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命がけの調べもの

 ベッドに入ってから僕は、とんでもない事態になってしまったと改めて思った。

王宮の書庫に所蔵されている本を読めるというのは、確かに魅力的な話だ。

書庫にはきっと、希少本もあるに違いない。

それもきっと、一冊や二冊ではないだろう。でも僕が望んだような形ではない。

王都の一般人でも入れるような図書館で、ソーサリーにはまだ入ってきていない魔法書を読めれば十分だ。

ところが実際は僕らの調べものに、僕たち自身の運命のみならず、マインの町の運命がかかっている。

しかも期限はたった10日間。

そのうえステラさんとたったふたりきりで。

そこまで考えて、僕ははっとした。


今までステラさんと僕との間に入ってくれていた、ナギさんの手が、今回ばかりは借りられない。

別に僕は、ステラさんが嫌いなわけではない。

ただ、今まで接したことのない種類の相手だから、どういう風にふるまっていいかわからないというだけだ。

まあ僕は、そもそも女性に縁がなかったうえに、交友関係もひどく狭いから、仕方ないのだけれども。

こうなったらできるだけ本に集中して、彼女とは必要最低限の事務的な会話だけを交わすことにしよう。

これまでの旅路で、ステラさんは僕が口下手だとわかってくれているだろう。

だからあまり話さないからと言って、僕を嫌な奴だとは思わないはずだ。

僕はむりやりそう考えて、自分を納得させた。


 次の日、僕とステラさんは並んで本を読んでいた。

場所はもちろん、王宮の書庫。

古代語が読める僕が古代語で書かれた本、ステラさんが現代語の本という風に、最初に担当を決めておいた。

僕らはどちらかが一冊読み終えるごとに、なにか有益な情報はあったかと相手に尋ねた。

結果はいつも同じで、尋ねられた方は黙ってかぶりを振る。

朝からずっと、こんなことを繰り返している。

いろいろな文献をあたっていくうち、僕は同じ話にも異説がいくつかあるのだと気づいた。

例えば、正義の神エウディケスが助太刀しようとして逆にとらえられてしまったとか、剣を作る際に地母神ミュレーが最強の鋼を創り出したとかだ。

どちらにせよ、絶望的な話には違いない。

最高神アルケラトスほどではないにせよ、エウディケスは決して弱い神ではない。

最強の鋼と言われても、詳しい記述がないからそれに近い素材を探せない。

仮にそのような素材が見つかったとしても、そこから腕の立つ武器職人を探して剣を作ってもらうなんて、時間がかかりすぎる。

そして剣ができても、ナギさんが使いこなせなければ意味がない。

そんなことを考えつつ、さらに数冊の文献を読んでいくうちに日はどんどん暮れていった。今日はここまでかと僕らは言い合い、宿屋に帰ることにした。


「お帰り」

 先に宿屋に帰っていたナギさんは、僕らの姿を認めてそれだけ言った。

僕とステラさんは、ただいまと力なく言う。

ナギさんの方にも成果はなかったのだろうし、彼女の方でも僕らが有力な情報を見つけられなかったとわかったらしい。

表情が明らかに暗いのだ。

僕らは3人とも、しばらく黙り込んでしまった。

やがてステラさんが遠慮がちに言う。

「お腹がすいていると、その、なんというか、気分が沈みますから、なにか食べに行きませんか?」

「そうだね。そうしよっか」

 ナギさんの表情が少し緩む。

僕もほっとしてうなずいた。


「町が広すぎて、どこになにがあるかさっぱり。

散々歩き回ったけど、アクセサリー屋なんて見つからなかったよ。

こりゃ、自力じゃ無理だね。明日、町の人を捕まえて尋ねてみる」

ナギさんは鶏のフリットをつつきながらそう言った。

ステラさんは軽くうなずいて、返事をする。

「それでは、ついでに道具屋も探してきてくださいよ。

もちろん買い物するときには、値引き交渉をお忘れなく」

「わかってるってば。

ワイン一杯、頼めないぐらいだからね。

それで、そっちはどうだったの?」

「これと言って、めぼしい情報はありませんでしたね。

どの文献も似たような記述ばかりで。

そうですよね、ねえダグラス」

「あ、う、うん」

 いきなり話を振られて、僕は危うくむせそうになった。

ステラさんは僕の密かな格闘になど気づかず、話を続けた。

「あらかじめドラゴン伝説に関する本を選び出しておいてくださいと、王宮側に頼んでおいたのですが、それでもかなりの分量です。

なんとしてでも、あと9日で解決策を見つけなくては」

「頑張ってと言いたいところだけど、もう十分頑張っているんだよね、きっと。

だからあまり、気負いすぎないで。

まあ町ひとつ、下手したら国ひとつの運命がかかっているわけだから、そう言われても無理かもしれないけどさ」

「まあ、できる限りのことをするだけですよ。

ただ口を開けて待っていても、なにも降って来ませんからね。

ではお互い、自分の持てる力を尽くすということで、いいのではないでしょうか」

「うん、それもそうだね。

じゃあ料理が冷めちゃう前に、早く食べて明日に備えようか」

「ええ、そうしましょう」


 それから僕らは、目の前の料理を黙々と食べ進めた。

さすがは王都だ。

料理の値段はソーサリーやテンプルと比べて高いが、味はかなりいい。

もっとも値段が高いから、おいしく感じるだけかもしれないが。

明日以降のことは確かに不安だけれども、ここはステラさんが言う通り、できることをするまでだ。

僕の古代語の知識だって、役に立っていないわけじゃない。

僕らは食事を終え、ステラさんが代金を払った。

そして宿屋に戻って、さっさと眠りについた。

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