃる通りで」


 おかしいなぁ、この流れ。


「どちらかというと、何が必要なのかがわからないというほうが正しいかもしれないけど…手伝えばいいのか、ただ見せたいというお話なのか」

「ぶっちゃけ自慢したかっただけだね!」


 興味持たれなかったからこの流れになったわけだけどな!


「いや、まぁ、実際にあるなら、そりゃ見たい気持ちはちょっとはあるよ」

「おいおいやっと乗り気じゃん!?」

「あーね、そういう反応が欲しかったわけか」

「それだけじゃないけど、やっぱ必要なんですよ、優越感!」

「倉庫の古い部品が動いたって話を盛って、どうして優越感が得られると思ったんだこの子は…」

「おっしゃる通りですね」


 優越感が欲しいと思わず言った理由、お分かりになられたと思います。

 みんな結構辛辣なんよ。

 仲がいいことの表れと言えるかもしれないけど…。

 けど、もうちょっとねえ。

 そして、まぁ、そういう空気のまま帰宅。


『おかえりなさいユーザー1』

「「しゃべってる!?」」

「いやなんでヒカルが驚いてるのか」


 喋ってなかったからですが。


「…いや、動いたことから意味不明で実際何も知らないのよ、こっちも」

「話だけじゃ半信半疑だったけど、ちゃんとロボットだね~すごいねぇ~」


 結構、好印象な雰囲気。

 いいぞ、おじいちゃんの作ったっぽい「あれ」。

 つかみはかなりいい調子だ!


「それで名前はなんていうの、この子」

「…え…」

「ヒーローっぽいやつ、どうせ付けてんでしょ? カイザーロードジェノサイダーとかさ~」


 それは果たしてヒーロー名乗れる名前か?


「いや、つけてないんだけど…」

「「なんでだよ!?」」

「いやぁ…ちゃんと動いてる様子見たことなかったから、それどころでもなかったというか…なんというか」

「もしかしたら、その前にデフォネームがあるかもしれない」

「あたまいいな!」

「喋れるなら聞くという基本的なこと忘れてたねえ!」


 わすれすぎだね。


『ワタシは、J.I.K…』

「「おお!」」

『U‐トランスポーター st40001型01と登録されています、所有ユーザー名とワタシの名称は登録者とスーパーユーザー以上の権限で変更が可能です』

「つけられる!やってみてよ!イッテイーヨ、ヒカルちゃん!」

「JIKっていってたっけ……」

 そもそも、凝った名前を付ける気はない。

「ジクくん!」

「安直!」

「本人が言ってたし、わかりやすいほうがいいよね」


 本気で悩むと数日コースだしな!


「で、私が所有者の芦路町ヒカル(ろろまちひかる)!忘れないように!」

『登録完了しました芦路町ヒカル』

「よろしくね」

『今後の予定をリマインダーしますか芦路町ヒカル』

「…呼び方はヒカルでいいよジクくん」


 融通が利かない雰囲気を感じる!


「で、わたしたちはー? 仲間に入れてくれないのかいジク君~」

『芦路町ヒカルの関係者の方として登録可能ですが命令の受付などは制限があります、それでよろしいですか』

「「いいよいいよ!」」


 そこから各々名前などを覚えさせたり。色々するうちにもう夕方。

 小腹がすいたのもあってコンビニに行くことになったのだが、そこで少し発見があった。


「これ、椅子じゃない?」

「…はい?」


 頭っぽい部分が開くのは知っていたが、完全に開けると後ろに行くフタが背もたれのような形状になるのを環腕好子が気付く。


『人間の運搬は、基本的に一名のみを想定して設計されています』

「やっぱりのれるんだ!」

『耐荷重は120kgが設計上の追加限界重量ですが想定内重量に収まりそうですか』

「さらっと女の体重聞こうとするんじゃねぇぞジクくん!」

『もうしわけありません』


 怒ってるのは理解できるのか。


「そうか、トランスポーターっていってたから、そりゃ運べるようにできてるよね」

「よく覚えてたねぇ」

「「おぉ~」」


 拍手するほどの大発見かはともかく、賞賛はすべき。

 よく拭いて、クッションをいくつか持ってきて背中とお尻に合いそうなのを選び、詰める。


「乗った!」

「「おぉ~」」


 ジクくんに肩車されるような、背負われるような、中間ポイ見た目の搭乗スタイルの完成。


「…じゃあ、コンビニまで試験運転と言うことでぇ」


 おや?

