意外な報酬
僕ら3人はファイアストン氏にドラゴンを退治したと報告した。
それから彼と共に、再びマインに向かった。
ファイアストン氏は道中でどうやってドラゴンを退治したか尋ねてきたので、ナギさんがいきさつを説明した。
彼はうなずきながら聞いていたが、マインの現状の話になると顔をしかめた。
そして現地に到着すると、彼は唖然としていた。
無理もない。町はめちゃくちゃに破壊されているのだから。
改めて見ると、本当に凄まじい。
まともに建っている建物なんて、両手で数え切れるほどしかない。
その建物にしたって、外壁がひどく焼け焦げていて、あちこち崩れている。
あとは崩れた建物と、ひたすらにがれきの山。
僕らは足をとられないよう、細心の注意を払って歩いた。
ファイアストン氏は数回転びそうになっては、そのたびにかろうじて体勢を立て直していた。
マインの惨状をひと通り見てから、僕らは元の村に帰った。
ファイアストン氏は、明らかに失望の色を浮かべている。
自分が町長を務めていた町があの有様では、誰だってそうなるだろう。
報酬など、期待できるはずがない。
僕らはタダ働きをする羽目になったが、仕方ない。
それでも町ひとつを救ったことは、事実には違いないのだから。
「もちろん報酬は、いただけるんですよね。
ご覧になった通り、マインにいたドラゴンは倒しましたので」
ステラさんが満面の笑みをたたえてそう言ったが、彼女は有無を言わせない雰囲気をまとっている。
ちょっとステラとナギさんがたしなめたが、ステラさんは折れる気配を見せない。
ファイアストン氏はますますうなだれ、今にも消え入りそうな声でつぶやいた。
「ひと晩、時間をください」
「わかりました」
ナギさんはそう答えたものの、ずっとあごに指をあてたまま考え込んでいる。
どうしたものか、悩んでいるのだろう。
確かに僕らは、ドラゴンを倒した。
だから報酬を要求する権利はある。
でもマインはあんな様子だ。
復興にとんでもない費用を要するであろうと、容易に想像がつく。
それに避難した町民を受け入れてくれた人々に、謝礼を払わなければならない。
王宮からいくらかの援助は期待できるだろうが、それでもすべての費用を賄えるかは疑問符だ。
「ねえ、ファイアストンさんがああ言ったことだし、今日はもう、ゆっくりしよう」
ナギさんは僕とステラさんに向き合って、はっきりそう言った。
ファイアストン氏はその言葉に安堵の表情を見せた。
彼はそれではと小さく言って、世話になっている民家の方へ歩いて行った。
僕らも昨日泊まった民家に戻り、一夜を明かした。
翌朝、ファイアストン氏の方から僕らを訪ねてきた。
昨日とは別人のように、表情が明るい。
彼はいそいそと民家に上がり込み、食堂の椅子に腰を下ろした。
報酬を支払うめどが立ったのだろうか。
それともまさか、命で支払うというんじゃないだろうな。
それだけは、絶対に勘弁してほしい。
「いやあ私としたことが、こいつの存在をすっかり忘れていましたよ」
そう言ってファイアストン氏は、木製の器を取り出して革袋の中身をその中に入れた。
出てきたものに、僕らは絶句した。
色とりどりの魔法石だ。
大きさはキイチゴぐらい。
それがまるで木の実か駄菓子のように、大量にある。
「これを換金しようというのですか?」
ステラさんの問いに、ファイアストン氏はクスクスと笑ってから答えた。
「それもできますがね、これにはもっとすごい力があるのですよ。
この魔法石で、あなた方の武器を強化できます」
僕ら3人は、再び絶句した。
武器の強化素材。
存在だけは知っていたが、こうして現物を見るのは初めてだ。
「そ、そんなすごいものをどうやってこんなに集めたのですか?」
ナギさんがそう尋ねたが、その声は上ずっている。
マイン山は石炭の鉱山で、魔法石が出るなどという話は、僕も聞いたことがない。
「炭鉱夫たちの話によると、時折坑道に出るウィスプが落としていくそうです。
