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夢からは覚めれない

久寺彩薇とのデートは終わった。


だからこれは別の誰かの話。





 私はどこかできっと彼を待っていた。

だから私から水族館に行こうと誘ったの。

無理やり二人きりで行くことにして、彼を見てみたかったの。


揺れる茜色の空と瞳の中。

私は存在しないはずの記憶に彼と私の夢を見ていた。



8月28日


 朝の六時、早朝に彼女は駅の前で誰かを待っていた。

着込んでいない彼女にとっては少し肌寒いような日だった。

駅の前と言っても朝早い時間であるためとても静かで、青白い氷の中のよう。

自分の吐いた白い息さえも聞こえるほど、何も音がなかった。


そう、彼女が待っているのはこの作品の主人公である五行終人である。

彼女はデートの【三時間ほど前に】来ていたのだ。


 しかし、そこには彼が来た。

急に彼が来て驚いたからか、私は慌てて柱の裏に隠れた。

こんな時間に来るはずのない彼のことを眺めながら、足を踏み出そうとしたが、私は彼をからからうことにした。

彼を一人だけ思い上がって早く来た、ということにするために、私は予定時刻の通りに行こう。

そう思い、私は駅の中のカフェから、彼のことが見える席で彼の人間観察をしてみた。

スマホを見ていて私に気づきそうもない。私は笑みをこぼしていた……


はずもない。


何を否定しているかと言うと、全てに【そんなはずがない】のである。


いまだ状況は変わらず、朝六時半ごろ。

私は一連の妄想のようなものを見ていた。

私はおかしくなってしまったのか。

この場所に五行君なんて来ていない。私、何を見て……


「お姉さんは過去を見ているんだよ?」


そこに一人の少女が来た。

白く透明でお姫様みたいな幼い子ども。


「どうしたの? 私に何かようかしら?」


少女は微笑む、私が五行君をからかうときのような目だ。


「なんでこんなに朝早く、誰かを待ってるの?」


少女は楽しそうに聞いてくる。

私はからかわれることと、一般的な疑問であるそんな言葉にムカついてしまった。


「そうね、思い上がってたのは私かもね」



 クスッ

彼女がそう思うのも無理はないね。

彼女はそうやって生きてきたのだから。


久寺彩薇の父親は有名な企業の副社長、社長の娘ではなくても、ご令嬢のような裕福な生活をしていた。メイドはころころ変えていたし、自室から見える景色は都内有望の名所になれると思う。

そんな生活をしている彼女は、普通の生活から離されたのだ。

教えることもトップを目指すものだけ、思想も父一色に染まっていった。


そしてそんな父からは「他人のせいにするな、自分も関わったのなら全てお前の責任だ」と教育されたきた。「でも」や「だって」などと言うことも許されなかった彼女はどれほど悲しみが溜まってきたのかな?


「そっか、【でも】ね? 今回は彼が悪いと思うよ?」


「えっ?」


「今日見るものは本来の彼じゃないから、その妄想が正しいんだよ?」


「まって、なんで【彼】を待っているってわかるの?」


「彼は前回、そうやって早く来て君の意地悪を受けてたね、でも彼は未来を知っちゃったから、来てないんだよ?」


「まって、話が分からない」


「じゃあね、お姉ちゃんっ」


 そう言って少女は消えてった。

通り雨が抜けていったようだ。モヤモヤが止まらない。


 私が周りを見渡すとだんだん人が増えてきた。

あと待ち合わせまで一時間くらいだ。

私は駅の中のカフェで待つことにした。


 なんだか不思議な気分。

こうやって私はカフェで本当に時間を待ったことがある気がする。

さっきの妄想で見ていた景色とまったく同じ気がする。

でもその時は笑っていた、少なくとも今のような悲しい気分ではなかった。


あの妄想が現実になればいいのに。




【そうやって彼は早く来て、君の意地悪を受けてたね】


【その妄想が本来の彼だよ】


 ハッとした。

私は不気味な少女の言葉で起き上がった。

時刻は9時前を指しており、窓からは五行君の姿が見えた。


店を出て時間を計らって彼のもとに行く。


「あら? ちゃんと私より早く来ていたのね? それとも昨日からここにいたのかしら?」


「お前は新作のスマートフォンか」


相変わらずのツッコミ、私の格好もまじまじと見る。


「五行君?」


「そーだな……可愛いと思うな」


いつからこんな女たらしになったかは分からないけど、当然私の心には刺さった。


「そう? セクハラかしら?」


「僕の言葉には問題はないはずだけどな」


「そうね、言葉には問題はないわね」


いつものように五行君をからかう、不気味な少女にもしてやられたてたから、こうやって五行君と話せて楽しかった。 

だから私は少し落ち込んだ五行君の手を取ろうとしたが、【彼】を思い出してしまう。

また、少女の言葉も鮮明に思い出してしまった。


「じゃあ行きましょ?」


そう言って駅の改札に向かっていった。








 ……違う、この人じゃない。

私達の水族館デートは終わり、駅のホームで電車を待っている中、そんな理想を勝手に突き出してしまう。

五行君は五行君なのに、私が待っていた彼じゃない。


私が待っていた彼は私と同じくらい早くに来て、私に緊張しながらも勇気を出して連れて行ってくれる人。


本当に自分はおかしくなってしまったようだ。


疑いもなく五行君なのに、どこか全部ずれていて……。


どんどん自分が嫌いになっていく。

「自分が悪い」そう教訓が聞こえてくる。


 ホームには電車のメロディが流れ、帰りの電車がやってくる。

ガラガラの時間帯に乗った車内には空席が広がっていた。

私は頭を使いすぎたせいか、ころっと眠ってしまった。



再び彼に会う夢。

明日の夢。


急に彼に呼び出されて、屋上で彼と話をする。


ドキドキしてて、でも全然そんな話じゃなくて。


それで、あれ? 「失望させないで」って言ったんだっけ?


わからない


私が会った五行君はどっちなの?


今、隣で(うつむ)いた表情をしている五行君は悔しそう。

いや、私と楽しくおしゃべりをしている。


忘れてはいけない思い出はどっち?


わかんないよ。




 駅についた頃には、空も夕闇を呼んでいる。

私達はお互い空元気で挨拶をした。


そして私は心の中で最低な挨拶をした。




ごめんね、五行君、私はこっちが好き。







ご愛読ありがとうございます!

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めっちゃ更新遅すぎやね、謝罪

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