 誰も乗りたいと言ってこないぞ?

 うらやましそうでもないぞ。

 これはもしかして。


「あの、群れの中で一人これで街を練り歩くの…」

「どうした主人」

「…すっげ恥ずかしいです…」

「そりゃそうだろうね…」


 わかってたなら止めてよ!友人さあ!

 定番の、ままーあれ何ーも食らった。

 本当に、コンビニまでは正しく罰ゲームであった…。

 で、流石に店内には持ち込むべきじゃないので、駐車場のどこに置いて邪魔にならないかを優柔不断に悩みながらやっと店内に入ると。

 静かだ。

 店内放送がないコンビニと言うのは初めての感覚でちょっとビビる。

 それに、前に入ってるはずの三人が、こんなに静かなのもなんだろう。

 ああ、お会計中か。


「よっ、何買ったの」

「あの、見えない?」

「…離れて何も言わんで…ヒカル…」

「なんじゃら、みんな」

「コンビニ強盗に人質に取られてんの、たった今まほが」

「…………は?」


 唐突すぎて、そんなのに反応できるか。

 見ると確かにカウンターにいるの店員じゃない、銃持ってるおっさんだ。


「対策されて儲からないの代名詞みたいな無謀なコンビニ強盗を何で今更日本で!?」

「「「挑発すんな!」」」


 そんなこといわれても。

 しかし、みると強盗側も困ってるようにすら見える。

 話している言葉は外国の言葉なのか全く理解できないし、カウンター越しに銃で人質はしゃがんで逃げられないのか?

 まぁ、相手と意思疎通ができないから急に撃つかもという恐怖があり、逃げられないのですが。

 このまま警察を待って、自首するまで耐久する流れなのだろうかと思いかけたころ…。

 入り口があく。


「ヒカル…ヒカル!あれ入ってきた、止めてヒカル」

「あれって…うぉ!?」


 ジクくんだ。

 自動ドアから堂々入ってきた。

 なんで?

