新たな仲間
神官長はステラさんをなだめるかのように、軽い笑みを浮かべてうなずくと、僕とナギさんの方に視線を移して言った。
「それはそうと、後ろのふたり組は誰だ?」
「申し遅れました。
この方々が、今回私を助けてくれたのですよ」
ステラさんの答えに応じるかのように、ナギさんはぺこりと頭を下げた。
「初めまして、神官長さん。
あたしは勇者のナギ・エイベルです。
こっちの彼は、ソーサリー出身の魔法使い、ダグラス・ソーンダイクです」
ついでに紹介されたので、僕もあいまいに頭を下げる。
神官長が状況をわかりかねているので、ステラさんは説明を続けた。
「私がかつての仲間に脅されていたところを、ふたりが助けてくれたのです。
さらにテイラーまで、護衛についてきてくれました」
「おお、そうだったのか。
ステラが世話になったのか。
ありがとう、私からもお礼を言おう。
それにしても勇者ということは、また以前のように魔王が現れたのか?」
「ええ、王宮からの使者はそう言っていました。
まだ、あたし自身は実感してはいないですけど」
神官長の問いに、ナギさんは微妙な顔で答えている。
「言われてみれば、そうですね。
勇者もいれば魔王もいるはずだと、考えてもみませんでした」
ステラさんは、今更気がついたらしい。
まあ、無理もないか。
これまで自分の過去の後始末に追われていたわけだから。
神官長は、ナギさんとステラさんを交互に見ながら言った。
「さてナギ殿、ステラを助けてくれたお礼をしなければならないが、なにがいいかね?」
「いえ、そんな、結構ですよ。
ステラさんのお父さんからも、服をもらう約束になっていますし」
ナギさんは戸惑っている、だが神官長は続けた。
「人ひとりを助けたのだから、そう遠慮することはない。
では、こういうのはどうだろうか?
君たちは勇者と魔法使いのパーティで、回復魔法の使い手がいない。
この町に来たのも、新たな仲間を求めてではないかね?」
「はい、それはそうですが、それがどうかしましたか?」
ナギさんは質問に質問で返したが、神官長は構わず続けた。
「まあ聞きたまえ。
新たな仲間として、ステラは適任ではないかね?
テンプルとテイラーを行き来する旅路で、彼女の回復魔法には助けられたはずだ。
聖職者を連れているのに、まさかいちいち回復薬で回復していたということはないだろう」
「えっ、それってつまり」
「そう、ステラを君たちのパーティに加えるのはどうかという提案だ。
勇者のパーティに加わっての旅は、本人にとってもいい修行になるだろうし」
「その、あの、あたしはもちろんうれしいのですけど、その、ステラさん本人は」
僕もナギさんに全面的に同意する。
ここでステラさんが加わってくれれば、まさに渡りに船だ。
でも本人はどう考えているかわからない。もしかしたら、テンプルに残りたいかもしれない。
「あら、私は別に構いませんよ?
どうぞよろしく、勇者様」
「ええ、ああ、はい」
話があまりにもあっさりと決まりすぎて、ナギさんは拍子抜けしたようだ。
「では、決まりだな。
ナギ殿、ステラをよろしく頼むぞ」
「は、はい」
ナギさんは相変わらず気の抜けた声で、神官長の言葉に応じている。
「さあ、これで私たちは正式に仲間になったわけですから、『さん』だとか敬語だとかはもう不要ですよ」
ステラさんはどこか嬉しそうだが、ナギさんは納得がいかない様子だ。
「そういうステラさん自身が、敬語で話してるじゃないですか」
「私はいいんです。
うっかり盗賊時代の癖が出ては困りますからね」
「あ、そういうこと。
じゃあよろしく、ステラ」
「はい、こちらこそ」
ナギさんとステラさんは、すっかり打ち解けたみたいだ。
僕の方は、かなり怪しい。
現に彼女たちのどちらも、今すぐ呼び捨てにできる自信がない。
そう思っていると、神官長はひとつの提案をしてきた。
「ナギ殿、ダグラス殿、ふたりともせっかくだから、大神殿にお参りしてくるといい。
本来は祭りの日にしか、内部を公開しないのだが、今日はステラの門出の日だから特別だ。
道中で神のご加護があるよう、祈ってきなさい」
「本当に、いろいろとありがとうございます」
ナギさんは少し申し訳なさそうにしている。
神官長さん、なんて粋な計らいをしてくれるんだ!
どこかに聖典が飾られてはいないだろうか。
それを拝めたら、僕はもう舞い上がってしまうだろう。
「神殿内部は、私が案内しましょう。
では神官長様、失礼いたします」
ステラさんは、早くもドアノブに手をかけている。
神官長はちょっとと言って、彼女を手招きした。
「なんでしょうか?」
「旅の資金と、助言を書いた手紙を渡しておこうと思ってな」
「ありがとうございます」
ステラさんは神官長の手から、小さな袋を受け取って嬉しそうにほほ笑んだ。
神官長は彼女の様子を見て、満足そうにうなずいて言った。
「元気でな。
くれぐれも無理はしないでほしい」
「ええ、ご心配ありがとうございます。
神官長様も、どうぞご自愛ください」
ステラさんを先頭に、僕らは廊下に出た。
「それにしてもよかった。
うまく行って」
ナギさんが明るい声で言った。
僕もほっとしている。
神官長に会うまでの暗い雰囲気が、今となっては嘘のようだ。
ステラさんは、まだそうでもなさそうだけど。
「本当に、ありがとうございました。
今度は私が、ふたりに恩返しする番ですね」
「いやいや、いいって。
ステラが普段から真面目だから、神官長さんも認めてくれたんだよ」
「うーん、そうなんですかね。
それよりも早く神殿にお参りしてきましょうよ」
そんな会話を交わしながら歩くふたりの後に、僕はついて歩いた。




