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3,音がしている

 拓実より早く音の正体を突き止めてください。


『ガタガタ・・・ガタガタ・・・』


 間違いなく、音がしている。何かが後ろにいる。


 由加は恐る恐る後ろを振り返った。が、後ろの席には何もない。だがよく耳を澄ますと、ずっと音がしている。


『ガタ・・・ガタガタ・・・ガタ・・・ガタガタ』

『ザァー・・・ザァー・・・』


(やっぱり幽霊がついて来たのかも。)


 由加は血の気が引いた・・・その時だった!



* * *



 平日の昼前。由加と夫の拓実はたまたま休みが一緒になり、遠くに買い物に行く事にした。

 拓実がハンドルを握り、高速道路を走る。そしてテレビでよく取り上げられるショッピングモールに着いた。平日だったせいか、それほど混んではいない。


 由加は京浜ハンズという店で、テレビで紹介された歯磨き粉を買いたいと、拓実の手を引いた。エスカレーターで3階に行き、京浜ハンズに着いた。

 

「あった!これこれ!」


 大きな歯のロゴのパッケージが印象的な歯磨き粉だ。虫歯予防に必要なフッ素がしっかり入っているらしい。由加は歯磨き粉を手に持ち店の中を歩いた。


「カゴが欲しいな〜。そこら辺にないかしら。」

「待ってて。」


 拓実は隣の通路にあったカゴを持って来た。


「ありがとう。すぐ近くにあるのに、気づかなかったわ。さすが拓実!」

「いや、普通でしょ。」


 それから新しいバスタオルを2枚カゴに入れ、店の中を一通り見た。レジに向かうと、その近くの棚に動物のぬいぐるみが売られていた。5段ある棚にびっしりと並べられている。


「かわいいー!」 『かわいいー!』


 由加の声に反応して、並べられているぬいぐるみが一斉に喋り始めた。

 由加と拓実が驚いて声を上げた。


「ぎゃあ!!」 『ぎゃあ!!』


 由加が恐る恐るぬいぐるみを手に取ると、手に取る音にまで反応してぬいぐるみが喋っている。由加がウサギの足の裏にあるスイッチをオフにすると、ウサギは喋るのをやめた。


「これ、オウム返しするぬいぐるみだわ。」

「へぇー、そんなのがあるんだ。でもこれだけ並んでると、怖いな。」

「面白いから買おう!このウサギのぬいぐるみにしよう。」

「いいね。」


 喋るぬいぐるみの数を数えると、50体ほど並んでおり、全てのぬいぐるみのスイッチをオンにした誰かの悪意を感じたものの、たしかに驚いたし面白いと思った。



 2人は会計を済ませると、レストランのある5階に行こうとエレベーターのボタンを押した。


「遠くまでドライブして買い物をするの、久しぶりね。たまにはこういうデートもいいわね。」

「うん。」


 拓実が由加の手を取ると、由加は握り返して拓実の顔を見て笑った。拓実は眼鏡を掛け直すと、由加の手をしっかりと握った。


 エレベーターの扉が開いた。中には誰も乗っていなかったので、2人はすぐに乗り込んだ。5のボタンを押すと、エレベーターの扉が閉まり、上へ昇っていく。

 途中4階でドアが開いた。由加は誰か入ってくるかと思って隅に避けたが、誰も入って来なかった。外を覗くと、誰もいない。

 4階のフロアは、照明が薄暗く、人気がなく静かだった。

 閉めるボタンを押すと、エレベーターがまた動き始めた。


「誰もいなかったわね。誰かがボタンを押して、その後に用事を思い出して居なくなったのかしら?」

「そうだね。」


 拓実は興味なさそうに返事をしたが、由加は4階の薄暗く、誰も居ない妙に静かな雰囲気が不気味だと感じ、気になった。


 5階に着き、パンの食べ放題のレストランに入った。お昼の時間はとっくに過ぎており、席はまばらに埋まっていた。2人はすぐに案内され、席に着いた。メニュー表を眺めると、食べ放題の付いてくるメニューはパスタ、ハンバーグ、ステーキだった。由加はパスタを、拓実はステーキを頼んだ。食べ放題のパンは10種類ほどあり、なかなか美味しかった。

