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それぞれの道

 視界がひらけると、僕らは王宮の門の真正面に立っていた。

先生の魔力を疑うわけではないが、アルブムからここまでの険しい道のりをすっ飛ばして来れたというのは、にわかには信じがたい。


門番の兵士が王太子に気づき、なにか問いかけていた。

王太子は少しだけなにかおっしゃって、うなずかれていた。


僕らはすぐに王宮内に招き入れられた。

3度目の王宮内だ。中の様子はもう、少しは覚えている。

兵士は僕らの身柄を、文官に引き渡した。

途中までは王太子とご一緒だったが、例の応接室の前で僕ら3人は中で待つように言われた。

王太子はそのまま文官の後について行かれた。

おそらくこれから、ご両親とお話しなさるのだろう。王太子、どうかガブリエラ様だけには真相をお明かしにならないでください。


 前にも見た、喪服をほどく貞女の絵をぼんやりと眺めていると、チャリス氏が悠然と現れた。

「これは勇者ご一行、無事にゲイル様を救い出されたようですな」

 彼の開口一番が、その言葉だった。


相変わらず僕らには、まるで期待していないかのような口ぶりだ。

だいたい僕らに頼まなければ、誰に魔王討伐と王太子の救出を頼むつもりだったんだとつっこみたいところだが、王宮の文官が相手ではそれもできない。


ナギさんはええまあとあいまいな返事をした。

僕らはチャリス氏に言われるがまま、彼の後をついて行った。

せめてガブリエラ様だけでも、僕らを認めてくださればいいのにと、僕は密かに祈っていた。


 そうして僕らは3度目の謁見の間に通された。

ただ今回は女王陛下ご夫妻の間に、ゲイル王太子がお座りになっている。

王太子は少し緊張されているご様子だ。


ガブリエラ様は、僕ら3人を見回してからおっしゃった。

「私たちの息子を救い出してくれて、ありがとうございます。

魔王討伐も成し遂げたようですね」

「ええ、まあそうです。

こちらこそ、ガブリエラ様からの感謝は身に余る光栄です」


 ナギさんは女王陛下に対しても、あいまいに返事をした。

王太子もなんとなく気まずそうにしていらっしゃる。

ガブリエラ様だけが真相をご存じないのだから、無理もない。


僕らは魔王を退治していない。

魔王化した王太子をお救いしただけだ。

その事実は僕ら3人とゲイル王太子、ランドルフ様との秘密だ。

後ろめたさ故なのか、さすがのステラさんも今回は自分から報酬の話はしなかった。


ガブリエラ様の方から、後で宿屋に届けさせるとおっしゃってくださったのだ。

なんだか申し訳ないが、ここで断られると怪しまれてしまう。

ナギさんは淡々とお礼を述べた。


女王陛下ご夫妻は彼女の言葉をうなずきながらお聞きになっていたが、ランドルフ様が不意に僕らに質問を投げかけられた。

「さて、君たちはこれからどうするつもりだ?

魔王がいなくなったのだから、勇者一行は解散ということになるだろう」

「あたしはラスティックに帰ります。

母が待っていますので」

「私もテンプルに戻って、聖職者を続けるつもりです」

 ナギさんとステラさんは、それぞれ答えた。

ふたりの答えに、ランドルフ様は大きくうなずかれた。


「なるほど、ふたりとも古巣に帰るというわけか。

ナギ殿、故郷に帰ったら母上によろしくと伝えておいてくれ」

 ガブリエラ様は一瞬自分の夫君を睨まれたが、ランドルフ様は全く気になさっていない。

その余裕は、真実をご存じだから生まれるのだろう。


ランドルフ様は僕が黙ったままなのに気づかれて、まっすぐに僕の方をご覧になった。

「ダグラス殿、君はどうするつもりだ?」


 急に問いかけられて、僕はどぎまぎした。

誠実にお答え申し上げたいところだが、混乱のあまり言葉がとぎれとぎれにしか出てこない。

「えっと、その、あの、ど、どうしようか迷っています。

えっと、その、故郷に帰ってもすることがありませんので」


 僕の返答にランドルフ様は少し思案なさってから、ひとつの提案をしてくださった。

「そういうことならば、ウイズダム殿の弟子になるのはどうだろうか。

もしも君が望むのならば。私から紹介状を出しておくが」

「えっ、いいんですか?」

 我ながら素っ頓狂な声を出してしまった。

まさかウイズダム先生に弟子入りできる可能性があるなんて、思いもしなかった。

ランドルフ様は、鷹揚にうなずかれている。


「ああ。

ウイズダム殿は日ごろから、優秀な人材がいたら紹介してほしいと催促していたのだ。

どうだろう?

悪い話ではないと思うぞ」


「いえいえ、悪い話だなんて、そんな。

ぜひお願いいたします」

 僕は顔には出さなかったものの、内心では小躍りしていた。

あまりにもうれしい誤算じゃないか。

唯一の気がかりはあのシリルだが、いざとなれば先生を頼ればいい。


「決まりだな。

ウイズダム殿にこれから手紙を送るから、返事が来るまでの間は王都で過ごすといい。

宿はこちらで用意する。

あとはそれぞれの目的地まで、馬車を出すとしよう」

 ランドルフ様はどこか嬉しそうになさっていた。

対するガブリエラ様は少し不満げだったが、最終的にあきらめたかのように夫君の提案にうなずかれた。


「では3人ともどうか達者でな。

君たちはこの国を救った勇者一行だ。

誇りに思うがいい」

「はい、ガブリエラ様にランドルフ様、ゲイル様もどうぞお元気で」


 そういって父と娘は言葉を交わし合った。

ガブリエラ様とゲイル王太子は、遠慮がちに手を振られていた。


僕らは女王陛下ご一家の前を辞去し、チャリス氏に付き添われて出口へと進んだ。

もう王宮を出ようかというとき、ひとりの文官が僕らを呼び止めた。

彼はこちらに近づくと、地図らしき紙と封筒をナギさんに差し出した。


「なんですか、これ?」

 ナギさんが尋ねると、文官は早口に答えた。

「宿までの地図と、ランドルフ様からのお手紙だ」

「手紙なんて、なにごとですか?

そもそもあたしは文字が読めないのですが」

「魔法使いと聖職者が仲間にいるのだから、どちらかに読んでもらえばいいだろう。

では、私はこれで失礼する」

「あ、ちょっと」


 ナギさんの叫びもむなしく、文官は彼女に地図と手紙を押し付けてさっさと行ってしまった。

「どうしよう」

 すっかり困り顔のナギさんを、ステラさんが慰めた。

「こうなったら宿で手紙を読むしかないようですね。

私が読み上げますよ」

「ありがとう、ステラ」

 僕らは王宮を後にして、地図に描かれた宿屋に向かった。

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