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アイドルとしての第一歩……?

 手を引かれて連れて来られたのは街中の小さなステージだった。


 駅前の公園の中にあるので人通りはそれなりに多いし、近くにあるロータリーやデパートから吐き出される人々の流れとぶつかってここは潮目になっている。


 もちろん学校の生徒も目の前をよく通る。


「め、メル……? こんなところに連れてきてどうするつもり……?」



「アタシが思うに、アンタが今ナヨナヨしてるのは自分に自信がないからなわけ。だからいっそ究極に目立てばその恐れも消えてなくなるかな、って」



「と、いうと……?」


「ミク、私とここで踊れ。このステージ人がいない時は自由に使っていいヤツだから」


「え……えぇーーーーーッ!?」


「ほら、つべこべ言わずに乗った乗った!」


 ムリヤリ手を引かれてステージの上に連れて来られた。


 周囲の人々も何だ何だ、とこちらを見ている。

 思わずその視線の量に圧倒された。



「お、おい、何だ、あの二人組は……?」

「女子学生の集団ですかね……?」

「集団ってか、二人しかいないけどな……」

「歌でも歌う気か? ……わははっ!」


 駅に向かう仕事終わりの会社員たちの群れに。



「おかあさ〜〜ん、あれ何やるの〜〜?」

「さぁねぇ、バンドとかでは無さげだけど……」

「なんで制服なの? ぷ◯きゅあかなぁ?」

「さぁねぇ、そうなのかもねぇ……?」


 駅前を通る親子連れの会話。



「お、姫宮とミクじゃん」

「なんであんなとこにいんの……?」

「どうせ姫宮にまた連れて来られたんだろ」

「仲良いな〜〜アイツら」


「あははっ、縮こまっちゃって可愛い〜〜♡」

「ミク君、大人気ね」

「あんだけ可愛ければ彼氏にしたい奴もいるかもね」

「彼、氏……なの? 彼女じゃなくて……?」


 駅前を通る同級生たちの群れ。


 ーーいや、そこは彼氏でお願いします。

 




 ………………って、それどころじゃなくて!



「う、うぅ……恥ずかしい、恥ずかしいよぅ……!」


「お前なぁ、このまま一生そうやって縮こまって生きていく気か? そんなん無理っしょ。今ここで一回度胸見せちゃえば、誰もアンタをからかうことはなくなるって」


「で、でも……」


「ミク、アンタだって踊れるじゃん。昔よくアイドルの練習に付き合わせたっしょ?」


「ま、まあ、たしかに……」


 アイドルを目指していた頃のメルに無理やり練習に付き合わされたことがあるので踊れるっちゃ踊れるけども……。


「でも、こんな大勢の前で急に踊れって言われても……」


「……しゃあないな、お前」


「え……っ?」




 カバッ。





「め、メル……?」


「静かに。いいから黙ってろ」


 




 ざわざわざわざわ……!


 駅前をロータリーが途端に騒ついた。





「おっ、な、何だありゃ?」

「なんか二人でハグしてるぞ……?」

「な、何だってこんなところで……?」


「お、おかあさん? な、何で急に急ぐの……?」

「い、いや、別に……何でもないわよ……?」



「「「「お〜〜〜〜!」」」」


「何か抱き合ってるぞアイツら!」

「まさかそこまで行ってたなんて……」

「でも何でこんな目立つところで……」

「見せつけか……? ……ヒュ〜〜♪」


「「「「きゃ〜〜〜〜♡」」」」


「姫宮さん、ダイタンすぎ〜〜!」

「こ、これは……っ」

「見てはいけないものを見てしまったような……っ」

「二人の秘密を見てしまったのかしら……!?」

「百合……ッ!? 百合だったのね、あの二人……!?」





「め、メル、ちょっと……っ!?」


「大丈夫だから。今はアタシだけを見て」


「…………えっ?」


 言われた通りにメルを見上げる。

 そこにはいつもと違う優しい笑顔のメルがいた。


「アンタがどうなっても、大丈夫。アタシの中では……アンタがずっと『一番』だからさ」


「……メル」


 抱きしめられた柔らかな胸の奥で、メルの速い心臓の音が聞こえた。


 メルもドキドキしてるんだ、と思ったら、何故だかすっごく、安心できた。


「ねぇ、もう怖くないでしょ?」


「う、うん……」


 メルの腕の隙間からステージの下を見下ろしたけど、ドキドキしてそれどころではないので不思議と怖くはなかった。


「怖くなったらアタシだけを見な! さ、そろそろ行くよ! ……ワン、ツー、さん、し……ッ!」




「……あーーもうっ、どうなっても知らないっ!」





「おぉ、急に踊りはじめた……っ」

「上手く……はないけど、こう、何というか……」

「……可愛い……だな」

「か、課長……いつの間に…………ッ!?」



「あ、お母さ〜〜ん、お姉ちゃんたち踊ってる〜〜!」

「踊ってるわねぇ」

「何でさっきは隠したの……?」

「さ、さぁ……何でかしらね……?」




「あ、アイツらマジか……ッ!」

「急に度胸ありすぎんだろ……!」

「てか、何で急に踊んの…………?」


「……はーい、みんなーー! ってことで、ミクはもうこの見た目恥ずかしがってねぇからーー! もういい加減からかうな〜〜!?」


「「「「うーーすっ!」」」」


「ひ、姫宮……」

「そ、それ言うのが狙いだったのか……」

「それだけのために、ここまでやるか普通……?」

「やっぱぶっ飛んでるわ……アイツら……」


「ミク君おどらされてるの可愛い〜〜♡」

「ちっちゃくて可愛い〜〜♡」

「もうお前ら何してても可愛いのかよ……」


「ぶっちゃけ同じ女として他の女の子がモテるのはムカつくけどミク君ならいいかな、って」

「ミク君は姫宮さんに一途でしょ?」

「正直可愛いって言われて困ってるところも可愛い」

「アンタら……」

「正直すぎて怖いわ……」

「ミク君、強く生きて……」


「で!? 百合なのねッ!? 百合だったということでいいのかしら、結局あの二人は……ッ!?」


 大騒ぎにはなったけど、これを機にとりあえずみんなに受け入れてもらえたようなので良かった。

展開遅くてすみません……。


次回、メルの真意とは何だったのか……?


「新生ユニット・爆誕」?

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