 強盗も見たことがない突然のロボの来訪に興奮して叫んでいるのがわかる。


『危険であると判断しています』

「偉いねぇ、でも今、デバンかなあ?」

『おまかせを』


 強盗が銃をぶっ放す。

 もう頭が追い付かないのだろう。

 そりゃあそう。

 だが、改造モデルガン程度なのだろうものはジクくんには効かず、ジクくんは足の横の車輪で急加速しジャンプ。


「シャイニングウイザード!?」


 好子の言葉はわからないが、凄い早業で強盗を格闘技で仕留めた。

 器用だなジクくん。

 ご愁傷さま、セリフもよくわからない強盗さん。

 そのあと、四人で店にある紐で気絶した男の手足だけ縛り、奥に閉じ込められていた店員に挨拶だけして、立ち去る。

 買い物できる状況じゃなさそうなので、別のところまでまた遠征した。

 ヒーローのジクくんに乗るのはあきらめて。

 …恥ずかしかっただけですが。

 にしても、いろんなことが出来るな…乗って動いて精いっぱいじゃないのか…ジクくん。


「でもさぁ」

「なんだね好子くん」

「これ原動機付の車両の分類だろうから、ナンバー取らないと道路交通法違反なのでは?」

「道交法違反!?」

「場合によっては、免許もないと乗ると逮捕…あるかもしれません」

「夢も希望もねえな法治国家!」

「おめえの国だよ」


 帰り道のなんというコトのない、この話から、割といろいろみんなで動き回る数日が始まる。

 いわく、道交法の改正で変わったバッテリー駆動の乗り物の扱い。

 いわく、勝手に動くロボットの街中での扱い。

 問い合わせはどこか。

 キックボードが手近に話に上ったので、その辺を役所に問い合わせたり、みんなで返答を待ったりした。


 結果。

 いまのところ、歩道に関してはナンバー取得もいらず使っていいという返答が来た。

 横幅70cm…なんとかギリクリア。

 長さ高さ120cm…これは余裕。

 バッテリー容量に関してはなんかしらあったが、移動用とシステム用で別で移動用は少量と、少しごまかした。

 あとは、移動速度6km以内で方向指示灯、ブレーキ、速度表示などがあればいいのだと話をされる。

 歩道専用であるなら、使用範囲と使用者の証明を公安委員会提出の書類で出す必要があるらしいが、マイナンバーの写しだけ出せば役所が書類をやってくれるらしい。うちの役所、優しい。

 スピードを出したい場合は、かなり厳しくなるらしく、ここで妥協。

 まぁ、市販車でなく何ともわからないロボなので、自分たちも詳しく中身を知らないものに多くは望むべきではない。


※これは仮想の小説内の法規定です

 

「さぁて、これで後ろめたさは何もなく街を歩けるようになったジクくんの、記念すべき最初の散歩でーす!」

「「「ぉぉー……」」」


 うん、今日も反応はいまいち。

 しかし今日はめでたいので多少は妥協。


「さてと、ジクくん」

『なんでしょうか芦路町ヒカル』

「一応、届け出は通学路と外れのスーパーまでで申請したけど、実際全力でどこまでいけるんだい今」

『時速の制限で高所などに不可能と思われる場所がありますが、通常移動で可能な距離であれば地球のどこまででも現在の蓄積エネルギー量で可能です』

「…なんか怪しいこと言ってるな…」

『また、歪曲値の変異があるあちらの高台であれば一度の異世界への移動が可能です』

「はっはっは…異世界はいいなぁ夢あるなぁ」


 冗談も覚えたのか、幸先がいいジクくん。

 コミュニケーション能力が上がるのはいいことだ…けど。


「あれ?続けて何か言うことないの?冗談じゃないの?」

『行けますが』

「え~っと…」


 なんか、おかしい。


「行けるなら、行こうぜ〇グワーツ」

「夢から帰って来い、まほ」

「でも、試したいじゃないの」

「「「それはそう」」」


 そうして、何か納得がいかない流れを保ち、何かしら準備をして再集合。

 話に合った高台に、おやつなどを持って集合した。


『ではいきます』


 言った瞬間、言葉も出せないほどすぐ、周囲が歪んで見えた。

 次の瞬間…。

 もう、野原にいた。

 見たことのない種類の木々が目の前にある。


「まじですか」

「異世界、なのかなぁ…来たのかなあ」

「ずいぶんと小説か漫画みたいなキャラ付けになったね私たち」


 それは元々ですね。


「じゃあ、思い思いのやりたい異世界生活、やってみようか!!」

「「おおーっ!!」」

「待てや!?」


 凄い速さでそれぞれの方向に散っていく三人。

 何が起きているのかわからず棒立ちの芦路町ヒカル。

 どうしたらいいんだか。

 そのまま放心して、時間は考えていなかったが…。


「ヒカル!ヒカル!」

「ん?どうしたね」

「私王様になったよ!」

「環腕!?どういうこと!?」

「うちらの治水とか農業のうろ覚え知識を教えてあげたら救世主だって国貰った!」


 …ゆめか?ゆめだよな?


