不愛想な学者
翌朝、僕らは前日に言われた通り、朝食後にファイアストン氏を訪ねた。
彼はあいさつもそこそこに、件のフンメルという学者がいる隣村に僕らを案内してくれた。
導かれるままにたどり着いたのは、家というより小屋と表現したほうがよさそうな建物だった。
ファイアストン氏はそこまで来ると、用事がありますからと言って帰っていった。
ナギさんが遠慮がちにノックをすると、どうぞという不愛想な声が返ってくる。
建物の中で僕らを待っていたのは、背の高い男性だった。
身なりには構わない方なのか、今にも擦り切れて穴が開きそうなほど古い服を着ている。
そんなに年は取っていないのだろうが、じゃあいくつぐらいかと聞かれれば返答に困る。
年齢不詳としか言いようのない見た目の人物だ。
「初めまして、私はアルトゥル・フンメルと言います。
魔法鉱物学者です」
彼は鋭い薄茶色の目をこちらに向けて、そう簡潔に自己紹介した。
この話し方とこの目つきに出会うのは、初めてではない。
魔法史の教授をしている僕の父親に似ている。
こういう風になりたくなくて、僕は勉強が得意だったけれど学者になろうとは思わなかったのだ。
「初めまして、フンメルさん。
あたしはナギ・エイベル。
ドラゴンを倒した勇者です」
ナギさんがそう自己紹介したので、僕とステラさんも彼女に倣った。
「フンメルさん、単刀直入に伺いますが、どのように武器を強化するのですか?
ステラさんにそう尋ねられて、フンメル氏は面白くもなさそうに返事をした。
「魔法陣を描いて、そこに武器と強化素材を置いて呪文を唱える。
ただそれだけです」
あまりにもあっさりとした答えに、僕らは拍子抜けした。
フンメル氏はそんな僕らのことなどお構いなしに、言葉を続けた。
「それで、どの能力を強化しますか?
まあ、勇者は攻撃力、魔法使いは魔法力、聖職者は素早さを上げておくのが、妥当だと思いますけどね」
言いたいことを先に言われてしまった。
どうにもこの人は好きになれないが、ここは従うしかない。
「ええ。じゃあ、それでお願いします」
そう言うナギさんは、実に大人な態度だ。
フンメル氏になにか意見しても、無駄だと悟ったのだろう。
「わかりました。
さっそく取り掛かりましょう」
フンメル氏は恐ろしく淡白な態度で、そう言った。
彼は僕らに武器を差し出すよう促したが、ステラさんがそれに待ったをかけた。
「ちょっと待ってください。
私たちは自分の武器に、それぞれ思い入れがあります。
ですから、どうか強化の様子を見守らせてください。
もちろん、お邪魔になるようでしたら、遠慮しますが」
「そうですか、別に構いませんよ」
フンメル氏は相変わらずの無表情でそう言った。
僕は拍子抜けしてしまった。
こんな癖のありそうな人は、絶対に断ると思ったからだ。
おそらく彼は、他人にとことん関心がないのだろう。
まあ、まともに他人と話せない僕には、言われたくないかもしれないが。
僕らはフンメル氏に案内されて、屋根裏部屋に入った。
床には書籍や標本の類が、無造作に散らばっている。
彼はそれらの研究資料を抱え上げると、ベッドに載せた。
そうして空いたスペースに目の粗い白い大きな布を広げると、木炭で魔法陣を描いた。
それからナギさんに、魔法陣の中央に剣を置くよう指示する。
彼女がそれに従うと、フンメル氏はおもむろに強化素材を取り出して並べた。
魔法陣の内側の六角形に、緑色が4つと黄色がふたつ並べられた。
同じ色同士が向かい合うように置かれている。
準備が整うと、フンメル氏は背筋を伸ばして呪文を唱え始めた。
あまりはっきりした発音ではないが、古代語であることはわかる。
呪文に応えるかのように素材は輝き始め、やがて立ち上る光の筋になった。
呪文の詠唱が高ぶってくると光は剣に向かって伸び、吸収されていった。
剣はしばらく光をまとっていたが次第に光は弱まり、やがて消えていった。
「終わりました。残りの武器強化は、明日と明後日に行ないます」
そう言うフンメル氏の顔には、かすかな疲労の色が滲んでいる。
多少なりとも魔力を消耗したのだろう。
「わかりました。ありがとうございます」
ナギさんは剣を受け取りながら、そうお礼を言った。
フンメル氏は鷹揚にうなずくと、ではと前置きしてから、明日と明後日のいつ頃来ればいいのかを指定した。




