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マインの惨状

 翌日の早朝、僕らはマインに向けて出発した。

薬や道具の類は、昨日のうちにできるだけ買っておいた。

空は暗い曇天。

今にも雨が降り出すんじゃないかという気配すら、感じさせる。

この天気が、自分たちの未来を暗示していなければいいがと、僕は思った。

もう、ここは覚悟を決めるしかない。

そう思って、僕は村を出てから一度も後ろを振り向かなかった。


マインまでの距離は、そんなにないと聞いている。

歩いているうちに、マインが近づいてきた。

言われなくても、あれが目ざす町だとわかる。

激しく燃える炎が見えたからだ。

炎は暗い雲を照らし出していて、赤と黒の対比がより一層不気味さを増していた。


 想像以上に、マインの様子は悲惨だった。

家はいくつも焼け落ち、街路樹だったのであろう木々は、立ったまま炭化している。

あちこち原型が想像できないがれきに覆われている。

もともとどこに道があったのかさえも、わからない。

僕らはその様子に息をのんだ。

すると、地響きのような音とおどろおどろしい唸り声が聞こえてきた。

これだけでもかなり怖い。

でもその上に、巨大な影がドシンドシンと音を立てて動き回っているのが見えたから、たまったものではない。


影の正体は、間違いなくドラゴンだ。

煙と炎の隙間から、時折その姿が見える。

暗い緋色のうろこに覆われた体、大人ひとりが腕を広げたぐらいの大きさがありそうな一対の翼、すべてを飲み込んでしまいそうな口と、そこに並んだ鋭い牙。

その姿は、神話の挿絵で見たものよりもはるかに威圧的だ。


僕らの気配を感じ取ったのか、ドラゴンは地面を震わせながらこちらに近づいてくる。

ちらりと見えた金色の目に、僕は思わず身震いがした。

そのまなざしだけで、倒されてしまいそうな気がしたからだ。

正直、怖くてしかたない。

でもきっと、逃げ出しても逃げ切れないだろう。


僕はどうにでもなれと覚悟を決めた。

ナギさんとステラさんに目配せをすると、彼女たちは真顔でうなずいた。

それを見届けると、僕は精一杯の声を張り上げた。

「万物を凍り付かせる猛吹雪、ブリザード!」

 ハナから追加効果は期待していないから、なるべくダメージを多く与えられるように、魔力を調整した。

ドラゴンは猛吹雪を浴びてもなお、こちらに近づこうとしているが、動きがひどく鈍っている。

効いたぞ。続いてステラさんが、高らかに叫ぶ。

「わが仲間に力を与えよ、パワーアップ!」

 詠唱が終わると、ナギさんの体が光に包まれた。

ナギさんは地面を蹴って飛び上がると、構えた剣をドラゴンの心臓部めがけて突き刺した。狙いは外れていない。

赤黒い血が、ドラゴンの体から噴き出す。

ドラゴンは血を流しながら、ドサリと音を立てて倒れた。

その衝撃で土と灰が、派手に舞い上がる。

「やった」

 ナギさんは呆然として、そうつぶやいた。

ステラさんはドラゴンがもう動かないことを確認してから、言った。

「作戦成功ですね。

できるだけ町の火を消してから、町長に報告に行きましょう」

「あ、言われてみればそうだね。

ダグラス、お願いできる?」


 ナギさんにそう言われて僕はうなずき、水魔法で炎を消して回った。

さすがに建物がすべて跡形もなく焼けているというわけではないが、やはり被害は小さくない。

この状況を見たら、ファイアストン氏は相当ショックを受けるはずだ。

でも町の様子を彼に見せなければいけない。

それがとても、心苦しい。


火を消し終わってから、僕はナギさんたちのところに戻った。

ふたりとも僕と同じ考えなのか、浮かない顔をしている。

そういえば横たわっているはずの、ドラゴンの巨体がどこにも見当たらない。

僕は率直に尋ねた。

「ねえ、ドラゴンはどうした?」

「それが不思議なんだけど、霧みたいになってすっと消えちゃったんだよね。

あのドラゴン、魔王が送った幻かなにかだったのかも。

幻にしては、あまりにもひどいけどさ」

 ナギさんは思案顔でそう言った。


「とりあえず、ファイアストン町長のところに戻りませんか?

ドラゴンの亡骸がなくても、この状況を見せれば、私たちが倒したと信じてもらえるでしょう。

と言うより、なんとしてでも信じてもらいますけどね」

 強気なステラさんの発言に、ナギさんはあきれ顔だ。

「どうしても報酬をもらう気なんでしょ」

「あら、命がけでドラゴン退治をしたのですよ。

当然の権利ではありませんか」

「それもそうだけど。

でも、あんまりファイアストンさんを困らせるのはダメだよ」

「本当にナギは人がいいんですから。

善は急げです。早く行きましょう」

 僕とナギさんは、ステラさんにせかされるように、崩れたマインを後にした。

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