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川越え

それから僕らは、歩いたり戦ったりしていた。

太陽はときどき雲に隠れて出てと言った様子だ。

もう一泊野宿をして、太陽が空高く昇るころに、僕らは大きな川のほとりに着いた。

おそらくこれがフォート川だろう。

でも橋がどこにも見当たらない。

それもそうか。

この川は王都を護る川なのだ。

橋をかければ、王都に攻め込まれやすくなってしまう。

それならば、どうやって渡ればいいのだろう?

ナギさんは周囲を見渡していたが、やがてなにかに気づいたような声を上げた。

「あ、あった。きっとあれだね」


 彼女の視線の先には、粗末だが割と大きな小屋がある。

でも、川を渡ることとこの小屋があることとの関連性が見いだせない。

疑問符を頭に浮かべたままの僕をよそに、ナギさんは小屋の前まで進み、勢いよくドアをたたいた。

「すみませーん! お願いできますか?」

 彼女の声に応じるようにドアは開き、中からひとりの男が出てきた。

髪は短く刈られており、はちまきのような布を頭に巻いている。

問題なのは、その体型だ。本当に僕と同じ人種の同性だろうかと疑いたくなるほどに、筋肉が発達している。

男はナギさんに尋ねた。

「姉ちゃん、川を渡りてぇのか?」

「はい、そこの彼とふたり、お願いします」

「金はあるか?」

「ええ」

 ナギさんは財布からいくらか出して、はちまき男に渡した。

男はそれを数え終わると、ドアの向こうに声をかけた。


「お客さんだ。ふたり、出てきてくれ」

 重い足音とともに、はちまき男と同じような体形の男がふたり、出てきた。

ひとりは坊主で、かなり日に焼けている。

もうひとりはバンダナを頭に巻き、黒っぽい袖なしのシャツを着ている。

坊主の男はつかつかと僕の方に歩いてくると、行くぜとかなんとか言うと、いきなり僕を持ち上げた。

「うわっ」

 僕は軽く叫び声をあげたが、坊主男はそんなことお構いなしに僕を肩車すると、川の方に向けて歩いて行った。

僕は驚愕のひと言しか、頭に浮かばなかった。

まさか大人になってから肩車をされるなんて、予想外すぎる。

僕はまさか引き返すとも言えず、男のなすがままになっていた。

前方を見ると、ナギさんも僕と同じようにバンダナ男に肩車されている。

これが話に聞く川越え人足かと、僕はようやく合点がいった。

でも普段見慣れない視点の上に、結構揺れるので、かなり怖い。

僕は男の頭にしがみついていた。


「俺、そっちの姉ちゃんのほうがよかったな」

「いいじゃねえか。そっちの兄ちゃんだって、そんなに重くねえだろ?」

「まあな」

 坊主男とバンダナ男は、そんな会話をしながら大声で笑いあっている。

僕はいつまでこの状態でいなければいけないのか、いつ川を越え終わるのか不安で、早く時が過ぎてくれるよう祈っていた。

迷うのが嫌でエピスティアの神殿に参らなかったのがいけないのか。

いや、旅の安全を祈願するならば、学者や魔法使いを庇護下に置くエピスティア女神ではなくて、旅人の守護神の方に祈るべきか。

僕はそこまで考えて、肝心の神の名前が全然出てこないことに気づいた。

名前が思い出せないなら、祈りようがない。

そのうち僕は、子供のころに偏食をしてごめんなさい、

両親に心配をかけてごめんなさいと、

過去の行ないの懺悔まで始めてしまった。

そうこうしていると、不意に坊主男が言った。

「着いたぞ」


 見ると、確かに坊主男は川から上がっている。

「あ、は、はい。ありがとうございます」

 坊主男はやっとのことで絞り出した僕のお礼を聞くと、僕をゆっくりとおろした。

ナギさんの方を見ると、彼女はすでに下に降りていた。

「じゃあな」

「気をつけろよ」

 坊主男とバンダナ男は、僕らにそう声をかけるとこちら側にもある、先ほどと同じような小屋に入っていった。

ナギさんは彼らに手を振っていたが、ふたりが小屋に入るのを見届けると、僕に声をかけた。

「じゃ、行こうか」

 僕はさっき川を越えたときの揺れで、かなりビビっていたが、やっとの思いでうなずいた。

空を見上げると、だいぶ雲が広がっていたが、僕はナギさんの後をついて進んでいった。

この先も川があって、またあんな思いをしなきゃいけないんだろうか?

そう考えて僕は、疲れが一気に襲ってくるのを感じた。

でもここで遅れをとって、ひとりきりでこんなところに取り残されるのはもっと困る。

僕はなんとか自分を奮い立たせて、ナギさんに遅れないようにした。

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