表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

1,鍵がない!

 夫より早く由加のなくしものを見つけてください。

 昨日まではコートを着ないと外に出れない寒さだったが、今朝は春の訪れを感じる暖かい3月の朝だった。

 そんな穏やかな朝、ドタバタと家を出ようとする1人の女性が居た。薄紫色のトレーナーに白いズボン、合皮の黒のバッグを肩にさげ、パンプスをはいた女性は玄関のドアノブに手を掛けた。


(仕事に遅れる!)


 由加(ゆか)は玄関を出て車に乗り込もうとした。バッグの内ポケットに手を入れると・・・鍵がない!

 スマホを取り出し時間を確認すると、7:15だった。7:30までには家を出ないと出勤に支障が出てしまう。


 玄関に戻り、下駄箱の上の鍵置き場を確認する。 

 鍵置き場には、自転車の鍵や実家の鍵、ライターが散乱していた。だが、車の鍵がない。


 由加は昨日夫と夕食を食べに車で出掛けた事を思い出した。夫が運転してくれたが、由加は念の為いつも自分の車の鍵を持ち歩く様にしていた。もしかしたら、一緒に出かけた時のバッグに鍵を入れっぱなしにしていたのかもしれないと気がついた。

 急いでリビングに戻り、昨日使ったトートバッグに手を突っ込んだが、鍵は入っていなかった。


 おかしい。いつもは仕事用の黒いバッグか、このトートバッグでしか出掛けないのに、ここにもない。


 リビングでテレビをつけてスマホを見ている夫に尋ねた。


「私の車の鍵知らない?見つからないの。それか、あなたが持ってるなんてこと、無いわよね?」

「見てないし、持ってないよ。」


 念のため夫のバッグの中を確認すると、私の鍵は入っていない。


「ポケットに入ってるんじゃないの?」


 夫の呼びかけに、はっとした。


(灯台下暗しってこと?まさか・・・!!)


 服のポケットに入っているのは、よくあるセオリーだ。散々探し回った挙句、結局自分が持っていたというオチだ。だが、これが一番よくある話である。

 由加はズボンのポケットに手を突っ込むが、何も入っていなかった。

 がっかりするのと同時に、焦る気持ちが込み上げる。テレビの上の壁掛け時計を見ると、7:25を指していた。


(早く家を出ないと、間に合わない!)


 由加は焦る気持ちを抑えて、もう一度鍵を探した場所を思い出す。


 黒いバッグの中、玄関の鍵置き場、トートバッグ、夫のバッグ、ズボンのポケット・・・どこを探しても見つからない。


 もしかして外出先で落としたのだろうか。はたまた、盗まれたのか、それとも昨日車の中に落とした可能性もある。


 時計に目をやると、7:27になっていた。


「やばい!!遅刻する!!!鍵を貸してくれる!?」

「嫌だよ。君に貸すと戻って来なさそうだから。それより、ポケットの中は見た?」

「見たけど、入ってないの!消えちゃったのよ!落としたのかな?どうしよう・・・!!」


 ズボンのポケットに手を突っ込むが、やはり入っていない。


「そこじゃないよ。昨日の夜は寒かっただろ。コートのポケットは見たの?」

「コートの、ポケット・・・?」


 そうだ!昨日の夜は寒かったから、コートを着たんだ!でもまさか、上着のポケットに鍵を入れて忘れるなんて・・・と思いながら、急いでコートのポケットに手を入れた。



 あった!!



 車の鍵はコートのポケットの中に入っていた。


「名探偵ーー!ありがとう、大好き!」


 由加は夫の頬にキスをすると、急いで玄関を出た。夫がスマホに顔を戻すと、7:28を表示していた。


「僕が居て良かったね。」


 少し下がった眼鏡を掛け直すとスマホをポケットにしまい、コーヒーを飲む為に立ち上がった。



 夫より早く見つけられたでしょうか?

読んで頂き、ありがとうございました。

5月23日まで、思いついた事を連載したいと思っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