ウィスプどもが作業の邪魔をするから、退治するとたまに落ちていると言っていましたね」
「それにしても、よくこの石に武器強化の力があるとわかりましたね」
ナギさんの疑問はもっともで、目の前の石は普通の魔法石とあまり違いがないように見える。
ファイアストン氏は頭をかきながら答えた。
「実は私の先代まで、この石がなんなのかわからなかったそうです。
ただ見た目がきれいなので町役場のガラスケースに展示していました。
偶然マインを訪れた魔法鉱物学者がそれを見て、この石で武器を強化できると教えてくれたのです」
「で、具体的にはどうやって武器を強化するんですか?」
「学者の彼が武器強化の方法も知っているそうです。
彼の姓はフンメルと言いますが、そのフンメル君はこの石に興味を持ってマインに移住してきました。
ドラゴン出現の際も、ほかの住人達と一緒にここの隣の村に逃げ出して無事でいますよ」
「もちろん、タダで強化していただけるんですよね?」
それまで黙って話を聞いていたステラさんが、突然身を乗り出してそう言った。
「ええ、もちろんですよ。あなた方はドラゴンを退治した恩人ですからね」
ファイアストン氏はたじろぎながらそれだけ言って、さっさと行ってしまった。
残された僕らは、ぽつりぽつりと話を始めた。ナギさんがため息をついて言う。
「なんやかんやで結果的にうまく行ったけど、やっぱり怖かったよ。
あのドラゴン、そこそこ大きいっていうレベルじゃなかったもんね」
「ですね。
私も必死でしたよ。
万が一攻撃されていたら、とても回復が間に合わなかったでしょう」
ステラさんのその言葉を受けて、僕は声を絞り出した。
「僕も怖かった」
ふたりは驚いてこちらを見た。
「本当?
作戦を考えたのはあんただし、マインに着いてからも冷静だったから、てっきり肝が据わっているのかと思っていた」
ナギさんにそう言われて、僕は泣きそうになるのをこらえながら返した。
「こ、怖くないはずなんて、ないじゃないか。
あんな、あんな奴が相手じゃあ」
「あんた、本当に気持ちが顔に出ないんだね」
「そうなのかも」
ナギさんの言葉を、僕は素直に肯定した。
理由なんて痛いほどよくわかっている。
これまで他人との関わりを極力避けて生きてきたから、こういう感情のときはこういう表情をするものだという暗黙の了解が、うまく理解できていないからだ。
「まずいかな、それって」
そんな言葉が、つい口をついて出てきた。
ナギさんは天井を見上げてから、答えた。
「多分、誤解はされやすいかもね。
でもすぐに直せるわけでもないでしょう?
それで気にしすぎると、余計表情が硬くなっちゃうんじゃないかな。
だからこうしたらって、言えないんだよね、申し訳ないけど」
「そっか」
僕がため息交じりにそう言うと、ステラさんがその場を繕うかのように言った。
「でも私は、初対面からあなたが悪い人ではないと、わかっていましたよ」
その言葉に対し、僕はひどく弱々しくありがとうと返すことしかできなかった。
また、励まされてしまった。
こういう自分が嫌になる。
僕ら3人の間に、気まずい沈黙が流れた。
「みなさん、お待たせしました」
僕らを包んでいるなんとも言えない空気のことなど、知る由もないファイアストン氏は、明るい声でそう言った。
この人、なんという立ち直りの速さだ。
昨日あんなにしょげ返っていた男と同一人物だとは、到底思えない。
もっとも、そんな風に切り替えが速くないと、町長なんて務まらないのかもしれないが。
「フンメル君に会ってきました。
明日、皆さんを連れてきてくれとのことです」
そう言うファイアストン氏は、少し興奮気味だ。
その熱量にすこし引き気味のナギさんが、言葉を返す。
「そうですか、ありがとうございます。
それで明日、あたしたちはどうすればいいですか?」
「明朝にご案内いたしますよ。
朝食を召し上がったら、この家に私を訪ねてきてください」
「わかりました」
そう言ってナギさんはうなずいた。




