仕立て屋のマクレーン氏
次の日、朝食を終えた僕は、下着姿でマクレーン氏の前に立っていた。
「お願いします」
僕がそう言うと、マクレーン氏は大きくうなずいて採寸を始めた。
しばらくお互いに黙ったままだったが、やがてマクレーン氏は昔話を始めた。
「ルナにもステラにも、ずいぶん迷惑をかけてしまった。
女房は腕のいい機織りだった。
それだけでなく、これまた気立てのいい女でなあ。
女房はあまり丈夫なたちではなかったが、病に倒れたかと思ったら、血を吐いてあっという間だったよ。
私の嘆き様に、娘たちはあきれてしまったんだろうなあ。
あのころ、私はどのように日々を過ごしていたか、まるで思い出せない。
仕事が手につかなかったことだけは、はっきりと覚えているんだけど。
ルナが仕送りをしてくれたが、それだけではとても足りなくて、ステラには、つらい思いをさせてしまった。
あの娘が盗みをしていたことは、もちろん気づいていたが、強くは言えなかった。
どこかで私自身のせいだと思っていたからね。
もちろん叱り飛ばしたことは何度もあったが、気難しい年ごろの娘のことだ、ろくに聞き入れてはくれなかったよ。
親の責任を問われれば、私は逃げるつもりはない。
だが、私もステラも、苦しんでいたのは事実なんだ」
僕はどう返事をしていいものかわからず、はあとかええとか、あいまいにあいづちを打っていた。
にもかかわらずマクレーン氏は、かせでも外れたかのようにしゃべり続けた。
「だからステラが足を洗って聖職者になると言ったとき、本当に救われた思いがした。
娘を正しい道へといざなってくれるよう、私はテクナルト様にずっと祈りをささげていたんだ。
ステラが決意した日、あの娘の部屋から祈りの声が聞こえてきた。
あの娘は確かに罪を犯した。それは素直に認めよう。
でも根っからの悪者ではないことは、私が保障するよ。
そうでなければ、自分の過ちを償いはしなかっただろうからね。
さあ、これでおしまいだ。もう服を着ていいよ」
そう言いながら、マクレーン氏は僕の肩をポンと叩いた。
「ありがとうございます」
僕はつぶやくようにそう言った。
服を着ながら、マクレーン氏の言葉を反芻してみる。
前にも言った通り、僕はあまり信心深い方ではない。
だから困ったときに神に祈るという行為が、イマイチ理解できない。
でも、と僕は思いなおした。マクレーン氏ぐらいの年齢になると、自分の手に負えることと負えないこととの区別ができるようになるのかもしれない。
そして、手に負えないことを自分よりも上位の存在、つまり神に託したくなるのかもしれない。それが、もうそんなに若くはない僕の結論だった。




