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五日後にまた繰り返せ 後編

順調に久寺彩薇とのデートを繰り返していた。

僕の不安な気持ちも彼女といるうちになくなっていく。

午前はもうすぐ切り替わろうとしていた。




「五行君は海の生物で何が好きなの?」


「ん、僕?」


「あなたはやっぱりナルシストだったようね」


「違う違う!今のは答えてない!」


イルカのショーにはぜひ立ち会いたいと懇願された僕は早めに席に座り、

何かが出てきそうな思わせぶりなステージを眺めていた。

それとさっきの質問については僕はどうも答えられない。

海の生物を味や強さなどで見ている僕にはうまく答えられなそうにないからだ。



 開演時間の10分前になると観客がぞろぞろと入ってきて、区切りのない座席はどんどん詰められる。

そして僕たちは肩が当たりそうなほど寄せ合っていた。

久寺は階段の横の端に座っており、僕は隣の人の膝がしつこく当たるほど詰め寄られていた。


「なあ久寺、ちょっとだけそっちに詰めてもいいか?少し窮屈なんだ」


「まあいいわ」


「すまんな」


そんな会話をしている時、イルカショーが始まった。

見事なものだった。

心を通わせたトレーナーとイルカ達は華麗なジャンプや泳ぎ、オットセイによる完成された芸も、アザラシのあざとらしい行動も多くの観客が沸いた。


僕は二回目でも、いや二回目の方が楽しめたといえる。

脚光を浴びる目の前のイルカの後ろでは次の指示をあたえている従業員や上から徐々に降りてくるバー。

こういうのを見ているとなぜか面白く感じる。

また、いくら音楽に合わせてイルカ達が飛ぶとわかっていても、普通はいつ来るのかわからない。

だが僕に関してはここのタイミングで一斉に飛び出すとわかっているから、写真とかもキレイに取れた。

知れば知るほど面白くなるというのはこの世のこと全てに当てはまるらしい。

前回は距離が近くてドキドキしながら見ていたけど、そんな緊張もあまりしなかった。



 イルカショーが終わるとぞろぞろと人が出ていったため、停滞していた。

満足そうにイルカ達を褒める反面、この渋滞に嫌気を差す人も少なくはなかった。

すると彼女は感想を述べた。どうやら褒める側の人間らしい。


「イルカは人のことをどう思っているのかしら?」


「僕らのことは別の魚とかと同等に見えているんじゃないか?」


「人魚のような存在ってことかしら」


「そうかもしれないな」


「なら馬は人間のことをケンタウロスのように思っているのかしら?」


「ケンタウロスに乗られるとは流石に思っていないだろ!?」


「考え方は一緒だもの、間違ってはないわ。なら人馬ってことになるわね」


「人魚が魚をビート板にしてるみたいなもんだぞ?」


「ならソリとかトナカイ?」


「それはケンタウロスじゃなくてセント・ニコラウスだな?サンタのモデルになったやつだろ?」


「五行君にしては物知りね」

ビクッとしたがそれとなく答える。


「まぁ、そういうこともあるんだよ…」


嘘だ。

僕は気になって前回の帰りの電車で調べていたんだ。

僕はてっきりケンタとサンタをかけているものと思っていたから、

ツッコミを絶妙にミスったのは地味に帰ってる時まで覚えていたのだ。

このセント・ニコラウスの返しには驚かれたようだ。

少し怪しまれたが気づくわけがない。僕はありえない世界を歩いているのだ。

足を止めてしまうとベルトコンベアのように後ろに引きずられていく。

そんな世界を生きているのだ。

明日にはまた何も知らない久寺に戻っている。

果たしてこのデートには意味があるのだろうか?

そんなことを思ってしまった。



 その後は昼食を取ることとなった。

お洒落なハワイアンのお店では綺麗な彩りの見た目と濃厚なお肉、

さっぱりとしたジュースやサラダなどを堪能し、甘いトロピカルなスイーツにも頬を踊らせた。

僕は前回二択で迷っていて選ばなかった方を頼み、再びこの日が訪れたことに感謝をした。

だからかいつもより「いただきます」を大きく言ってしまった。

久寺には水族館で生きたものを見た後だから命に深く感謝していると勘違いされたが、変なやつと思われなくて済んだからどうでもよいのである。もともと躍動していないサラダでさえ、動物の肉のように感じた。





 …僕は重大なミスを犯してしまった。

ついさっき心に決めた「楽しそうに見えない」というのを防ぐことについてだ。


揺れる電車の窓にはオレンジ色になった海が黒ずんでいく。

捨てられたビーチには数人の制服を着た学生たちが一組だけ遊んでいるのが見えた。


久寺は疲れたようすで途切れ途切れの会話を僕と打つ。

デートがうまく行かなかった証拠である。


そう、僕は失敗をしてしまった。

僕は逆に楽しみ過ぎたのだ。

テンションの違い、空気感の違いによる場読みをさせてしまったのだ。

また盛り上がる内容も違ったためだろう。


あの食事後、僕たちは隣接する遊園地で遊んだ。

目の前のことで気が付かなったんだ。

僕がハードな付き添いをさせてしまったことに。

これは面白かったやつだから乗ろうとか、逆に微妙なやつはさけようとか。

彼女のことをあまり考えなかったことが敗因である。


孔子の言葉には「過ぎたるは及ばざるが如し」というのがある。

楽しそうに見えないより、楽しそうすぎる方がよくない。

改めて僕は紙にその言葉を残そうと思う。

明日になると消えるから毎日書き続けよう。



 暗い電車はトンネルを抜けると窓には茜色の住宅を残す。

気づいたら寝ていた久寺はいつ起こそうか。

ガタンッと強く揺れた電車だったが、そのポニーテールは僕の肩に傾かなかった。




 夢見てる 揺れる尻尾は 肩向かず


五行、茜色になったしまった俳句である。









ご愛読ありがとうございます!

思ったより時間がかかってしまいすぐ更新できなかったんですけど、

なんとか一週間更新には間に合いました。セーフかな?

この作品を中心に活動をしていくので少しでも面白いと思ってくれたら

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