表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

いざ王都へ

 王都への道のりは、テンプルへの山道に比べればましだった。

でもなにしろ出てくるモンスターが強くて、僕らは時々苦戦した。


まずはさっきも戦った火吹き鳥。

それから夜に出現する、ブラッドバット。

こいつはこちらを混乱させる音を出す上に、吸血攻撃で体力を奪ってくる。


さらにはオーク。

こいつはメイスを投げて全体攻撃を仕掛けてくる。

僕は何度も、こいつらの攻撃に倒れそうになった。


実戦からしか得られないものがあるとは、ナギさんが言った通りだった。

テンプルでステラさんが仲間に加わってくれて、本当に良かった。


回復魔法には何度も助けられている。

それに火吹き鳥やブラッドバットといった空を飛ぶ敵を、クロスボウで何度も仕留めてもらっている。


とたんに僕は、なんだか自分が情けなくなった。

以前のように休んでばかりということはなくなった。

それでも魔法攻撃以外で、このパーティの役に立っているという気がしない。


僕でもなにか、役に立つことはないだろうか。

パーティの中で唯一の男手なんだから、常識的に考えれば力仕事が得意だという話になるだろう。

だが僕は、悲しいほどに体力がない。


普段から体を動かしているナギさんはもちろん、聖職者であるステラさんと比べても、体力に自信はない。


実際以前は、旅路の途中でしょっちゅう休憩をお願いしていたわけだし。

僕はいつの間にかため息をついていた。


「どうしたの、ダグラス?

疲れた?

少し休む?」


 ナギさんが僕の顔を覗き込んでいる。

僕のため息は、相当大きかったのだろう。

僕はためらった。


ここで本音を吐いてもいいのだろうか?

でも自分が役に立っているかどうか尋ねて、役立たずと言われたらどうしよう。

だけどナギさんをあまり心配させるのもよくないと思い、覚悟を決めて僕は言った。


「いや、あの、僕って、その、役に立っているのかなって」

 ナギさんはそう、と言って少し黙った。

やっぱり言うべきじゃなかったかな。

僕は後悔したが、もう遅い。


「まあ確かに、あんたがなにを考えているんだろうって、あたしは時々不安になるよ。

それにあたしやステラと比べて、外を歩くことにも慣れてないし」

「そっか」


 僕はうなだれた。

でもナギさんの言葉には続きがあった。


「でもあんたの魔法攻撃には、本当に助けられているよ。

あたしは剣を扱えても、魔法は使えない。

ステラは回復魔法が使えるけど、攻撃魔法は光系だけ。


あたしとステラにも苦手なことはある。

もちろんあんたにも。

それでも苦手なことを互いに補い合って、なんとかなっている。

それでいいんじゃないかな?」


「うん、ありがとう」

「ちょっとは元気出た?

じゃ、先を急ごうか」

 僕はうなずいて、ナギさんの後に続いた。


 それから先の旅路は、野宿したり途中の村で食料補給と宿泊をしたりした。

しばらくはその繰り返しだった。

そうして10日ほどが過ぎ、一体いつ王都が見えてくるんだろうと僕は絶望しかけた。


そう思いながら歩いていると、森の向こうに立派な城壁が見えてきた。

これまで見てきた城壁とは、明らかに格が違うのがわかる。

いよいよ王都かと、僕は身震いした。


 「だーかーらー、あたしは王宮から任命された勇者です!

ここにその、任命状とやらもありますって!」


「それが偽造されたものでないと、どうやって証明できる?

悪いが、信用できんね」


 ナギさんと門番が、さっきからこんな調子で、押し問答をしている。

さすがは王都、警備が固い。


でも困った。

ずっと膠着状態で、状況が動きそうな気配がまるで感じられない。

いつまでこの状態なんだろうと僕が思っていると、不意に声がした。


「ナギ殿ではありませんか!

無事にここまでやって来られたのですね」


 声がした方を振り返ると、初老の男性が立っていた。

彼は今まさに馬車から降りてきた感じで、後ろにはふたりの騎士が控えている。


品のある顔立ちに、きれいに櫛が入った髪。

金や銀の糸で刺繍が施された、いかにも上質そうなワインレッドの服。


ひと目で身分の高い人だとわかる。

馬車を引く2頭の馬も、黒光りするほど毛並みがつややかだ。


こんな高貴そうな人が、どうしてナギさんを知っているんだろう。

ナギさんは彼を認めると、今にもつかみかかりそうな勢いで吠えた。


「ちょっとチャリスさん、ひどいですよ!

仮にもあたしに勇者をやれというなら、もっとその、ちゃんとしてください!」


「ちょっとナギ、落ち着いてください。

そもそもこちらは、どなたなのですか?」


 ステラさんにたしなめられたナギさんは、ため息交じりに言った。

「あたしに勇者任命の知らせを持ってきた、王宮の人。

この人、あたしにこの剣だけ渡して、後は適当に仲間を見つけて王都に来いって言ったの」


「まあ」

 ステラさんはそう言ったきり、黙ってしまった


。僕が彼女の立場でも、そうしただろう。

まさか勇者任命が、そんな適当な感じで行なわれていたとは思わなかった。

当のチャリス氏は、僕とステラさんの驚きや、ナギさんの怒りなど気にする様子もない。


「門番殿、この者、ナギ・エイベルは王宮から正式に任命された勇者ですよ。

連れのおふたりと共に、通してさしあげなさい。」

「そうでしたか。チャリス様がそうおっしゃるなら、この3人を通しましょう」

「ありがとうございます」


 口ではお礼を言っているが、ナギさんはまだ不満気だ。

チャリス氏は、彼女の不機嫌など、相変わらず気にせずに言った。

「せっかくここでお会いできたのですから、共に王宮に行こうではありませんか。

ナギ殿たちにおかれましても、そちらの方がよろしいでしょう。

道中で旅の話など、聞かせていただきたいですな」


「はい」

 ナギさんは完全にあきらめきったような顔だ。

相手との格の違いを思い知らされたんじゃないだろうか。


一方は王宮勤めの身。

もう一方は勇者とはいえ、もとは一介の村娘だった身だ。

その差は歴然としている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