五日後にまた繰り返せ 前編
再び白い少女が現れ、瀬貝や久寺たちは事態がより深刻なことに気づく。
そして瀬貝は夜中に僕にメッセージを入れるが、明日のデートのことであまり内容が入ってこなかった。
なぜなら、久寺彩薇には帰り道、「明日のデートで失望させないでよ」と言われたからだ。
8月28日
僕はアラームによって起こされた。
27日の僕が仕掛けたものだ。
よく寝ようとし、僕はグッスリ寝たはずだが
体は27日の僕から明け渡されたらしい。
やはり、一日前に戻って行き続けている。
今日は久寺彩薇とのデートがあるため
僕は飛来駅前の広場で彼女が来るのを待っていた。
前回は早く来すぎていたため、彼女が来る五分ほど前に待ち合わせ場所を作っていた。
昨日は大降りの雨だったこともあり、地面は少し濡れている。
しかし、既にベンチにも座れるほどの日が差す晴天であった。
周りのベンチで待つ人たちは携帯をいじりながら、互いのことを誰も見向きもしない。
このことに気づく僕や携帯を危険視する評論家などは、
今では気づかないという当たり前の社会に飲み込まれていくのだ。
なぜなら、一種の職業病とも捉えられる彼らは個人的主張力の衰退に処されている。
多元的な意見の多数決である。結局平等というのも基準の多数決なのだ。
まぁ、何が言いたいのかと言うと、人という存在が見られづらくなったことだ。
人の自然的な動作として人間観察というのが外されたらしい。
僕は周りをじっとり見つめるが、僕に気づく人なんて誰もいないのである。
だが、そんな中で姿を見られるというのはきっとこういうやつのことだ。
「あら?ちゃんと私より早く来ていたのね?それとも昨日からここにいたのかしら?」
「お前は新作のスマートフォンか」
彼女が来たとき、周りの人は彼女に視線を向ける。
大人な雰囲気を漂わせるブラウスにかっこ良さを際立たせるキャップと、
揺らすポニーテールには誰もが興味を示したからだ。
それと同時に僕には冷たい視線が刺さっていた。
今回もまた、意外と涼しい日になりそうだ。
「五行君?」
そう言って分かりやすく僕に反応を求めている。
「そーだな…可愛いと思うな」
「そう?セクハラかしら?」
「僕の言葉には問題はないはずだけどな」
「そうね、言葉には問題はないわね」
どうやら言い方や表情がだめだったらしい…
変に照れてしまうのはしょうがないだろ?
これでも僕は顔に出さないようにしたんだ。
「じゃあ行きましょ?」
「お、おう」
そう言って彼女はは改札の方へ向かっていった。
普通の人からしたらなんの変哲もないことだが、僕は動揺を隠せなかった。
なぜなら、もう既に彼女の行動が前回と違うからだ。
前回のデートは最初から彼女の機嫌が良く、
僕の腕を引っ張って改札に向かい、笑顔を見せていたからだ。
つまり、彼女から笑顔を消した原因は僕の行動である。
一切の曇りのない晴天からは雫が落ち、水たまりに跳ねる。
水たまりは僕の背中と駅のホームを映していた。
電車ではなんともない会話が連続し、デートの始まりとしては十分な駆け出しであったが、
僕は先の行動の損失のこともあり、あまり緊張がほぐれない時間だった。
線路がトンネルを通り、点々とした光を抜けると星のように煌めく海が見えてきた。
しばらくすると、電車は駅につき僕は夏の空気に触れた。
潮風が仲睦まじく、夏の歓迎に謳歌する人々によってビーチは盛況していた。
一度夏が終わっている僕にとっては興が冷めたものであった。
僕は彼女に声をかけ、ビーチのあるソフトクリーム屋に寄り、
暑さを凌ぐ甘いソフトクリームを食べながら少し立ち止まった。
「う~ん!とても美味しいわね!」
「そうだな、今の夏は暑すぎるからな」
「流石に日差しが強いわね、五行君も所々黒くなっているわ…」
「そうだな、早く施設に入りたいよな?」
「五角形に黒くなっているわ」
「僕はいつから蹴られるようになったんだ?」
「いいでしょ?五行君は殴られるより蹴られる方が」
「どっちも嫌に決まっているだろ!?」
昨日から僕は人を蹴っ飛ばしたり、蹴っ飛ばされたりと決めつけられているが
僕にそんな趣味はない。みんな僕をどう思っているんだ。
でも少し笑顔を取り戻した彼女に僕は安堵する。
結局、彼女が今どう思うかが僕には大事なのだから。
その後、水族館に着いた僕たちは綺麗な水槽と空間を二人で歩く。
ゾンビにならないように意識をしながら、彼女とのデートを繰り返していた。
しかし今日最も意識しなければならないことはこの他でもない。
楽しそうに見えないというのを防ぐことだ。
この独特な雰囲気の空間には神秘的なものや美という造形を作り出す。
だがこの空間に慣れてしまったらどうだろう。
水槽の魚なんて家にいるメダカとそんな変わりはないのである。というのが僕の深層心理だ。
だからこそ本気で僕は楽しみに行く必要がある。
久寺は魚の生活や行動に僕たちと当てはめて楽しそうに鑑賞していた。
そう…そんなことを考えていなくても、僕は十分に楽しめる人と一緒にいたのだ。
彼女と覗き込む水槽からは光を放ち、ガラスには笑顔な僕らが見られるのだろう。
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