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新しい服

 「お帰り。その様子だと、うまく行ったみたいだな」

 それがマクレーン氏の第一声だった。

ステラさんはうんと言って、満面の笑みを浮かべる。


 ナギさんと僕は父娘のやり取りを見届けてから、ステラさんに続いて家に入った。

「ふたりの衣装ができているよ。

さっそく着てみるといい。

もしも不具合があったら言ってくれ。

手直しするから」


 マクレーン氏はそう言うと、仕事部屋に行って服を2着持ってきた。

そしてナギさんと僕に、それぞれの分を手渡してくれた。

「ナギは私の部屋で着替えましょうか。

ダグラスはお父さんの部屋で」


 ステラさんの提案に対して、ナギさんは申し訳なさそうに答えた。

「本当にいろいろとありがとう。

いいのかな、ここまでしてもらって」


 「遠慮しないでくださいよ。

それだけのことをしてくれたから、当然です」

「うん、そういうことにしておくよ。

実感はないけどね」


 そんな会話を交わしながら、ナギさんとステラさんは2階への階段を上っていく。

僕もマクレーン氏と一緒に、彼女たちの後を追った。


 マクレーン氏の部屋で、もらった服を改めて眺めた。

軽い素材で作られたシャツと上着、それにズボン。


 これで動きにくい服から解放されると期待しつつ、袖を通す。

最高だ。

今までの服よりも、ずっと動きやすくて着心地がいい。


 それに旅人にふさわしいつくりなのも気に入った。

僕の口から、自然とお礼が漏れる。


 「ありがとうございます」

「着心地はどうだい。

気になるところはないか?」

 僕がかぶりを振ると、マクレーン氏は安心したようにうなずいた。


 「気に入ってくれたなら、それでいい。

台所でお茶でも飲みながら、ナギ君とステラを待つことにしよう」

 マクレーン氏の提案に、僕はうなずいた。


 カップ半分ほどお茶を飲んだころ、ふたりが戻ってきた。

ナギさんはねえ立ってみてと僕に言い、僕はそれに従った。

そして僕を上から下まで眺めてから言った。


 「あんたの方はそんな感じなのね。

うん、よく似合ってるよ。

ねえ、あたしはどうかな?」


 ナギさんはその場でくるりと回った。丈

の短いジャケットとハーフパンツという格好だ。

今までの擦り切れそうな男物の服を着ていたときより、ずっとかわいい。


 僕は照れ隠しのように、目をそらしながら言った。

「いいと思う」

「本当? ありがとう!」


 ナギさんは嬉しそうだ。

僕らの会話を見届けてから、ステラさんが満足そうに言った。

「これでようやく、勇者一行らしくなりましたね。

今までの服では、とても王都には行けませんよ」


 「そっか、いよいよ王都に行くんだね。

ねえ、道はわかる?」


 ナギさんの問いはもっともで、僕らふたりは王都への行き方を知らない。

ステラさんならば知っているかと思っていたら、意外にもマクレーン氏が問いに答えた。


 「クラフト山のふもとの道を北に進めば、王都に行けるよ。

テンプルに戻ってもいいが、ずっと遠回りになってしまうからね」


 「王都へ行ったことがあるんですか?」

 ナギさんはちょっとびっくりしている。


 「ああ、亡き妻との新婚旅行でな。

もうすっかり、昔の話だが」

 マクレーン氏は、遠くを眺めるような目をしていた。


 「そうでしたか。ありがとうございます」

 ナギさんは感情を込めずにそう言った。

どう反応したものか、困っているのだろう。


 「では、少し休んだら出発しましょうか。

あまり遅くなるのも、よくありませんからね」

 ステラさんは、そうきっぱりと言った。


「ふたりとも、ステラをよろしくな。

ステラ、無理はするなよ。

まあお前のことだから、大丈夫だと思うが」


「心配しないでよ、お父さん。

私はもう大人なんだから。

それじゃ、行ってくるね」


 そんなことを言いながら、マクレーン父娘はしばし抱き合った。

次にいつ会えるかわからない親子。

僕は両親にもっとちゃんとさよならを言ってくればよかったと後悔した。


 しんみりしてしまった僕をよそに、ナギさんとステラさんは道具屋の方に歩き出している。

遅れないように、僕もあわてて彼女たちに続く。


 振り返って見ると、マクレーン氏は早くも家に入ろうとしていた。

なんだ、思ったよりもこの父娘はドライなんだな。


 町の外に出ると、確かにクラフト山のふもとに続きそうな道がある。

いよいよ王都かと思っていると、突然炎が降ってきた。

慌てて身をかわす。


 火吹き鳥だ。

僕はワンドを構えて、水系の魔法をぶつけてやろうとした。

でも相手が素早く飛び回るせいで、なかなか狙いが定まらない。


 ナギさんも剣で応戦しようとしているが、こちらも苦戦している。

どうしようと思っていたら、火吹き鳥の体を一本の矢が貫いた。

矢が飛んできた方向を見ると、クロスボウを構えたステラさんがいた。


 彼女は以前、メイスを持っていなかったか?

ナギさんが驚いて尋ねる。


 「ステラ、いつの間にクロスボウを?

あんたの武器はメイスじゃなかった?」


 「神官長様にお目こぼしをいただいたのです。

モンスター相手に神の奇跡を説いても無駄だから、盗賊時代の武器を使っていいとおっしゃっていました。

私としても、こちらの方が扱いやすいですね」


 ステラさんはなにか問題でもと言いたそうな顔をしていた。

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