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フォトモザイク

 ずうっと清掃業を続けてる、としか聞いてなかったですね。いや、含みのある感じで、「ちょっと特殊な」って付け加えてたかな。でも、それくらいです。




 気にならないですよ。このご時世、隣の部屋の人が仕事、何してるのかとか、いちいち気にしませんって。このアパートに住んでる人たち、全員そんなもんでしょ。誰も、隣人の職業とか知らないと思いますよ、多分。




 ぱっと見は、普通の人でしたよ。本当に普通の。明るくもなく、暗くもなく。まあ、時々会ったら挨拶するくらいですから、そこまで知っているわけではないですけど。


 でもとにかく、いかにも何かしそうだな、とかは思わなかったです。今でも、あの人があんな事件を起こすなんてちょっとぴんとこないくらいですから。




 そうです。一度、あの人の部屋に入ったことあります。


 なんでだったかな、確か、何かで物を貸し借りして、お礼にお茶でもってことで部屋にあげてもらったんだったと思います。そこのあたりはあんまり覚えてないけど。




 覚えているのは、部屋がきれいだったこと。きれいっていうより、物がないって言うのかな。生活感のない部屋で、やけにがらんとしているなって思ったのは覚えてます。テーブルの周りにクッションが一つだけ。一つしかないんで、あの人は立ったまま、僕に座るように言って。いや、そりゃあ遠慮しましたけど、まあ、強くすすめられたんで座って。それで、冷たい麦茶をいただきましたね。




 そしたら、壁に変なものがあるのが目に入ったんです。それははっきり覚えています。絵です。壁に、直接セロハンテープで絵が貼ってあったんですよ。絵っていうか、絵を印刷した紙ですかね。サイズは、B4です。


 そんな詳しいわけじゃあないけど、有名なモチーフなんですぐに分かりました。マリリン・モンローのイラストでした。




 変でしょ、そんなのが貼ってあるの?


 それで、気になってお茶を飲みながらじっと見ちゃったんです。


 そうしたら、「気になる?」って。ごまかすのも変なんで、正直に、はい、って答えてから、「それ何なんですか?」って聞いたんです。あの人、「あげるよ」って。壁から剥がして、その紙、僕にくれたんです。




 そう、あそこに貼ってあるの、その紙です。マリリン・モンローのイラスト。




 あれね、近づいてみたら分かるんですけど、モザイク画なんですよ。


 ただのモザイク画じゃなくて、知ってます? フォトモザイクってやつです。あの、沢山の写真をモザイクみたいに組み合わせて一枚の絵にするやつです。そうそう、見たことあるでしょ。


 あれ多分、パソコンのソフトか何かを使って、無数の写真でマリリン・モンローのモザイク画をつくったのを、プリンターで印刷したものなんですよ。B4サイズに縮小されてますからね、元々の写真が何なのかはかなり近づいても分かりません。




 それでね。




 あの事件のことを聞いて、ちょっと気になったから、確認してみたんです。ああ、別に、スキャナーであの絵をパソコンに取り込んでから、拡大してみただけですよ。特別なことはしてません。


 確かに、かなり解像度は低くなりますけど、大体どんな写真かくらいは分かります。




 あのマリリン・モンローね、いろんな、無人の部屋の写真からできてますよ。


 ああ、ドレスとかの白い部分は紙の写真からできてます。はっきりとは分からないけど、あれは多分、いろいろな人の遺書だと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ あの事件を参考にですか! [一言] この犯人?の心境を読者に委ねているのが流石ですね。「猟奇」だったのか「領収書」扱いだったのか「罪」を見つめていたのか・・・。
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