霜の朝
ザック、ザック、ザクッ。
地面を踏みしめる音が響きます。
ザクッ、ザクッ。
朝、真子ちゃんは、眠い目をこすって頑張って起き出しました。
真子ちゃんは、小学二年生です。
今日も、北国の寒い朝に、小学校へ行く途中です。
まだ雪は積もっていません。けれど昨日の夜に、少しぼたん雪が降りました。
真子ちゃんのお母さんは、道路で滑らないようにね、と心配して真子ちゃんを見送りました。
この辺りは、道路が凍って、よく滑って怪我をする童子が多いのです。
真子ちゃんはお母さんの言いつけに、大きく頷いて、張り切って家を出ました。
いつもはゆううつになる学校。
寒いし、真子ちゃんは、学校独特の集団が苦手なのでした。
それでも今日は、いつもは下ろしっぱなしの髪を、お気に入りのゴムで二つに結っていました。
特別な日なのです。
ザクリ。
「おはよう。霜柱さん」
「よう、久しぶりだな、マコ」
「うん。今日は霜柱さんが出来る日だから、真子、楽しみにしれたんだあ」
「元気だったか?」
「うん。元気だよ霜柱さんは?」
真子ちゃんはしゃがんで、地面の霜柱に話しかけていました。
楽しそうな会話からして、真子ちゃんと霜柱は親しい関係のようです。
「うん。まあ聞いてくれ。結構今年は大変だったんだよ。温暖化に加えて、水不足だろ?俺っちも出てくるのが遅くなっちまったあ」
「そっかあ。大変だったね。そういえばお母さんも、今年は暖かくて好いって云ってた」
「ああ。そうかい。まったくやだね。こっちは寒くなくちゃ出て来れないっていうのに」
「実は真子も・・・」
「お前もかあっ!」
「朝寒いんだもん。でも霜柱さんに逢えないのは寂しかったよ?」
「・・・まあ、別にいいけどな。俺っちは寒さの象徴だ」
「うん。霜柱さんは、寒いからね!真子も好き!」
真子ちゃんは白い手袋で、霜柱の氷を優しく撫でました。霜柱は、擽ったそうに、嬉しそうに赤面します。
すると、遠くから男の子の声が響きました。真子ちゃんの名前を呼んでいます。
「ありゃ、誰だよ」
「くらだ君。同じクラスだよ。一緒に学校行ってるの」
「確か、お前苛められてたんじゃなかったか?」
「うん。仲直りしたの」
「ふうん。まあ、好きな子には苛めたくなるってやつだったんだろう。若いねえ」
「苛めたく・・・?好きなのに、苛めるの?くらた君、莫迦なの?」
「うわっ。こいつはっきり云いやがったっ。男心を莫迦って云ったっ。マコ、そういうとこは、人に云っちゃ駄目だぞ」
「?・・・うん?」
まだ恋は、真子ちゃんには早いようです。
やれやれ、マコと話せるのも、後何年だろうか、と霜柱は耽りました。
まだ小さい頃から見てきたのにな。霜柱は溜息をつきました。
いつかマコは悲しむかもしれない。
そう思っても、離れる時までは一緒に居たかったのです。
やれやれ、俺っちも情が湧いちまったのかなあ。
滑りそうな道路を器用に駆けて、くらた君の元に走り行く特別な女の子を、霜柱は懐かしい気持ちでしばらく眺めていました。