表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

野宿の一夜

「今日はここまでかな。

ここで野宿だね」

 沈んでいく太陽を見ながら、ナギさんが言った。

そうだった。野宿の可能性を、僕は全く考えていなかった。

でも確かに、ソーサリーからテンプルまで、不眠不休で歩き続けるわけにはいかない。

どうすればいいんだろう?

「つっ立ってないで、枯れ枝や枯葉を集めるのを手伝ってくれる?

できるだけ乾いたものがいいな」

 ナギさんがもう見慣れたあきれ顔で僕を見ていた。

状況を理解していない僕を見かねたのか、彼女は続けた。

「モンスター除けに、夜通し火を燃やし続けるの。

それで、交代で火を見張ろう」


 そういう意味か。僕はやっと合点がいって、なるべく乾燥した枯れ枝や枯葉を集め始めた。

ある程度枯れ枝や枯葉が集まると、ナギさんはその小山に火打石で火をつけた。

あたりを見ると、もう一番星が輝いている。

星を指して、ナギさんは言った。

「あの星が一番高いところに来るまで、あたしが火の番をするよ。

ダグラスはしばらく寝ていて。順番が来たら起こすから」

「わかった。ありがとう」

 僕はそう返すと、その場に横になった。


しかし疲れているはずなのに、眠気はなかなか訪れない。

当たり前だ、昨日までふかふかのベッドでしか眠ったことのない人間が、そう簡単に野外で眠れるはずがない。

しかもここは、火を燃やしているとはいえ、いつモンスターに襲われるかわからない場所だ。

でもナギさんとなにか話をすることもできそうにないし、彼女に心配をかけたくもないので、僕は目を閉じてこれまで読んだ本の内容について考えていた。

魔法の分類、系統、それぞれの特性、魔法史に名を残した偉人達。

単語がバラバラに頭に浮かぶだけで、深く考えることはできない。

やっぱりこの先のことが不安だ。

ナギさんがいくら強いとは言っても、大型のモンスターが相手となれば、どうなるかわからない。

僕は気づかれないように大きく息を吐いた。

そうすると緊張がほぐれたのか、今まで意識していなかった疲労感が一気に押し寄せてきた。


 「ダグラス、起きて。時間だよ」

 ナギさんの声がした。

僕はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

環境が変わったとはいえ、疲れていたのだから当然と言えば当然だ。

僕を揺り起こすナギさんの手つきは、ひどく優しい。

彼女がいつもそうなのか、僕に対する思いやりからそうしているのかはわからない。

だけど、できれば後者だと思いたい。

旅の仲間が自分を思いやってくれていると考えた方が、なんとなくうれしいからだ。

僕はゆっくりと起き上がって言った。

「どうすればいい?」

「ただ火を見張ってくれればいいよ。

でももしも、周囲に燃え広がりそうだったら、その時は急いで消して。

土をかけてもいいけど、あんたの場合は、水の魔法の方が早いかも」

 ナギさんはそれだけ言うと、夜明けまでよろしくと付け足してさっさと横になってしまった。


僕は不安だった。なにしろ野宿なんて初めての経験だ。

もしもモンスターが襲ってきたら?

火が燃え広がってしまったら?

心配の種は尽きない。

でもナギさんは、もうすでに小さな寝息を立てている。

そうだ、彼女だって疲れているんだ。

しかも僕とは違って、ひとりでソーサリーまで旅をしてきたんだ。

その間に野宿をしたときは、ろくに眠れなかったに違いない。

なるべくこの人に迷惑をかけてはいけない。

僕は夜明けまで、ひとりで持ちこたえなければいけない。


あたりは真っ暗で、視界は恐ろしく狭い。

今にも暗闇から、モンスターや盗賊が出てきそうだ。

火にあたっているはずなのに、僕は寒気がした。

ぼんやりと空を眺めてみるが、星はまたたくばかりで少しも動いていないように見える。

時間が過ぎるのが、ひどく遅く感じる。

ナギさんを起こしたい。そしてなにか話をして、夜明けまでの時間をやり過ごしたい。

僕は何度も、そうしたい衝動にかられたが、必死にこらえた。

頼みの綱のナギさんが、翌朝に寝不足だということになれば、まともに戦えない可能性が高い。

そうなったら僕らふたりきりのパーティは、かなりまずいことになる。

絶対にダメだ。

しっかりしろ、ダグラス・ソーンダイク。

僕がそんな風にひたすら考えていると、空の下の方がほのかに明るくなってきた。

本当は朝日が昇るまで待った方がよかったのだろうけど、僕はこれ以上耐え切れなくなって、ナギさんを揺り起こした。

「んー、おはよう。大丈夫だったみたいだね」

 ナギさんは大きく伸びをしながらそう言った。


それから彼女は、道具袋の中を探って携帯食を出した。

僕は差し出されたものをそのまま受け取り、今度はかぶりついた。

緊張感が一気にほどけて、空腹感がひどかったのだ。

ナギさんは慣れた調子で携帯食を食べ終わってから、僕に言った。

「よく頑張ったね。

本当はあたしがずっと起きていられたら、よかったのかもしれないけれど。

でもさすがに寝不足で歩くのは、あたしもツラいからね」

「無理しなくていい」

 僕はなんと返したらいいのかわからず、ぶっきらぼうにそう言った。


色々教えてもらったのだから、もう少し感謝したほうがよかったかもしれないと、言ってから後悔した。

ナギさんはやはり、僕の後悔など知らないような顔で、ひと晩中燃やしていた焚火に土をかけていた。

「じゃ、行こうか」

 火を消し終わって、ナギさんが言った。

あたりは少しずつ明るくなり始めている。

僕もようやく腰を上げ、彼女の後に続いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