表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

2.通路の発見、及びその性能と制限

(うおおおおおおっ!やべえっ!絶対やべえっ!)


 その日の朝、班目谷は猛烈に焦っていた。もともと朝が弱く、始業時間ギリギリで出社することが多かったのだが、なんとか遅刻だけはせずに凌いでいた。


 ところが、先週とうとう間に合わず遅刻してしまった。それも1度ならず2度だ。


(さすがに今日遅刻したら減給もあり得る!いやあの課長なら絶対やる!)


 アパートを飛び出し、全力疾走しようとするがなかなか進めない。立地の都合で、この時間帯は班目谷と逆方向に歩いている人が圧倒的に多いのだ。


(くそっ!何とか早くこの流れから抜けないと!)


 そんな班目谷に近所の建物のドアが目に入った。前に利用した誰かがきちんと閉めなかったのか、それは少し開いていた。


(……!そうだ!この建物の中を抜ければ!)


 この建物は南北に長く、この中を抜ければ、このまま道路を走るより早く1条分南側の通りに出られるはずだし、そこに出てしまえばこことは逆に人の流れに乗って早く最寄りの地下鉄駅に着ける。


(何の建物か知らんが少なくとも民家ではないし、不法侵入にはならんだろ!)


 ためらってる時間は無い。ドアを開けて飛び込むと狭い廊下になっていて、どこかの部屋に入るドアさえ見当たらない中を不安に思いながら走っていく。


(何だこの建物?迷路か?でも今更引き返せねえ!)


 建物の北西側のドアから入った班目谷は少しでも会社の近くのドアから出ようと建物の南東と思しき方角に向かって何度か廊下を曲がりながら走った。


 そしてついに突き当りにドアが見えた。それを押し開けて飛び出す。


「……は!?」


 一瞬そこがどこだか分からなかった。

 が、やがてそれが自分の勤める会社の入っているビルの地下で、自分が開けているのが、そこに設置された自販機であることを理解した。

 幸い、まだ売店も食堂も開いていないこんな時間にここに来る人間はいないので、班目谷が自販機から飛び出すところを目撃されることはなかった。


「間に合った……のか?」


 ともかくその日は遅刻せずに出社できたのだった。


 ◇◆◇


「で、まあ、それ以来、遅刻しそうになるたびにこの『近道』を利用していたんですが」


「ちょっと確認したいんだが、その建物の1階からこの地下の自販機に出たのか?途中で階段降りたりとか無かったのか?」


「無かったすよ」


「さっきの話だと、そう長く走ったわけじゃないのか?」


「廊下が変に曲がりくねってましたんで正確なとこは分かんないっすけど、まあ、普通にその建物の1フロアを走った感じっすかね、出勤時刻の記録から逆算して1~2分じゃないっすか」


「それ絶対おかしいだろう!?お前のアパートから会社まで走ったらその10倍は掛かるんじゃないか!?」


「実際普通に走ったら途中地下鉄使っても20分掛かりますね」


「とりあえず俺には理解不能なのは分かった……いわば『行先限定ど〇でもドア』っつーか、ファンタジーに出てくる空間転移通路みたいなもんかな」


「まあ、登記を確認したら土地も建物も所有者がいないことにはなってたんで誰かに見つかっても不法侵入で怒られることはなさそうっすよ」


「そういう問題かよ……あ、これこっちから開けた時も繋がるのか?」


「いえ、一回閉じちゃうとこっちからは開けられませんでしたね。だからさっき閉じないようにそこの空き缶を挟んどいたんっすけど」


「まあ、そうだよな。俺、普通にこの自販機使ってるし、扉開けて商品の補充してるとこも見てるし」


 今はその商品が詰まっているはずの所が通路になってしまっているが。


「しかしまあ、便利な通路みつけたよなあ……俺も通勤だりい時は利用させてもらうわ」


 俺の通勤路からは道路1本ずれてる立地だが、それでも普通に通勤するよりは時間も体力も節約できるだろう。


「はあ、そんじゃせっかくこうやって開けていたことっすし。ここ通って戻りますか」


「ん?こっちからは開かなかったって言ってたよな?ちゃんとお前のアパート近くに出るのか?」


「大丈夫っすよ。今回みたいに夜に忘れ物に気付いてここ通ったときに物挟んで閉じないようにして、帰りも通ったことは何回かあるっす。ちゃんと元のドアから出ましたよ」


 その後、通路を通って外に出ると、言ったとおり班目谷のアパートの近くに出た。正直通路を歩いている間は不安もあったのだが。


「じゃ、お疲れ様っしたー」


 と挨拶して帰っていく班目谷の左右バラバラのスニーカーが目に入り、緊張の解けた俺は思わず吹き出しながらその後ろ姿を見送った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