「私も魔法で世界を支配できるくらいになったよ!」

「まほ!何がしたいんだよ!」


 変な怪物に乗った宇塚まほが遠くから寄ってくる。

 くるな。それこわいから。


「私もおかし作ったら神様扱いされたよお」

「そんな神ならまだおとなしいほうだな!お前はもうそれでいいよ!」


 比瑪は欲望そのままで何か癒しになるレベルなのがちょうどいいのだ。


「ああそれとね」

「なんだ比瑪」

「おいしすぎて何もしたくなくなるから、作った私は世界を堕落させる悪魔だって、いろいろ他からつつかれて、軍隊が追いかけてきてるよ」

「なんでだよお前さぁ!?」

『おまかせください』


 確かに土煙が見える。

 凄い軍団みたいなのが押し寄せているように見えるが…夢に違いない…驚くな、おびえるなヒカル。

 しかし。

 ジクくんが何か言ったな今。


『防衛プログラム作動、所有者の保護を最優先に、敵を速やかに排除します』

「なにいってんだジクくんまで!」

『変形!!!』

「うそだろお!?」


 胴体から展開して足のようなものが出てきて、別のなんかリアルな頭部が出てくる。

 なんだこの世界観。

 さらにその変形したジクくん、不意に巨大化した。

 理論もわからない。もう意味が分からない。


『ドラスタリウムビーム!!』


 目から出た光線で土煙のほうにすごい爆発が見える。

 しんだなあれ。

 しかも、後ろのほうの山まで割れて豪快に崩れだしている。

 適当な一撃で災害だよねぇあれは。

 もう、いろいろ混ざってわけがわからないよ。


「楽しんでるみたいだねヒカル」


 そのとき、別方向から不意な予測しなかった声がした。


「おとやんだ」

「やっぱりこの機能を見つけてしまったんだなぁヒカル」

「何か知ってたの?」

「これは、この時代には存在しない装置と機能だから、何もなかったことに…本当はしたかったよ」

「未来人だったのおとやん!?」

「いや、じいちゃんに色んなつぎはぎの装置を見せて、共同研究していた白衣の人は、たぶん、そうだったと僕は思ってる」

「実際にいるんだ…?」

「そして、僕も陰ながら手伝って、じいちゃんは僕との共同では別の装置を作って組み入れて、その研究のコピーを作ったんだ」

「まさかそれジクくん…?」

「じいちゃんが死んだとき、その研究がごっそりなくなっていて、これも多分じいちゃんが隠したんだ…だから、最初ヒカルが掘り出した時は、これで復讐もできるかも、と思ってはいた…」

「夢でも、おとやんの口から邪悪なこと言わないでくれるかなあ!?」

「とはいえ僕には向いてない、だからあれには関わる気はないんだよ」

「自分たちが作ったものでも?」

「一方で、あれを楽しく愉快に、未来につなげてくれるならヒカルが持つのは構わないと思う、止めないから思うままやりなさい」

「…ここだけいつものおとやんなの、ずっこいなぁ」

「さあ、この世界を一気に焼け野原にしてしまおうか!!」

「それが一番ダメだっちゅうねん!」


 がば。


 夢か…やっぱり夢だ。

 よかった、あの荒唐無稽が現実だったら、私の頭は取り返しがつかなかった。


『おはよう芦路町ヒカル』

「おはよジク君…」


 軽い挨拶をして、乗っかる頭部分を開けて、意味もなくちょっと細かく見る。

 ……変形時の足のような装甲パーツが、はっきり目に入る。


「……いや、何もない世界と言うことにしよう…」


 みなかったことにした。

 我々の世界は、緩やかであるべきで冒険心に満ち溢れてなくていいのだから。

 平和だといいなぁ、ジクくんや…。

 寝ぼけた頭で、ヒカルはもう一度心の中で穏やかを欲した。

【登場人物】

芦路町ヒカル(ろろまちひかる)

 主人公 中学生女子

 祖父の代で潰れた鉄鋼場の近くで暮らすノリで生きてる女子中学生


環腕 好子わかいなこのこ

 ヒカルのクラスメイト

 辛辣な突込みと叩きのめす言動が多いが、おそらく友達


宇塚まほ(うつかまほ)

 ヒカルのクラスメイト

 魔法を扱う小説などが大好きな読書好き女子で、独学で魔法の研究も多分している


瑠智ヶ寺 比瑪るちがたにひめ

 ヒカルのクラスメイト

 食欲が何にも優先するが何かわからないが太らない、むしろグループの中で断トツの異性からの告白数を誇るが気にも留めていないマイペース女子


おとやん

 ヒカルの父でIT系の企業に勤めるエンジニア

 家業を継ぐ気は全くない、嫁に逃げられる、趣味で別のアパートを借りて数多くの趣味の物品を溜め込むというのらりくらりした生き方のダメな大人

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