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報酬の使い道

次の瞬間、僕はあることに思い至り、それを口にした。

「ねえ、また本を探していい?」

 ふたりの視線がこちらに向く。

また変なことを言ってしまったのだろうか。


「いいよ」

「いいの、ナギさん?」

「うん。

あんたは本のために、家から出てきたようなものだからね」

「本代はどうするのですか?」

 ステラさんが急にそう口を挟んだので、僕らは彼女を見た。

ちょっと不満げな顔をしている。

でも、金なら当てがあるぞ。


「王宮からの報酬。

どうせ3人で分けるんじゃないの?」

「まあ、それはそうですが、後悔はないですか」

「全然」

 そのときの僕は、いくらか誇らしげだったと思う。

王宮からの報酬を本につぎ込む。

これ以上の使い道があるだろうか。

そんな僕の様子を見て、ナギさんが決意したように口を開いた。


「ねえステラ、あたしの買い物につき合ってくれない?

お母さんにお土産を買いたいんだ。

ダグラスの本探しには、どのみちあたしはつき合えないし」


「いいですよ。

私は自分の取り分をそっくり残しておくつもりですけれど」

「お父さんになにか買わないの?」

「その父のためですよ。

その、なんと言うか、過去の過ちへの迷惑料といいますか」


 急にステラさんの歯切れが悪くなった。

ナギさんはおずおずと尋ねた。

「ステラがお金に細かいのって、もしかしてお父さんのため?」

「ええ。それもありますし、過去の悪行への償いはまだ済んでいないのですよ」


 ステラさんはきまり悪そうにしている。

罪を犯した過去は、そう簡単に拭い去れるものではないらしい。

ナギさんは小さく、そうなんだとだけ返した。

そしてナギさんは話題を変えようと、不自然なほど明るい声を出した。


「あたし、あんたが昔の魔王でしょって、師匠を問い詰めようかな。

あ、やっぱダメダメ。

師匠には恩があるからね」

「どういうことですか?」

「ん、モンスター退治の仕事って男ばかりだから、あたしのことを変な目で見る奴もいるんだ。

で、そのたびに師匠に助けてもらっていたんだよね」

「ああ、そういうわけですか」


 ナギさんとステラさんのそんな話を聞いて、僕はナギさんと初めて野宿したときの疑問を思い出した。

ナギさんは僕のことも、そういう男たちと同じだと思っていたのだろうか。

「ねえ、僕のことはどう思っていた?」

 よみがえった疑問が、思わず口をついて出た。

ナギさんはぎょっとした顔で、僕を見返した。


「あんた、いきなりなんなの?

あんたもあたしをいやらしい目で見ていたっていうわけ?」

「い、いや、違うけど」

「それ、本当?

あたしはあんたを紳士だと思っていたけどね。

モンスター退治の連中より、ずっと礼儀正しくて品がいいから。

それにあんたのお母さんから、女の子とつき合ったことがないって聞いていたし」

「そうなんだ」


 僕はそう返したものの、内心穏やかではなかった。

ううむ、やはり母親はナギさんに余計なことを言っていたか。

僕らの間に沈黙が流れた。


ナギさんは場を取り繕うかのように、元気な声を出した。

「さあ、ご飯でも食べに行こう!」

 僕とステラさんは、その言葉に同意するしかなかった。


 王宮からの使者は次の日にやってきて、僕らに金貨の詰まった袋を渡した。

使者が帰った後で3分割すると、それぞれかなりの額が手に入るとわかった。

これなら魔法書が何冊も買える。


「じゃあ、それぞれ買い物に行こうか」

 ナギさんは大金に戸惑いつつも、そう言った。


 それからしばらく、僕らは王都で思い思いに過ごした。

ナギさんは自分の母親に服を買えたと満足そうだった。

買い物の残りは生活費に充てるらしい。


僕は僕で、珍しい魔法書を3冊買った。

本当はもう少し買えたのだが、なにしろ魔法書は重いので、アルブムまで持ち運べるのはこれが限度だったのだ。


そうして7日目に、再び王宮からの使者が僕らのもとに来た。

ウイズダム先生は僕の弟子入りを許してくれたらしい。

いよいよ王都、それに旅の仲間たちともお別れだ。


明朝にそれぞれの目的地行きの馬車が来ると、使者は言い残して去っていった。

その日は、別れを惜しむように宿の部屋で語り明かした。

もっともしゃべっていたのはナギさんとステラさんで、僕はもっぱら聞き役だったのだけれども。


カーテン越しの朝日がまぶしくなってくるころ、馬車が来たと宿の従業員から伝えられた。

別れのときが来たのだ。

僕らは宿を引き払う手続きをしてから、3人揃って外に出た。


立派な造りの馬車が3台、待ち受けていた。

僕らはそれぞれの馬車に乗り込むと、出発の直前まで窓から手を出して振り合っていた。


 それからアルブムまでの旅路には、特記するようなことはなかった。

ただ途中で馬を取り替えたり、雪道に差し掛かった時にそりに乗り換えたりしたぐらいだ。


食事と睡眠以外はずっと移動という生活に僕が飽き始めたころ、ようやくアルブムが見えてきた。

馬車もそりも振動が激しいから、読書をするわけにはいかなかったのだ。

アルブムで休憩した後、そりはウイズダム先生が暮らす塔に向かった。


僕はまた、『みならいまほうつかいベルジリオのぼうけん』に出てくる、主人公の師匠が住む塔を思い出していた。

やがて塔にたどり着き、僕は御者にお礼を言ってそりを降りた。


もう故郷には戻らないだろうという、僕の予感は当たった。

それも、かなりいい形で。

僕は軽く武者震いした。

それでも胸には期待を込めて、ドアの取っ手に手をかけた。

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