嬉しいものには花がある
夏のはじめに僕はある事件に首を突っ込んで、痛い目にあってしまった。
傷だらけで僕は学校へ向かうのである。
次の日の朝、それは思わぬ方向で僕を救ってくれた。
クラスでざわついた声がするのは、この女子が僕の前で腕を組んで立っていることだ。僕は読んでいた本を机に伏せ、彼女の方を見た。すると、
「ねえ、嫉妬した?それともあなたの優しさかしら?」
どうやら暗くて、よく見えなかったがこの前の女性は久寺彩薇であり、
そのことについて聞いてるのだろう。
なんだか、答え方を間違えてはいけないような雰囲気である。
「いや、世に対する怒りとかだよ」
「あら?そうなの?ふ~ん」
彼女は少し二ヤっとしながら僕を見る。
適当な返事過ぎたか、キモいと思われたのか。少し焦る。
「それにしても、あのサドルはちょっと怒り過ぎじゃない?」
ギクッとした。ちゃんと痛いとこを攻めてきて、傷が増えた気がする。
「……それはまじで反省してます……」
ヒーローもあんな懲らしめ方だったら、こどもが怪獣をかばいそうだ。
「でも私はそれなりに楽しめたわ。スポーツの観戦みたいに」
「それはちょっと盛り上がりすぎだろ」
「そうね、…ありがと」
これときの僕はめちゃめちゃ嬉しかった。
そしてさらに「お礼といっては、あれなのだけれど」と彼女は言った。
物をもらえると、授かれると考えると、僕は過去の僕を三回は褒めた。
いや、脳内で何万回と褒めたかも。
僕は少なくとも期待をしていた。
すると、彼女が机にポンと置いていったのはテニスボールであった。
場はシーンとなり、僕も超絶困惑した。
テニスボールは机をコロコロと転がっていき、彩薇という文字が見えた。
「ってこれ お前のサインボールじゃねえか!?」
期待の高まるペナルティエリアから放たれた期待というボールは、枠を大幅に外してボールボーイの僕の頭にぶつけた。何か分かったところで、なにこれ? となる。
「後輩が大会で優勝したときに、使ってたボールに私の名前を書いたのよ」
「てことはこれお前が書いたやつでもないのかよ……」
クラスではクスクスと笑い声がする、彼女の変な部分はわりと通常運転らしい。あの変人は髪をなびかせながら、友人の方へ向かう。
しかし、何を思ったのか僕は、そのサインボールを静かに鞄にしまって、心地よさげに席に座っていた。その日は家に着くと、部屋にそのボールを飾っていた。
なんかのためになるように。
ぶわっと、屋上に強烈な風が吹く。急に髪を抜けていく風とともに一つの疑問に気づく。
なぜ、僕は家で日付に気づかなかったのだろう。
朝のニュースや安物のデジタル時計、スマホの画面などチャンスはいくらでも合ったのに。僕の憂鬱は度が過ぎているのか、と簡単に納得をした。
野球部の活気のある声がしばらくすると聞こえなくなった。そろそろ、休憩に入るのではと思い、僕は天才であると認める瀬貝秋人に会うことにした。瀬貝なら、この現状をあっさり変えてくれると、現実的に助けてくれると思っていた。
体育館横には水道で頭を洗う野球部員や地面に寝っ転がり、パタパタと涼んでいる人で溢れていた。
そこにはぷはーっと爽やかに水筒を飲む瀬貝の姿があった。あいつは僕のことに気づいて、うれしそうな顔をする。
「よう!五行!今度はどんな話を持ってきたんだ?」
なんで毎回こいつは嬉しそうなんだ? まぁでも、なんだかんだ、こいつの話は一番納得ができて、多くの悩みを打ち解けたことがある。
この業界ではナンバーワンなのである。
「珍しく学校へ来て、屋上でもなんかやってなかったか?」
と瀬貝は落ち着いたようで興奮が見えるように言った。こいつ目がいいなあ。僕の姿がこっから見えたのか。もう何かに察している彼は目を輝かせて僕の返事を待った。
「今回ばかりは重大だ、瀬貝」
彼は黙って、僕を見る。
「実はさ……今日と明日をループしているはずなんだ。冗談とか嘘は言う気はなくてだな」
僕の焦ったような説明が理解を促したのか、平然と飲み込んでくれた。
彼の表情は驚きとニヤつき、どちらも僕を心配させるような顔をする。そして、彼はそっと顎を指で摘み、何処かを見つめるように考えている。……探偵のようだ。
でも僕は我慢できず、「どうすれば抜けられるんだ!」とか「助けてくれ」などと無気力に言う。瀬貝はうるさいと感じたであろうが、僕の気持ちを汲み取って不安にさせない表情をしてくれる。
そして……。
「そうだね、色々考えておいてやるよ」
と笑顔に言う。瀬貝の暖かさは心地の良いものだった。不安が少し和らいだ。
「そうだ五行、今日の晩ご飯はなんだ?」
「あ? えーと、スパゲッティだったかな」
「そうか! よかったじゃないか!」
「おい!なんの冗談だよ!、今のくだりいるか?」
「だって、カレーとかだったらしばらく、カレーだけになるところだったんじゃないか?」
「いや、毎日スパゲッティの方がやばいだろ? 多分」
彼は楽しそうに話す。今回ばかりは話が非現実的すぎて諦めたのか?
「まぁ、いまのくだりは必要だ、そうだな……明日また、ここで会おう。明日のこの時間はループしないんだろ?」と言われた。
そう、ループが起こるのは明日の31日に寝てからだから、まだ少し時間があるか? まぁ何かきっと考えついたんだと思う。そう言って彼はまた声を発してグランドに走っていく。
そして振り返って、別れを言った。
「じゃあな!また、今度っ!」
「あぁ、ありがとな!」
ミンミンゼミがしつこく鳴いている。 猛暑日になるのはこれからだ。
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