マイン町長ファイアストン
もう2日野宿すると、昼過ぎに小さな村が見えてきた。
村に入ると、ひとりの男性が僕らの姿を認めて駆け寄ってきた。
この顔には見覚えがある。ナギさんは彼に声をかけた。
「あ、あなたは確か、マイン町長の使いの人!」
「これは勇者様、王宮ではお騒がせしました」
「いえ、いいんですよ。
緊急事態ですから。
それで今、マインはどうなっているんです?」
「相変わらずですよ。
ドラゴンの勢いは、全く衰えていません。
まあ立ち話もなんですから、町長のもとへご案内いたします」
僕らは彼に導かれて歩き、やがて1軒の民家に通された。
その家の食堂で待っていると、お待たせしましたという声とともに、赤銅色の髪の男性が入ってきた。
僕らは慌てて立ち上がろうとしたが、彼は座るよう手で促してから、自己紹介をした。
「初めまして、勇者ご一行様。
私はサイモン・ファイアストンと申しまして、マイン町長をしております。
今回、町があんなことになってしまいましたから、今はこの家にお世話になっている次第です。
勇者ご一行様、この度はドラゴン退治を引き受けてくださって、誠にありがとうございます」
「い、いいえ。
女王陛下からのお願いですからね」
ナギさんはそう答えたが、顔には困惑の色が濃く表れている。
「早速ですがファイアストンさん、ドラゴン退治の報酬について、先に決めておこうではありませんか」
ステラさんがそう言って、いきなりしゃしゃり出てきたので、ナギさんとファイアストン氏は、ぎょっとして彼女を見た。
「えっと、ほ、報酬ですか」
ファイアストン氏はうろたえた。
だがステラさんは、強気な姿勢を崩さない。
「ええそうです。
こちらは命がけですからね。
また伝説の怪物の相手をするのですから、なにかと物入りです。
ですので、できれば報酬は前払いでお願いいたします」
「そうですか。どうしよう、参ったな」
ファイアストン氏は困り顔だ。
無理もない。
ドラゴンによる町の被害と、それによる損失は、現時点ではわかっていない。
それにこの人自身、仮住まい先にいくらか払っているはずだ。
彼は今、お金に困っている。
そんな相手にお金をせびるなんて、ステラさん、あんた本当に聖職者か?
でも彼女の言うことも、もっともだ。
どうしたものかと僕が考えていると、ナギさんがひとつの提案をした。
「じゃあ、こうしようか。
回復薬類を必要なだけ買える額を、まずあたしたちはファイアストンさんからもらう。
残りは成功報酬ってことで、町の様子を見て決めようか。
いいよね、ステラ?
いきなり全額なんて、それじゃあファイアストンさんがかわいそうだよ」
「わかりました。
そう言うことにしておきますよ」
ステラさんは渋々うなずいた。
ナギさんはそれを見届けてから、言葉を続ける。
「ありがとう、ステラ。
じゃあファイアストンさん、それでよろしくお願いします」
「かしこまりました。では手配しましょう」
ファイアストン氏は、安堵の表情を見せている。
しばらくして使者の男性がやってきて、僕らにコインの入った小袋をくれた。
それを見て、ファイアストン氏が尋ねる。
「それで、マインにはいつ向かいますか?
こちらとしては、できるだけ早くお願いしたいのですが」
「そうですね。
今日中に準備を済ませて、明日の朝一番に向かいますよ」
ナギさんは、少し考えてそう言った。
「では、よろしくお願いいたします」
ファイアストン氏はそう言って、テーブルに額が付きそうなほど深く頭を下げた。
この人が治める町の運命が、僕らにかかっている。
僕は震えあがりそうになったが、必死でこらえた。




