見送り
それから僕らとファイアストン氏、フンメル氏で少し話をした。
お世話になった家にいくら払えばいいかと言う話になったとき、ファイストン氏が町の経費で落とすと言ってくれた。
「なんだか、悪いですね」
少しうれしそうなステラさんとは対照的に、ナギさんは申し訳なさそうにそう言った。
だがファイアストン氏は、微笑を浮かべて彼女の言葉にこたえた。
「いいえ、いいんです。あなた方が来てくださらなかったら、マインは本当に駄目になっていました。
せっかく守っていただいた町です。必ず復興させますよ」
「頼もしいですね」
「私たちは、自分にできることをするまでです。
特にとりえのない町ですが、復興の暁にはぜひ観光に来てください」
「ええ、そうします。
お互い、頑張りましょう」
ナギさんのその言葉にファイアストン氏は力強くうなずき、フンメル氏も遠慮がちにうなずいた。
次の日の朝、僕らはステラさんの宣言通りに王都に向けて出発した。
ファイアストン、フンメルの両氏にはなにも言わずに出ていくつもりだったが、ふたりは町の出口で待っていた。
「すみません、見送りまでしていただいて。
ふたりとも忙しいでしょうから、手を煩わせないようにと思っていたのですが」
ナギさんがそう言うと、ファイアストン氏はかぶりを振った。
「いいえ、町を救った勇者一行を見送るのも町長の務めですよ」
「そうですか。宿代も出してもらったし、本当にお世話になりました。
ふたりとも、どうぞお元気で」
「そちらこそ、どうぞご無事で。
それぞれの目的を達成したときに、またお会いしましょう」
そう言ってファイアストン氏は大きく手を振った。
彼につられるようにフンメル氏は小さくそれではと言って、遠慮がちに手を振る。
僕らは歩きながらも時々振り返り、ふたりが見えなくなるまで手を振り続けた。
王都への道は下り坂だし、一度通った道なので道中はそんなにつらくはなかった。
なによりも今は、ドラゴンを倒さなければという重圧から解放されている。
そして武器は明らかに強くなっている。フンメル氏はぶっきらぼうな人だったけど、武器強化の腕は確かだ。
本当にこれを商売にしたら、復興費用をたやすく稼げるだろうな。
もっともフンメル氏は大忙しになるだろうけど。
マインの隣村を出発した数日後、僕らは王都に戻ってきた。
今回ばかりは門番も僕らを怪しまなかった。
勇者一行が来るとお達しが届いているのだろう。
ただ、しばらく門番の詰め所で待つように言われた。
王宮関係者を呼んでいるに違いないという僕の予想通り、しばらくしてチャリス氏が馬車でやってきた。
「これはナギ殿ご一行、ご無事でしたか。
首尾よくドラゴンを退治できたようですな」
それがチャリス氏の第一声だった。
この口ぶり、まるで僕らが無事でなくてもよかったみたいだ。
まあいい。
宿代を払ってくれたファイアストン氏に武器強化をしてくれたフンメル氏、彼らは間違いなく僕らを応援してくれている。
僕らを快く思っていないのは、女王陛下をはじめとする王宮関係者だけだと思っておこう。
ナギさんはうっすら不満を顔に浮かべているが、それを悟られないようきわめて事務的な口調で応じた。
「ええ、そうです。
さっそく女王陛下にご報告したいのですが、大丈夫でしょうか?」
「そうですか。ではこのまま王宮にお連れいたしますので、手続きをする間少々お待ちください」
「わかりました。
今度こそ魔王のもとへ行く方法を教えてもらえますかね?」
「それは女王陛下がお決めになることです。
さあ、行きましょう」
ナギさんが言葉尻にほんのひとかけら含ませた嫌味を、チャリス氏は巧みにかわした。
僕らは素直にチャリス氏の馬車に乗り、そのまま王宮へ向かった。




