12話 他視点
「や、やめなひゃい!!!」
電車で貴族に絡まれていた私を震える声で守ってくれたのは一人の少女だった。
自分だって怖いはずなのに貴族相手に震えながら制止して、涙目になりながらも貴族に立ち向かってくれた。
見ず知らずの私のために。
貴族に逆らえば下手をすれば罰せられるかもしれないのに、貴族を止めてくれた。
他の人たちは見て見ぬふりをしていたのに、助けてくれたのは同い年で、同じく平民のセレスちゃんだった。
セレスちゃんは本当にいい子。
寡黙だけれど、ちゃんと私の話を全部聞いてくれて。
そそっかしくて危なっかしいところもあるけれど、そこがまたほっとけない。
セレスちゃんと一緒に学校に行ける事になってとっても嬉しかったのに。
何でこんなことになったんだろう。
貴族に絡まれてしまった私がCクラスなのは仕方ない。運がなかったんだ。
平民が権力のある貴族に目をつけられてしまったらこうなる事は、この学校に入る前に、魔法を教えてくれた先生に延々と説明をうけていた。
貴族にだけは逆らうなって。
学校では貴族も平民も平等などという宣伝文句は、建前でしかない。
どんなに正しい事をしても罰せられるのは平民だと。
だから覚悟はできていたのに、セレスちゃんまで巻き込まれるなんて。
本当はCクラスだったらすぐに家に帰るつもりだった。
だって学費を無駄にしちゃうもの。
亡くなった両親の代わりに、育ててくれた叔父様に迷惑をかけるわけにはいかないと思ってた。
でもごめんなさい、叔父様
セレスちゃんが諦めていないなら、私は最後までセレスちゃんに付き合おうと思う。
だって、私のせいだもの。
7ケ月の学費を無駄にしちゃうけれど、働いてきっと返すから、どうか私の我がままをお許しください。
せめて7か月で退学させられても、セレスちゃんがやりたいことをやれるように頑張る。
それが私に出来る精いっぱいの償いだから。
■□■
(――これは酷い)
魔法で姿を隠しながら、セディスはため息をついた。
国王の命令でセレスを陰ながら見守っているが、この二人のテストの結果は明らかにおかしい。
テストの様子を見ていたが、聖王国の宮廷魔術師のセディスの目から見ても二人は十分SもしくはAクラスの出来だった。
以前からサラディウスの学問の質が下がっているという噂はあったが、まさかテスト結果を改ざんまでして、理事長の息子のご機嫌を優先するとは……。
各国から魔族に対抗するために優秀な人材を育て上げると資金援助をうけている学園がこのような事をしているとしたら、大問題だ。
すぐにでも陛下に報告すべきだろう。
聖王国の力で介入すれば二人をSクラスにすることなどたやすい。
だが、Sクラスで入りたかったのならセレスは最初から身分を隠すことなく入学すればよかっただけの話なのだ。
……まさかセレスティア様はサラディウスの腐敗を正そうと、平民に……ここまで計算して行動していた……?
思えば電車に乗るときも挙動不審で電車を一本乗り過ごしていたのも、セレスの入念な計画だったのかもしれない。理事長の息子と同じ車両に乗るために。
セディスはごくりと息を呑む。
私はお嬢様を過小評価していたようだ……と。
■□■
「さて、私の可愛い息子ちゃんを虐めた連中をCクラスにできたかしら?」
「はい。記録を改ざんし、あの少女二人をCクラスにいれました」
理事長室で、理事長カディナが教師に説明を求めれば、教師は頷いた。
電車で理事長の息子のマークに暴力を振るった無礼な平民がいると報告を受けていた。
そしてそれがサラディウスの生徒であることも。
そんな無礼な生徒を普通に学園を卒業させるなど到底許せることではない。
それが故、テスト結果を改ざんし、落ちこぼれのCクラスに入れたのだ。
「ならよかったわ。うちのマークちゃんに恥をかかせるなんて本当に許せない。
初日の授業の実技の教師はファンドルだったかしら?」
「はい。そうですが……」
「面白い事を思いついたわ」
と、カディナは怪しい笑みを浮かべた。
初日の授業は、魔物を教師が倒すさまを見せるという授業のはずだ。
そこで息子のマークに大恥をかかせたという生徒二人に少し痛い目をみてもらおう。
マークの報告では、平民の新入生がマークに言い寄って来たあげく、断ったら暴力をふるわれたという話なのだ。
私の可愛いマークに言い寄るとか許されない。あの子に纏わりつく虫は排除しなければ。











