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盗賊団ニュクス

「さあ、ここだ」

 チンピラは、小さな民家の前で立ち止まった。

窓から明かりが漏れているが、中で誰かが動いている気配はなさそうだ。

家の前には数人の若い男女が、待ちくたびれたとでも言いそうな顔で立っている。

どの顔も決して温厚ではなさそうだ。

若者たちの中央では、ひときわガラの悪そうな男が、ダガーを構えている。

こいつがボスなんだろうな。


「ああ、やっぱり私の家!

それにチート、なぜあなたがいるのです!」

 ステラさんは驚きを通り越して、嘆いている。

「クレイス姉さん、あんたならわかるだろ?

盗賊同士のつながりを使えば、あんたがどこの誰だか、わからなくはないんだぜ。

まあ、さすがに5年もかかっちまったけどな」

チートと呼ばれた男は、横柄に答えた。

こいつがニュクスのボスだとしても、ステラさんとはどういう関係なんだろう。

ステラさんを「姉さん」と言っているから、おそらくは盗賊時代の部下なんだろうけど。

「だれですか、この人?」

 ナギさんが小声でステラさんに尋ねる。

「私の盗賊時代の仲間です。

まさかいまだに盗みをしていて、ニュクスという盗賊団まで率いているとは思いませんでしたけど」

 ステラさんはひどく苦みばしった声でそう答えてから、チートに向き直った。

「私の父は無事なんでしょうね?」

「ま、今のところは、な。

もっとも、姉さんの出方次第じゃ、どうなるかねえ」


「卑怯者!」

 唐突にナギさんが吠えた。

剣の柄に手をかけて、いつでも抜ける体制にしている。

争いごとは避けて通りたい僕でも、こいつの態度は我慢できない。

ただ当人は、自分がなにをしているのか、まるで自覚はないのだろうけど。

「まあ、そう怒るな。

なあ姉さん、また盗みをしないか?

姉さんが入ってくれたら、ニュクスはもっとデカくなれるぜ」

 やっぱり。

こいつは自分が、どれほどステラさんを苦しめ、困らせているか、全くわかっていない。

「馬鹿なことを言わないでください。

私はもう、盗賊ではなく聖職者です。

それに私は、いまだに過去の行ないを悔いています。

あなたも、さっさと足を洗ってください」

 ステラさんは言葉を投げつけるように言った。

それでもチート本人は、なにを言われたかまるで気にしている様子はない。

このクズが。

まあもっとも、元引きこもりにこんなセリフを言われたくはないだろうけど。

「交渉決裂か。しょうがねえな」

 チートはそう言うと、ダガーをステラさんに向けた。

ステラさんは彼をにらみつけ、メイスを構えた。

「そちらがその気ならば、仕方ありませんね」


 どうする気だろう。

できることならば、流血沙汰にはならないでほしい。

僕がそう思っていると、チートが先に動いた。

危ない。身構えたその瞬間、ステラさんが詠唱を始めた。

「万物を魅了する光、スターライト!」

 途端にあたりがまばゆい光に包まれた。

そしてゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、バサリという謎の音。

なにかが起きているのだろうけど、まぶしすぎてなにが起きているのかわからない。

やがてあたりが暗くなり、視界が戻ってきた。

目に飛び込んできた光景に、僕は言葉を失った。

チートとその一味が地面に転がっていて、ご丁寧にもその上に網がかぶせられていたのだ。ステラさんの仕業だろうか?

ナギさんも僕と同じように、唖然としている。


「姉さん、ずるいぞ!」

 チートが吠えたが、ステラさんは毅然とした態度だ。

「その言葉、あなたにそっくりお返しいたします。

じきに警察が来るでしょうから、そこでお待ちなさい。

もっとも、その網にはとりもちが付いていますから、簡単には逃げられないでしょうけどね」

「クソっ!」

 悔しさ全開のチートを無視して、ステラさんは家に近づいて鍵を開けた。

「どうぞ、いらっしゃい」

 ステラさんが僕らを手招きする。

日はとっくの昔に暮れていて、欠け始めた月が、あたりを照らしていた。

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