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魔王との対面

 荒れ狂う風の音で目が覚めた。

見上げると大理石模様の白黒の空が広がっている。

あたりはただひたすらに荒野と思ったが、少し遠くに禍々しい色の巨大な城がある。

あれがきっと魔王の住まいだ。

おあつらえ向きに、僕らは城へ向かう道の途中で倒れていた。

ハッとして僕はナギさんとステラさんを揺り起こした。


「なるほど、もう行くしかないわけね」

 ナギさんは開口一番、そう言った。

その言葉に僕とステラさんはうなずいた。


僕ら3人は覚悟を決め、魔王城に向けて歩いた。

帰りはどうするのかとか魔王がどんなやつなのかとか疑問は尽きないけど、ここはもう前に進むしかない。

道は上り坂だが、そんなに疲労は感じない。

そもそも今いる空間自体が、あまりにも異様すぎてそれどころではないのかもしれない。


上から岩でも落ちてくるんじゃないかと警戒したが、それは大丈夫そうだ。

そんなことを考えているうちに、魔王城に到着した。

少し妙だ。魔王ともあろうものが、こうもやすやすと勇者一行を城に到着させていいのだろうか?

もっともこれは罠で、魔王城が実はほかのところにあるとか、魔王城内に仕掛けが嫌というほどあるのかもしれないけど。


 魔王城に入ると、魔物たちがちょこまかと動き回っていた。

その様子に、僕は既視感を覚えた。

しばらく考えて、その理由がわかった。


内部のつくりも動き回る魔物たちも、カルディア城で見た光景とそっくりなのだ。

違いは内装の色合いと、働いているのが人間か魔物かという点だけだった。

だったら魔王は謁見の間にあたる場所にいるはずだ。


僕らは互いに顔を見合わせてうなずき、その方向へ向けて歩き出そうとした。

すると、やせた影が僕らの目の前に立ちふさがった。

いよいよ来たか。

そう思って僕らはそれぞれに武器を構えた。


「ちょっと、やめてくださいよ」

 やせた影はそう言った。

よく見ると影の正体は、王宮の文官とそっくりな服を着た骸骨だった。

僕らはあっけにとられたが、やがてナギさんが吠えるように言った。


「勇者一行が魔王を倒しに来たのに、簡単に引き下がれるもんですか!」

「あなた方、勇者一行なんですか?

でしたらなおさら、大歓迎ですよ」

 骸骨なので表情はわからないが、こいつに肉がついていたらおそらくはほほ笑んでいたのだろう。

声の調子には敵意どころか、好意すら感じる。

罠だろうか。

「歓迎って、どういうこと?」

「まあ立ち話もなんですから、どうぞこちらへ。

魔王様のもとにご案内いたします」


 ナギさんの疑問をあしらうかのように、骸骨は答えた。

やっぱり罠だ。

僕らは顔を見合わせた。

どうするとナギさんがささやくと、ステラさんがとりあえずここはと、やはりささやき声で返す。

ひとまず従ったふりをして、襲い掛かってくるようなら倒す作戦だ。

僕らは骸骨に導かれるまま、魔王城内を進んだ。


 僕の第一印象通り、城内のほかの場所もカルディア城に酷似している。

本当にこの場所はなんなんだろう。

魔王が城を創り出したときに、人間界の城を真似して作ったのだろうか。


それにしたってわざわざカルディア城でなくてもいい気がする。

歩いている最中に応接間らしき部屋を一瞬、覗き見ることができた。

予想通り、壁には喪服をほどく骸骨の絵が飾ってあった。


ここまでカルディア城と同じだなんて、魔王の意図がわからない。

この順路をたどっているということは、骸骨は謁見の間に僕らを連れて行くつもりなのだろう。

いや、もしかしたら途中まではカルディア城と同じつくりだけど、行きつく先は牢屋なのかもしれないぞ。

でもそうなったらそうなったで、ゲイル王太子にお会いできるかもしれない。


ナギさんは剣の柄に手をかけたままで歩いているし、ステラさんもクロスボウのトリガーに指を触れている。

もちろん僕も、ワンドをいつでも構えられるようにしている。

「だいたい魔王が勇者を歓迎するなんて、一体どういうつもり?」

 ナギさんは相変わらず利き手を剣の柄にかけながら、骸骨にそう尋ねた。

骸骨はへりくだった口調で返す。

「さあ、魔王様のお考えは私にもよくわかりません。

ただ『私を救ってくれそうな者が来たら、連れてきてほしい』とのご命令は受けております」


 ますますわけがわからない。

魔王が救いを求めている、それもよりによって勇者一行に。

一体どういう状況だろう。


そして僕らが進んでいるのはやはり色違いのカルディア城内部で、牢屋に連れていかれそうな気配は一切感じられない。

やがて幅の広い階段のもとにたどり着いた。

この城がなにもかもカルディア城そっくりならば、この階段を上った先には謁見の間があるはずだ。

いよいよ魔王とご対面というわけか。


 「よく来たな、勇者一行よ」

 魔王は玉座に座ったまま、開口一番にそう言った。

あまりにも陳腐なセリフだ。

だがその口調には、戦う意思だとか覇気だとかいうものがまるで感じられない。

暗い紫色の肌、青い炎をともした王冠、とがった耳に血の色をした目、鋭い爪の生えたごつい手。

どこからどう見ても見た目は恐ろしい魔王そのものだというのに、どういうことだろう。


「あんた、なにが目的?」

 ナギさんが今すぐにでも剣を抜ける体勢で、ケンカ腰にそう尋ねる。

魔王は困ったように頭をかきながら答えた。

「なにが目的と言われても、私もどうしていいかわからないのだよ」


 僕はずっこけそうになった。

仮にも魔王が、目的を問われてどうしていいかわからないと返すなんて。

わけがわからないのは、こっちの方だ。

ナギさんとステラさんは、それぞれに武器を構えて魔王をにらみつけている。

僕もワンドを強く握りしめていた。


だが僕らの表情は、次第に困惑に変わっていった。

魔王は本気で困っている、決して演技をしているわけではない。

それがひしひしと伝わってきたからだ。

魔王のそばに控えている骸骨を除いて、その場の全員が魔王も含めて、途方に暮れてしまった。


僕はふと、ひとつの考えに行きついた。も

しかしたらこの状況を打破できるかもしれない。僕はナギさんにささやいた。

「ねえナギさん、カギ」

 彼女はそのひと言で僕の意図を察したらしく、軽くうなずいた。

ポケットから願いのカギを取り出して握りしめ、声高に叫んだ。

「どうか、この状況をなんとかしてください!」


 ナギさんの言葉が終わるか終わらないかのうちに、魔王城の輪郭が次第に崩れ始めた。

カギの効果はあったようだが、これからどうなるんだろう。

そう考えていると、やがて白い光が広がってきて、視界をふさいでしまった。

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