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第五話①「僕は叫んだ」

 国王に成りすましていた『暴食ぼうしょく』のグラトニー。

 とにかく顔がデカい巨人といった印象だが、こいつが正体を表すなり真っ先にしたことは、手近にいたシンゴを呑み込むことだった。

 殴るとか蹴るとかじゃなく、大口を開けガパリと呑み込んだ。

 つまりは捕食だ。

 グラトニーはシンゴを、食べ物として喰ったんだ。


「「「「…………!!!?」」」」 


 あまりのグロさに、みんなは硬直。

 暴食の意味ってそういうことかとおおいに理解した、その瞬間――


「きゃあああああーっ!?」


 問題児とはいえ、自分の生徒が呑まれたのがショックだったのだろう、コマちゃん先生が悲鳴を上げた。 

 恐怖は次々と伝染し、王の間全体に生徒たちの悲鳴が木霊こだました。


 そんな中――


「ふははははっ! 実に美味いなおまえら異世界人はぁ~!」


 グラトニーはお腹を擦り擦りしながら愉悦の笑みを浮かべている。


「んん~? いまいちわからないという顔をしているなあ~? どうして自分たちがこんな目に遭っているのかわからないと? よお~っし、ならば教えてやろう! 貴様ら異世界人の肉はとろけるほどに柔らかいのだ! 魂はほんのり甘味があって、まさに至上の美味なのだ! 多くの手間と時間をかけてこうして国王に成りすます価値のある、最高級食材なのだ!」

 

 人の恐怖や絶望を好物とする悪魔貴族故の様式美なのだろうか、自らの悪事をドヤ顔で説明するグラトニー。


 一方、ここまで来てようやく自らの立場に気づいたのだろう、一年一組のみんなが騒ぎ出した。


「俺たちは勇者じゃなく、あいつのエサとして召喚されたってことかよ!?」


「じゃあ魔王を倒せば元の世界に戻れるって話は……!?」


「あいつが魔王側なんだからあるわけないだろ!」


「ってか待てよ! これ……この首輪!?」


「……とれない! 頼む、誰かとってくれ!」


 ただ単に黙されていたというだけでなく、自由意志を奪われ操られた上でこんな化け物に喰われる。

 いずれ自らを襲うだろう運命を悟ったみんなは、恐怖と絶望に顔を歪めた――


「貴様もよく頑張ったな! ガキどもの中では比較的聡いようだが、しかしここまでよ!」


 みんなの恐怖を堪能したのだろう、グラトニーは僕に向かってガバリと手を広げると、にちゃり粘ついた笑みを浮かべた。

 そして――


「ペリシャの赤石せきせきよ! 我が声に応えよ! かせに縛られたる者どもを我が操り人形とせよ!」


 グラトニーの発したコマンドワードが電流のように宙を走ったかと思うと、みんなの首輪に嵌まっているペリシャの赤石がバチリと赤白い光を放った。


 パチリ、パチパチ――!

 

 火花の弾けるような音が響き、何かの焼け焦げるような臭いが立ちこめた。

 次の瞬間、首輪をしていた人たちはみな一斉に表情を失い操り人形と化した。

 かと思うとそれぞれが剣を抜き、杖を構えて僕らに向かって来た。

 

「くっ……ヒロ! こんなの一体どうすればいいのよ!?」

   

「ヒロ様! 死ぬ時はどうかお傍で! ぎゅっとこう……密着する感じで!」


「みみみみっちゃく!? あああああんたねえ! こんな時にいったい何考えてんのよ!?」


「はあーっ!? こんな時だからでしょう!? 女たるもの死ぬ時は最も愛する人と共に――!」


 アイリスとシャルさんは極度に混乱しているらしく、わけのわからない争いをしている。


「くそ……これはさすがに潮時か? ヒロ様をお守り出来ぬはなんとも無念だが……っ!」


 ガイウスさんはガイウスさんで、ここで討ち死にする覚悟を決めたよう。


「大丈夫だよみんな!」


 そんな中、僕はまったく諦めていなかった。

 だって……だってさ。


 極度の緊張(・ ・ ・ ・ ・)――

 みんなの意(・ ・ ・ ・ ・)識が人にの( ・ ・ ・ ・ ・)み向い( ・ ・ ・)ている( ・ ・ ・)――

 そんな中でこそ、僕のスキル『粘液』は輝くものだから――

 

「モード変化……『ねばねば』!」


 僕は叫んだ。

 人生で一番大きいぐらいの、ありったけの声で。

 すると……。


 ――ねっばあああああぁぁぁぁっ!


 あらかじめ(・ ・ ・ ・ ・)王の間の床( ・ ・ ・ ・ ・)中に広( ・ ・ ・)げていた( ・ ・ ・ ・)『粘液』が、一斉に、生き物のように立ち上がった。

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