マイク
「クッ、」
「ヒール!」
「サンダーストライク! チッ、当たんねぇーか」
「マイク横!」
「おう!」
「しゃがめ!」
シュッ
そんなこんなでひたすら戦いを続けていた。
異世界のマイクの方は魔法を連発し、マイクに大量のダメージを与えているが、その都度アリカが治している。
マイクの方も異世界のマイクに攻撃は当たってはいるが、かすり傷程度だった。
(でもかすり傷にすらヒールを使わないあたり、この人は異世界術と人間魔法は使えないのか?)
異世界のベースから聞いた全属性の魔法を使えるといる話も、物理的な魔法だけを指しているのだろう。
そうなれば、敵のマイクに致命傷を与えれば、戦闘不能にできるはずである。
『こっちはマイクの多すぎる体力とアリカのヒールで耐久戦に持ち込めれば勝てる』
ベースが考えた作戦である。
そのため、強い決定打を与える必要はなく、敵の連発する魔法に耐え続け、体力が切れるのを待つのだ。
「お前、王なのに戦うんだな。お前が死んだら国はめちゃくちゃになるのにな」
「何をっ、、、!?」
敵の煽りにマイクが一瞬反応してしまう。
「サンダーストライク!!」
そこにすかさず魔法を打ち込まれる。
「うおっ!」
マイクは避けるも体制を崩した。
そして、マイクが魔法を避けた先にはすでに生身の地面があった。
「アイビーグロース!!」
「うわっ!」
ついにマイクの動きが封じられた。
「やっと捕まえたぜ」
「くそっ動けねぇ」
異世界のマイクは剣を抜く。そして、マイクの首筋に近づけた。軽く剣先が当たり、血が流れる。
瞬時にアリカが治すが、マイクがそこから抜け出すことは難しいだろう。
「これから何十回もぶっ刺してやるぜ。いつになったら死ぬのかな!?」
「くっ!」
マイクは治療されてはいるが、痛みは蓄積する。
異世界のマイクはここから拷問まがいのことをするつもりだ。
さらに、アリカも体力が限界に近づいているのか、さっきから、マイクへのヒールの回復速度が遅くなっていた。
(やばい、どうする?マイクを助けようにも僕たちじゃ、あの人に勝てない!そもそも、マイクが捕まっている今、僕たち全員の生殺与奪の権を握られている、、、!)
今まではアリカは魔法を使い、マイクと一緒に戦う時は前線を張っていた。しかし、アリカの水魔法が使えなくなった以上、アリカには前線として戦える戦闘能力はない。
ゆえに、ベースやアリカを狙った攻撃は全てマイクが受け止め、攻撃を防いでいた。
マイクが動かないということは、今からでも簡単に魔法を打ち込まれる可能性がある。マイクのような身体能力がない二人は瞬殺かもしれない。
(どうすればいいの!?私が水魔法を使えれば、マイクを助けに行けるのに!)
すると、ふとベースの言っていた言葉を思い出した。
『重要なのは感覚なんだ』
(感覚を知覚すれば、魔法が使えるのなら、水魔法を一度使っていたことがある私なら、もう一度使えるんじゃないかしら?)
強く息を吸ってマイクの方を見る。
指先に意識を集中させて身体中の力を一つにする感覚。
「アスプリットウォーター」
水を千倍まで凝縮した水魔法の奥義の魔法である。
「何っ!?」
魔法は異世界のマイクの顔をかすめた。
「私も戦えるようになったわ」
「うおおおおおおおお!!」
「どうやって使えるようにしたの?」
「感覚なのよ!大切なのはね!」
「チッ」
ベースは再び作戦を考え始めた。
(最初の一回からあいつはアリカのことを狙ってない。口ぶりから見てもアリカを殺そうとするとは思えないから、アリカが直接戦えばやりにくいだろう)
しかし、そんなベースの予想も裏腹に
ウォータースピアでマイクに絡みつくツタを切ったアリカに、異世界のマイクは剣を拾い、向かってきた。
アリカは、マイクが動くまでに時間がかかる今、処理したほうがいいと判断したのだろう。
マイクも後を追うがアリカに到達するまでには追いつけない。
「やばあ!ウォータースピア!」
アスプリットウォーターはその扱いの難しさ故、攻撃をするまでに時間がかかってしまうのが難点なのだ。
シュッ
マイクの剣が頬を掠める。
「ひびったー、、ヒール」
しかし、、、
「あれ?治らない!ヒール!!ヒール!!!!」
「どうしたんだ?」
「ヒールが使えなくなってるわ!」
おそらく、アリカの場合、同時に複数の魔法を使えるわけではなく、使える魔法を切り替えられるようになったと言うことなのだろう。
そして、肌で感じるにそれは短い時間じゃない。要するに、
「もうここではヒールは使えないわ。気を引き締めて」
だが、アリカが水魔法を使えるようになった今、ベースの指示と合わせて異世界のマイクを倒せそうだ。
「一応確認だが、殺しちゃダメだよな?」
「うん、できれば動けない状態にしたい、、」
「でもそんなことってできるの?」
「舐めるなよ! サンダーストライク!」
至近距離のアリカを狙った攻撃だ。
水魔法は感電の関係で雷魔法と相性が悪い。
「ひっ、、!」
だが、攻撃がアリカに当たることはなかった。
(外したのかな、、、?)