 由加は料理の味に満足したが、時おり、4階の薄暗い照明と静かで不気味な雰囲気が何故だか頭をよぎった。

 2人は食事を済まし、レストランの外に出ると、拓実はエレベーターを通り過ぎた。由加が拓実の先の壁を見ると、男女のマークが壁の上部にあった。


「トイレに行ってくるね。」

「うん。」


 由加は近くにあったベンチに座り、スマホをみた。そして一昨日から読んでいるホラー小説の電子書籍の続きを読み始めた。







「わっ!」

「!」


 由加が飛び跳ねると、拓実が目の前で笑っていた。


「僕が近づいても、全然気づかなかったね。何を見てたの?」

「驚かさないでよ。ホラー小説を読んでたのよ!びっくりしたんだから。」


 由加はスマホをポケットにしまい、拓実に復讐しようと考えた。


 エレベーターで一階まで降り、スーパーで袋2つ分の買い物をした。そしてショッピングモールの駐車場に向かい、自分達の車に乗り込もうとした時だった。

 由加は京浜ハンズで買ったウサギのぬいぐるみのスイッチを入れ、後ろのトランクに荷物を入れている拓実の背後にまわり・・・


「わーーーっ!!!」 『わーーーっ!!!』

「・・・・・・何してるの?」


 由加はウサギと一緒に拓実を驚かそうとしたが、失敗に終わった。


「驚かされたから、仕返ししようと思ったんだけど。つまんないなぁ。」 『驚かされたから、仕返ししようと思ったんだけど。つまんないなぁ。』


 ウサギもつまらなさそうに話す。


「ごめんね。」 『ごめんね。』


 拓実が謝るとウサギも謝る。

 思わず2人が大笑いすると、ウサギは2人分の声で大笑いをした。


 由加はウサギを買い物袋にしまい、トランクに詰めると、急いで助手席に乗り込んだ。

 拓実はそれを見るとムッとした顔をして眼鏡を掛け直した。


「また僕の運転か。」


 しばらく走り高速道路に入ると、由加はラジオを流した。外はまだ明るいが、あと1時間ほど車を飛ばすと暗くなるだろう。

 2人はラジオから流れる歌を聴きながら、時おり口ずさんだりしていた。

 すると、どこからか、ラジオ以外の音が聞こえる事に由加は気がついた。

 気のせいかと思ったが、耳を澄ますと、やはり音がする。


「ねぇ、拓実。なんか音が聞こえる。」

「音・・・?」


 チャラチャッチャッ、チャッチャッチャチャーラー・・・


 ラジオの音だけが流れている。


「ごめん、やっぱり気のせいだったかも。」

「いや、聞こえたよ。ガタッて音だよね。なんの音だろう?」

「えぇ?今私には聞こえなかったんだけど・・・でもやっぱり、音がするわよね。」

「うん。してる。」


 すると車がガタガタと揺れた。道路には横断歩道のような縞々のラインが続いている。眠気防止用のラインを踏んでいるのだ。


『ガタガタ・・・ガタガタ・・・』


 車の揺れる音とは別に、やはり謎の音が聞こえる。


「やっぱり変な音がする。・・・・・・ねぇ、拓実、今だから言うんだけど」

「何?」

「京浜ハンズを出てエレベーターに乗ったでしょう。その時、誰も居ないのに4階で止まったじゃない。・・・もしかして、あの時に幽霊がエレベーターに乗り込んだんじゃ・・・。」


 一瞬間が空いた。それから拓実が鼻で笑った。


「そんな訳ないだろ。怖い話の読み過ぎだよ。」

「いや、あの時、気味が悪い感じがしたの。それに4階だけ、照明は暗かったし、妙に静かで、雰囲気が他の階と違ったじゃない。変な感じがしたのよ。もしかしたら、その時から私達について来ちゃったんじゃ・・・」

「まさか・・・」

 

 また車がガタガタと揺れる。すると後ろから


『ガタガタ・・・ガタガタ・・・』


 間違いなく、音がしている。何かが後ろにいる。


 由加は恐る恐る後ろを振り返った。が、後ろには何もない。だがよく耳を澄ますと、ずっと音がしている。


『ガタ・・・ガタガタ・・・ガタ・・・ガタガタ』

『ザァー・・・ザァー・・・』







「由加。」

「わぁっ!何よ!?」


 由加は急いで拓実の方を振り向き、運転をする横顔をじっと見つめた。

 拓実の口が、ゆっくりと動く。



「・・・スイッチ、切った?」

「え?」



「ウサギのぬいぐるみの、スイッチは切った?」



「ああぁぁーーー!!忘れてた!!この音、ウサギの音かぁ!そうよ、そうだわ!」


 由加はショックを受けた。拓実を驚かすためにウサギのスイッチを入れ、切り忘れていたのを思い出した。


「やだ、トランクに入れちゃったから、すぐにスイッチを切れないわ。」

「面倒だから、僕は途中で止まらないよ。家までこのままにしよう。」

「えぇ〜・・・電池が切れちゃうわね。」

「ここからだと家まで1時間はかかるから、ずっと鳴ってるなら切れるかもね。」


 2人は大笑いした。すると、後ろから小さな2人分の笑い声が聞こえた。


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

5月23日まで、思いついた事を連載していこうと思います。

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