4,ウェア イズ
英語教師の質問の答えを、眼鏡男子より早く答えてください。
英語の授業中。高校生の由加は、ネイティブの先生に指名されピンチに陥った。
「ウェア イズ ア カッパ?」
「へっ!?河童?」
4限目ということもあり、由加の集中力は切れていた。購買で今日は何のパンを買おうかと妄想していたため、全く授業の内容を聞いていなかったのだ。
(河童・・・!? 先生、授業中に日本の妖怪がどこにいるか聞いてるの? でも、本当に河童の居場所を授業中に聞くかしら!?)
由加は真っ青になった。
英語教師のメアリーは怖い事で知られていた。メアリーは居眠りする生徒がいると廊下に行けと言ったり、テストの点数が低いと「ナゼデスカ?」と問い詰めてくる。
そんな先生が、本当に授業中に河童の居場所を尋ねるだろうか?
黒板の前ではメアリーが厳しい顔をしながら由加を睨みつけていた。
(どうしよう。とにかく答えなきゃ・・・)
慌てて黒板を見ると、「ザ ローズ デパートメント」と英語で書かれている。その文字の下には、四角い地図が描かれていた。
大きな四角の中には、右側に建物の絵があり、建物の右上には「ポテト」と英語で書かれていた。デパートの中のスーパーでは、ジャガイモが売られているのだろうか。
右下には英語で「ミルク」「トマト」と書かれている。
そして左側には、いくつかマス目のようなものがあり、車の絵があった。英語で「カー パーク」と書かれている。駐車場のようだ。
地図の左下には川の絵があり、やはりこれも英語で「ローズ リバー」と書かれている。
(ローズ リバーに、河童がいる・・・??)
しかし、ローズ リバーに河童の絵は見当たらない。黒板にはデパートの中で売られているポテト、ミルク、トマトと駐車場、そして川しか描かれていない。
果たして、怖いメアリー先生が、日本の妖怪である河童の居場所を授業中に聞くのだろうか。違う。答えは河童ではないというのが直感で分かる。かと言って、正解が分かる訳でもない。
由加が必死に考えている間にも、メアリーは
「ウェア イズ ア カッパ?」
と、しきりに聞いてくる。由加は恐る恐るボソッと呟いた。
「よ、妖怪の、河童・・・?」
「ウェア イズ ア カァッ パッ!?」
小声で尋ねたせいで、聞こえなかったのだろうか。メアリーは目を吊り上げて、今度は大きめの声で聞いてきた。
質問されてから2,3分は経っている。
気まずい沈黙が流れ、クラスメイトは「まだか」という雰囲気を醸し出している。みんなは答えを分かっているのだろうか? メアリーの言うカッパとは、なんだろうか。ローズデパートメントに河童がいるのだろうか。
由加はパニック状態だった。
(早く答えなきゃいけないけど、答えが分からないわ。どうしよう。)
すると、隣の席の眼鏡男子が小声で教えてくれた。
「河童じゃないよ。カー パークだよ。」
(カー パーク!?)
そう、ネイティブの発音だと、カー パークはカッパに聞こえるのだ。
由加は慌てて答えた。
「ア カー パーク イズ イン フロント オフ ザ ローズ デパートメント」
「ソウデス。」
メアリーは頷くと、授業の続きに戻った。
(良かったぁ・・・)
由加は胸を撫で下ろし、着席した。それから隣の眼鏡男子に小声でお礼を言った。
「ありがとう、早川くん。」
眼鏡男子は由加を見ると頷いて、メアリーの方に向き直った。
これが由加と拓実の初めての会話だった。
読んでいただき、ありがとうございます。
5月23日まで、思いついた事を連載しようと思います。