「お前は最後のお楽しみだ」
ニヤリと笑ってそう言った。
ゾクっとして、アリカは再び戦闘に構えた。
「舐められてもらっちゃ困るわね!ウォーターセンガー!!」
あたり一面に薄く水が湧き出て、敵味方問わずびしょ濡れになる。
「これで雷魔法はもう使えないわね!」
「うおー!!あったまいい!!」
敵も濡れている今、雷魔法を使えば自分も感電してしまうからだ。
「よし、行くわよ!」
「アリカは右、マイクは左から攻めろ!地の攻撃は出来るだけ避けて、仲間が捕まった場合は解放することを最優先に!」
「「了解!!」」
ベースの指示に従い、二人は攻撃を仕掛けた。
魔法を連発していた異世界のマイクの体力はもうほとんど残っていなかった。そして、ヒールの連発にアスプリットウォーターまで打ったアリカも同様だ。
だが、この状況でも体力お化けのマイクはいつも通りに動けていた。
「くそっ、!」
(雷魔法が使えない今、あいつは僕たちに致命傷を与える一手が剣しか残っていない!もうすぐ勝てるぞ!)
そして、、、
「うおおおおおおお!!」
マイクの剣が敵の足に当たり、倒れた。
マイクは、異世界のマイクを押し倒し、剣の切れないところで首を押し付けている。
「ナイス!後はこいつを縛って、、、!」
「くそっ、、!!!はあ、はあ、はあ、、、!!」
しかし、異世界のマイクはマイクの剣の下に手を回し、押し返そうとする。
「マイク押さえて!」
言われるまでもなくマイクはずっと力をかけている。
しかし、押し戻さない。
「嘘でしょ!?」
「マイク、鋭い部分にするんだ」
「おう」
マイクは剣の角度を変え、切れるところを押しつける。
異世界のマイクの手からは血が流れた。
「ここまできてなんで抵抗するんだよ!」
「お前らには関係ねぇ!! くっ、ははは!!
なあ、お前、もし俺の力がここで切れて、急に手を離したら、お前の剣は俺の首を切って、お前は人殺しだな」
「っ!」
一瞬、敵の喉を掠めていたマイクの剣が、弱まった。
その瞬間に異世界のマイクはマイクを押し返し、剣をとる。
しかし、足が怪我をしていて立ち上がれない。
「チッ、ヒール!」
敵はヒールを使った。
「使えないんじゃなかったのか!?」
(ヒールは使う体力が多いから、擦り傷には使わなかったってこと!?でも、だとすれば、、、)
「もう動く体力すら残っていないはずだ」
「ははっ!それはどうかな!」
「サンダーストライク!!!」
自分の残った体力と足りない力の限界を超えて至近距離から、それを打ち込んだ。
水で濡れているため、全員に激痛が走る。そして、体が動かなくなった。
「はあ、はあ、はあ、はあ、、!!」
異世界のマイクは剣を握りしめて、、、、
バタッ
そのまま、倒れ込み動くことは無くなった。
「俺は生きてるから、、、こいつもまだ生きてんのか?」
「とりあえず、手足を縛っておきましょう」
「危なかったな、、!」
ベースはふと思った。
「なんでアリカさんたちは僕たちに協力を依頼したんだろう」
「え?」
「だって、異世界間で生死が共通することに僕たちが気付いたら、異世界のマイクを殺すことを阻止してくると思わない?」
「そういえば、ベースを探しに行ってた時に、アリカさんが互いに互いの世界のマイクを殺すよう持ちかけるつもりだったって言ってたよ」
「そう、まさか俺たちが仲良いって知らなかったみたいで」
「え?今なんて言った、、?」
「「え?」」
「互いの世界で互いのマイクを殺すよう言ったってことは、敵のマイクを殺すためには、僕たちの世界のマイクも殺す必要があるからだ。つまり、僕たちが思うようにどこかの世界で人が死んだら他の二つの世界でも死ぬってことじゃなくて、三つの世界全てで死に瀕した時、初めて全ての世界で同時にその人が死ぬってことなんじゃ、、、」
そんなことを話していると、
グサッ
「え?」
マイクは後ろから剣で刺されている。
その先にいたのは
「ごめんなさいね!アリカに言われたので!!」
異世界のベースだ。無論、今ある世界、つまり闇落ちマイクの世界のベースだ。
「くっ、!」
マイクは一瞬で異世界のベースを振り解き、剣を抜く。
「うがっ、、!」
マイクの腹から血がボタボタと流れ落ちた。
「何が、、?」
動けないでいる三人の前に
「うわあああああああ!!!」
異世界のアリカがやってきて、気絶している異世界のマイクに剣を刺した、何回も。
「死ね!死ね死ね!!!お父さんの仇め!!!!」
何が起こったのか。
「うがっ、、、!!」
その瞬間、こっちのマイクも倒れ込み、動かなくなった。
「ヒール!!ヒール!!!!」
アリカが叫ぶももう使えない。
「あの男を殺すためにはあなたたちのマイクも殺すしかなかったわ。今まで騙していてごめんなさいね」
そう言って異世界の二人は立ち去った。




