マインへ急げ
王都のにぎやかな様子を横目に見ながら、僕らは歩いた。
僕とステラさんは、王宮の書庫にこもりっぱなしだったから、そんなに王都の様子を知らない。
それでもざっと見渡しただけで、これまで行った町にはないものが色々あるのだろうとわかる。
この町の本屋や図書館にはきっと、僕が今まで見たこともないような様々な魔法書が並んでいることだろう。
ああ、ぜひとも手に取って読んでみたい。
いやいや、今はマインに急がなければ。
ドラゴンを退治できたら、女王陛下ご夫妻に報告するために、再び王都を訪れる必要がある。
そのときでも、魔法書探しはできるはずだ。
でも、もしもドラゴン退治に失敗したら?
いや、その可能性は考えまい。
魔法書を読みたいがために、僕はドラゴン退治を目ざす。
それは別に、恥ずかしい動機ではないだろう。
頑丈な城門をくぐると、草地がまばらに広がっているのが見えた。
遠くには山がある。
あれがきっと、鉱山なのだろう。
足元には一応街道らしきものがあるが、敷石はところどころ抜けたり欠けたりしている。
大きな岩がところどころにあるが、その陰からはいまにもモンスターが飛び出してきそうだ。
そう思っていると、黒い影がひとつ、僕らの前に転がり出てきた。
ボムロックだ。まずいぞ。
こいつは衝撃で大爆発することがある。
どうしようと思っていたら、ナギさんが僕に耳打ちした。
「早く水をかけて」
僕はうなずき、呪文を詠唱した。
「魂を震わせる水流、ウォータ!」
ボムロックは水浸しになり、溶けて泥の塊と化した。
「なんで、あいつの弱点を?」
僕は素直に、ナギさんに疑問をぶつけた。
「ほら、あれだよ」
彼女がそう言って指さす先を見ると、1本の立札が立っていた。
「ボムロックに注意!遭遇したら水をかけること」と書いてある。
そしてわかりやすい絵も添えられていた。
なるほど。この注意力、ぜひとも見習いたい。
おそらくは、実戦経験の差だろうけど。
道が上りに差し掛かる。
草地はさらにまばらになって、土が露出している部分が増えてきた。
風が吹くたびに、砂ぼこりが舞い上がる。
そういえばマインまで、一体何日かかるのだろう。
ナギさんに尋ねてみたけれど、彼女は黙って首を横に振った。
予定より早く調べものが終わったものの、急がないとマインがどうなるかわかったもんじゃない。
いや待て。
そもそも女王陛下の依頼でマインに向かっているのに、王宮側は僕らに馬車の一台も用意してくれなかった。
やっぱり僕らは、嫌われ勇者ご一行だ。
途中でモンスターを倒したり、休憩したりしながら歩いているうちに、日が傾いてきた。
僕らは誰が中心になるでもなく、それぞれ野宿の準備に取り掛かった。
こういう状況がいかにも旅の仲間という感じでいいなと、僕は焚火にあたりながら思った。
交代で焚火を見張り、朝食後に焚火に土をかける。
気づけば野宿にも、すっかり慣れた。
でもいつまで、こんなにのんびりしていられるだろうか?
僕らは神話上の怪物と戦おうとしている。
もしも今、ドラゴンがここに瞬間移動してきたらと考えて、僕は恐ろしくなった。
いやいや、マインの住民は自分たちの町が破壊される恐怖を味わっている。
救いの勇者一行の一員である僕が、ここで怖がっていてどうする。
考えを振り払うべく、僕は大きく首を振った。
さあまた歩き出そうと思った次の瞬間、複数の影が飛び出してきて、僕らを取り囲んだ。
ボムロックたちだ。
しかも10体もいる。
ナギさんとステラさんは、それぞれに武器を構えた。
僕もワンドを構えて叫んだ。
「万物を震え上がらせる大波、ウエーブ!」
全体にまんべんなくダメージを与えたつもりだが、1体倒せただけで、ほかの1体には避けられた。
ステラさんが崩れかけたやつに矢を放って倒した。
次の瞬間、僕の魔法を避けたやつが大爆発を起こし、ナギさんがその攻撃をまともに食らってしまった。
彼女は戦えなくはない状態だが、ダメージは大きかったに違いない。
顔が引きつっている。
「わが仲間の傷よ、癒えよ、ヒール!」
ステラさんが回復魔法を唱えて、ナギさんの傷を癒した。
「ありがとう、ステラ」
「お礼は後です、早く片づけましょう」
「わかった」
ナギさんとステラさんはそう言い合い、再びボムロックに立ち向かった。
僕も負けてはいられない。
ここは全体魔法で一気に倒そうとせず、まずは1体ずつ確実に攻撃して数を減らした方がよさそうだ。
僕は心持ち力強く、呪文を詠唱した。
「魂を震わせる水流、ウォータ!」
「相手を魅了する星屑、スターダスト!」
ステラさんも魔法で攻撃すべく、呪文を唱えている。
それぞれ1体ずつ倒した。
「くたばりなさい、乱れ切り!」
ナギさんがそう言ってボムロックをめちゃくちゃに切りつけると、そいつも倒れた。
これであと4体。
だが油断は禁物だ。
僕とステラさんが魔法で1体ずつ倒し、ナギさんが剣でもう1体倒した。
残る1体は、怯えたのか逃げてしまった。
「よかったー!」
僕は途端に力が抜けて、そう言ってその場にへたり込んでしまった。
「お疲れ。
でもマインの人たちが待っているから、急ごう」
「そうだった」
ナギさんに促されて、僕は慌てて立ち上がり歩き出した。




