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祈りの町テンプル

 それからの旅路は、これまでとあまり変わらなかった。

ただしこれまでにはいなかった、ムービングプラントやトリックフェアリーといったモンスターが出現するようになったが。

外の空気にもだんだん慣れてきたのか、これまでのようにすぐに疲れてしまうということは減った。

ただしナギさんに比べれば、まだまだ僕は弱々しいとは思う。


 そう思っていたら、道が上り坂になり始めた。

クラフト山のふもとに差し掛かったのだろう。

歩くことには慣れた僕だが、上り坂では息が上がる。

しかも昨日の雨で道がぬかるんでいる。

またしても僕はたびたびの休憩をお願いして、ナギさんにあきれられる羽目になった。

その日は結局野宿になり、それから別の村に1泊し、また野宿してからしばらく歩くと、城壁と高台にある神殿とが見えてきた。

城門に近づいて門番に尋ねると、ここはテンプルの町だと返ってきた。も

ちろん尋ねたのは僕ではないけれども。


 あたりにはもう夕闇が迫っていた。

町に入るとナギさんは、僕に尋ねた。

「どうする、酒場に行って仲間を探す?

そろそろ酒場が開く時間だろうし」

「知らない人とは話せない……」

 僕は消え入りそうな声で返事をした。

そうだった。これから仲間を探さなきゃいけないんだ。

僕がそれきり黙っていると、ナギさんがため息交じりに言った。

「しょうがないなあ。じゃあ、食堂で夕飯と行こうか」

「うん」

 僕はやっとの思いでうなずいた。


でも、食堂がどっちにあるのか、見当もつかない。

ナギさんも同じらしく、あたりを見回している。

やがて彼女はなにかに気づいたらしく、視線を一点に向けた。

その視線を追うと、高台のふもとに人が集まっている様子が見て取れた。

その場所から高台にある神殿まで、太い道が一本伸びている。

そういうことか。おそらくあの辺りは、参拝客目当ての食堂や商店が集まっている一角なのだろう。

僕らはうなずき合い、そちらに向けて歩き出した。


 歩きながら僕は、想像していたよりもこの町が普通だと思った。

そうは言っても、私兵を護衛として家族で行った別荘地にある田舎町を除いては、僕はソーサリー以外の町を知らない。

だから神殿都市というものは荘厳な雰囲気に満ちていて、常に祈りのための歌がどこからか聞こえてくるものだと勝手に想像していた。

テンプルはソーサリーよりは小さく、聖職者らしい人も時折見かける。

そして高台にある神殿は、ソーサリーの町にあるものよりもはるかに立派で大きい。

でも、言ってしまえば神殿都市らしいところは、それだけだ。

町を歩く人は様々な格好をしているから、巡礼の人も多いのかもしれない。

僕はついつい、周囲を見回しながら歩いていた。


 すると、不意に女性の声がした。

「あなたたち、この町は初めてですか?

あんまり不慣れな様子を見せない方がいいですよ」

 声のする方を見ると、ひとりの女性が立っていた。

長い黒髪に、露出の少ない白っぽい服。

聖職者なのだろうか。

「えっと、あなたは、どちら様ですか?」

 ナギさんが女性に対して、戸惑った様子で尋ねている。

女性は少し首をかしげて答えた。

「私はご覧の通り、テクナルト神に仕える聖職者です。

それよりも、神殿都市だからといって、安全なわけではないのですよ。

たとえば財布をすられてしまう可能性もあるのです。

ほら、こんな風に」

 女性が掲げた手には、いつの間にかナギさんの財布が握られていた。

ナギさんは、明らかに腹を立てていた。

「ちょっと、あなた!

聖職者のふりをした盗賊ですか!

返してくださいよ」

「私は盗賊ではありませんよ。

言われなくても返して差し上げます」

 女性はあっさりとナギさんに財布を返した。

ナギさんは財布をしまいながら、なお怒りを抑えずに言った。

「仮にあなたが盗賊ではないとしても、ここまでしなくてもいいじゃないですか!」

「あなたたちが、あまりにも不用心に見えたものですから、ついついお節介になってしまいました。

でも、本当に気を付けてくださいね。

この辺りでは最近、ニュクスと名乗る盗賊団が暗躍しているそうですから」

「盗賊団……。

わかりました、ありがとうございます」

「では、私はこれで」

 女性はそれだけ言うと、さっさと人ごみに紛れてしまった。


 あの人はなんだったんだろう?

聖職者の格好をした盗賊なら、素直に財布を返すはずはないし、本物の聖職者にしてはやり方が荒っぽい。

ナギさんを見ると、財布の中身を確かめていた。

「中身も無事みたい。

じゃあ、食堂探し再開だね」

 ナギさんは、いまだに納得がいかないという感じだった。

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