異世界では
放課後。アリカたちは憩いの場に集合しベースの話を聞くことになった。
朝ベースが作ったゲートの前でベースが話し出す。
「2つの異世界は僕たちと同じ性質の人がいるが、その状況に違いがある ってとこの説明から始めるよ」
と、ベースがいった瞬間、ゲートの中から二人の人が出てきたのだった。
「うぇ!?私!?」
そう。目の前にいたのはアリカとベースだったのだ。
これにはベースも予想外の出来事だったようで、マイクもベースもえ!?みたいな表情になっている。
「こんにちは!私はアリカーーーってえ!?私!?」
あっちの世界のアリカも目の前に自分がいることに驚いている。
「え!?てかマイク様....!?す、すみません...これはなんでもなくて.....」
異世界のアリカがマイクに目が留まるとそう言ってすぐに頭を下げた。
「え?????え?やっぱ分かっちゃう?俺の凄さ」
急な展開にマイクのナルシスト発動。
「と、とりあえず、状況の説明をして欲しい」
ベースが異世界のベースに話しかけた。
「え?いや、僕にはさっぱり!困ったことがあったらアリカに聞いてー!」
「「「!???」」」
どうやらあっちの世界のベースはバカのようだ。
「説明は私がするわ。実は私たちの世界ではマイクはとても恐ろしい人で.....使用人たちに毎日暴力を振るうだけではなく、私たちを奴隷として利用していたのです。しかも今ではほとんどの国が彼の手の中にあるわ」
異世界のアリカが説明を入れてくれた。
「マジかよ.....」
そんなことを聞かされ、マイクとしてはとても気まずい。
「つまり君たちはそこから逃げてきたってことかい?」
ベースが質問する。
「ええそうよ。でももっと言えば私たちはあなたたちにマイクを殺してもらいにきたのよ」
ビクッとマイクの肩が揺れる。
「私たちは独裁的なマイクを殺すために立ち上がった組織の一員よ。初めは私のお父さんがリーダーだったけれど、お父さんはあの忌々しいマイクの手によって殺されたわ。そもそも彼は自らの父を殺して王の座を手に入れたのよ」
思ったよりも随分極悪非道なようだ。
「別の世界では俺が.....」
異世界の自分だとは言え、たくさんの人に憎まれている事実、そして、お父さんを自分が殺したという話にマイクは動揺が隠せなかった。
「大丈夫?」
様子を見てアリカとベースがマイクの肩に手を置いた。
「どうやら、人の生死もリンクしているみたいだな」
ベースがつぶやく。
「ってことは...?」
「こっちではベルターは強すぎる力に暴走し、私が殺したわ」
言いにくそうにアリカが言う。前世はアイスビーンだったこともあり、たくさん人は殺してしまったことがある。でも、やはり自分の手が汚れてしまっていることはすごく悲しかった。
「そのベルターが俺たちの父であるダンラを殺している」
マイクが言葉を繋げた。
「そんな...!お父さんが.....異世界というのはこんなにも違うのね」
微妙な空気が流れる中、ベースが口を開いた。
「でも僕たちに協力を依頼するってのはどういうことなの?」
こっちの世界では異世界術は全然発達しておらず、それこそ異世界術の龍であるトーグでもなければ、自由に移動することなど不可能なのだ。
「マイクは異世界を狙っているわ。ここともう一つの方もね。
始め、異世界術は全然発達していなかったの。でもマイクがあらゆる勇者や魔法使いに異世界への技術を発達させたのよ」
ここでいう魔法使いとは、生まれた時から魔法が使える稀有な存在。世界に魔法が浸透しているのだから、使える存在が出てきてもおかしくはないということだ。
「こっちも危ないってことね.....」
「そうよ」
「じゃあ俺たちも協力するぜ!!」
ことがとんとん拍子に進みそうな時、ベースが聞いた。
「でもだとすると、その異世界のマイクの目的はなんなんだ?」
一般的に国が戦争を起こすのは、なんらかの敵と衝突したからだ。だが、話を聞くに異世界のマイクは戦う相手がいないどころか、そもそも民を大切にしているようには思えない。また、異世界に衝突する敵などいるのだろうか。
「それは私たちにもわからないわ。でもどちらにしろ彼は異世界を狙っている。こことは違う別の異世界でも異世界術は発達していなくて、自由に移動できる技術があるのは私たちの世界だけよ」
「分かった。僕たちはできる限り協力しよう」
そういうと、アリカとベースはあっちの世界に帰って行った。
「一応、異世界の話の続きだね。さっきのを見ればわかると思うけど、異世界では簡単に言えば見た目は同じだけど、頭の良さとか強さ、多分性格とかも違うんだと思う」
「なるほど」
「あと、今日の朝言ったのは、互いにあっちの世界から見ても僕たちの世界ともう一つの世界しか移動はできないってことだ」
「異世界は三つした会ってことか?」
マイクが意外と頭が良くなっている新事実.....
「いや、多分もっとある。けど、僕たちの世界と他の二つの世界では互いに二つしか移動できないってとこだと思う」
例えば始まりの龍種たちが転生してた異世界や、トーグが物を転送してきた異世界は別に存在するが、人間の移動となると、近い二つの世界しか不可能ということらしい。
「あと、もう一つ。言い忘れてたけど、異世界と始まりの龍種の魂だけはリンクしない」
「え?あっそうか!」
ライが魂を削ってまで異世界から兄弟を呼ぶしかなかったな、とアリカは思い出した。
それとは別に始まりの龍種だけが、異世界と魂が重複しないのは彼らだけが異世界を超えられる存在だからである。
「じゃあ私は...?」
アリカには始まりの龍種であるアイラの魂が入っている。
「多分あっちではアリカはただの人という扱いだと思う」
確かに話に龍種のことが全く出てこなかった。
そういえばアリカはアイラとして覚醒してから、アイスビーンの力を失った。アイラは人間魔法の龍だが、アイスビーンはセリステの眷属の水の龍だから、おそらく、同じ人間が二つ以上の魔法を精密に使うことは不可能なのだろう。
無論、基礎程度なら習得可能ではあるが。
要するに今のアリカは人を人間魔法で治癒することはできるが、水の力で人の心を読んだり戦うことはもうできないのである。
「じゃあ、あっちの世界にはライたちはいないってことか?」
「そうなるね」
「じゃあリシャさんたちにも一緒に戦ってもらうのはどうかな?」
「いいな!」
ということで龍種たちに会いに行くことになった。
*********************
(あれから、お父さんは元気だろうか)
自室の机に座り、ライはそんなことを考える。
壁にはウェジラータを復活させようと躍起にやっていたころの資料や地図がたくさん貼ってある。
最後の戦いの時、ウェジラータはライ達を裏切った。
本当は家族などどうでも良かったと言った。
だが、最後の最後にライがウェジラータのトドメを打つことになって、お父さんは言ったのだ。
ライ…みんなゴメンな って。
それを聞いて、もうお父さんを殺すことができなかった。
きっとトドメは打てていない。ウェジラータの肉体が破壊されようと魂は壊しきれていなかったのだ。
そしてここ最近、その魂を強く感知するようになった。
外では相変わらずデイがリシャに言い寄っていて、走って逃げるリシャとセリステとトーグが笑い合っている声が聞こえる。
みんなは久しぶりの兄弟の再会に心を躍らせているのだろう。
ライもそう思ってる。
ただ、ライは今までずっとお父さんを復活させるために生きてきた。
だから、お父さんに会いたかった。