表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3



私は、ウイルエル様に急かされ、天界へと急いで戻り、アレグリオという名の人を探し・・・・ませんでした。

だって天界へ帰ったら、アレグリオ様が既に待っていらっしゃいました。

しかも、アレグリオ様・・・・人では無く神様で・・・私が天界へ来た時に殴り飛ばしたお方でした。

つまり・・・天界で一番偉い人です。吹っ飛ばしましたけど・・・

普段ダイリ様と呼ばれていましたし、女神の末席に引っかかっているだけの私では、その様な方に近寄る事など出来ませんでしたから、本当の名前がアレグリオ様だなんて知りませんでした。


そして、そのアレグリオ様ですが、天界に戻った私を見るなり大きな溜息を出し


「私がアレグリオですよ。どうせ貴女の事ですから、私の名前など知らなかったのでしょう。事情は貴女よりも知っていますから、説明は不要です。既に、全ての準備を整えてありますから、とっとと転生してください。」


気怠そうに、それでいて早口という、器用な喋り方で言い切ると、アレグリオ様は私の額を思いっきり押さえつけ・・・私を天界から突き落としました。

ちょっと痛かったです。



そうして私は地上で新たな、一生を始める事となりました。

・・・なったのですが・・・


「なんなんですか、このモフモフとした身体は。」


ウイルエル様もモフモフなのですが・・


「なんなんですか、丸いフォルムは。」


こんな身体でも女性なので、丸いフォルムと言うのは、やめてほしいのですが・・・


「なんなんですか、この三角の小さなお耳にスラリとした尻尾は。なんて、魅惑的なボディをしているのですか!」


そんな事を言われても困ります。

私は天界から落とされただけなんで。


「ちょっ・・ちょっと、ウイルエル様・・・まっ待ってください。」


そう言ったはずなのに、私の口から出てくるのは『ミーミーミー』という鳴き声です。


どうも。私、女神・・・改め猫と申します。

ただ今、恋人・・・改め保護者のお腹の上でもがいている最中です。


アレグリオ様に天界から落とされた私は、街の路地裏で野良猫の子供として生を受けました。

自分が猫として、産まれたと気付いた時は、きっと寿命が尽きるまでウイルエル様には会えないのだろうと、諦めていました。だってウイルエル様こと現在のベスが暮らしているのは、神殿の中で、元神官長の飼い犬として、大切に育てられていましたから。ですが、私が生後2ヶ月ごろに、あっさりと見つけられ、母乳を飲んでいる所を引き剥がされ、半ば無理矢理神殿へと連れ去られました。

現世での私の母は、私を連れ去って行くウイルエル様に対して、怒るでも無く『行ってらっしゃーい。』といって、あっさり私を送り出しましたよ。もう少し惜しんでくれても・・・とも思いましたが、母は多産だったらしく、私の他に7匹も子猫がいたので仕方ありません。


というわけで、ベスことウイルエル様が、私を育ててくれています。

餌をくれるのは、神殿で働く人達ですが、主な世話はウイルエル様です。


そうして私は、現在・・・全力で戸惑っています。

自分が猫である事に対して、ではありませんよ。


手を繋いだ事すら無かったのに、全身を舐めまわされている事にです。

今の私は、ウイルエル様のふかふかのお腹の上に乗せられ、ベロッベロのデロッデロに舐めまわされています。

ですが、甘い雰囲気は微塵もありません。ただの毛繕いなので・・・

でも私は、見た目こそ子猫ですが、元人間で元女神です。そして、どちらの一生も異性に触れる事すら、稀な一生だったのです。

無理です!色々・・・本当に色々無理です!!


「あの・・・ウイルエル様・・・そろそろ、やめて下さい。」


「ですが、ほらここの毛繕いがまだですよ。」


何故ウイルエル様は平然と、私の事を舐め回すのですか!!

手も繋いだ事が無かったのですよ!当然キスなんて、夢の夢だったのですよ。それなのに、それなのに・・・

全てをすっ飛ばして、全身をベロッベロですよ!!

手を繋ぐ、キスをする。という段階を完全に無視して、全身を舐められていますよ!!


「本当に・・・もう無理です・・・離して下さい。」


私のグッタリとした声とは対照的に、ウイルエル様の声は、とても上機嫌です。


「嫌です。貴女はこれから一生・・・いいえ、来世もずっと私と一緒にいるのですから。慣れてください。」


「一緒にいるのは大賛成ですが、もう少しもう少しだけ距離をとってください。」


「私と離れていたいと?」


悲しい顔をして、そんな事を聞かないでください。


「その聞き方は卑怯です。」


「卑怯と言われようと、私は貴女が側にいてくれればそれで良いのですよ。」


ウイルエル様のフサフサとした尾が、パタパタと忙しなく地面を掃除しています。

そんなに上機嫌で、『貴女が側にいてくれれば・・・』なんて言われれば、私の戸惑いや恥ずかしさなど投げ捨てて、ウイルエル様に身を委ねても良い気になってしまいます。

なってしまいますが、素直になれない気持ちも残っているのです。


「ううぅ・・・本当に卑怯です。でも、来世まで一緒に居られるかなんて、分からないんですからね。」


少し、意地悪を言ったつもりだったのですが、何故でしょう。ウイルエル様はキョトンとした顔をしています。


「何を言っているのです?来世は確実に一緒ですよ?」


「へぇ?」


「だって、私はオガムですし、貴女は女神なんですから、世界が終わるまでずーっと一緒ですよ。」


ウイルエル様、拝むんですか?犬の姿になっても神官長を続けているんですね、凄いですね。来世も拝む為に、神官になるのでしょうか?


私は元女神ですが、今は只の猫ですからね。 来世も猫に生まれ変わって、好きに生きられたらいいなぁ。くらいしか考えていませんでしたよ。


世界が終わるまでずーっと一緒ですか?そうですね、何度転生を繰り返しても出会える恋人同士なんて、憧れちゃいます。


「凄いですね、ウイルエル様はまた、神官に生まれ変わりたいのですね。」


「神官?何を言っているのですか?」


「でも、今拝むって・・・。」


「男神ですよ。むしろ、拝まれる方ですよ。」


拝まれる方??

オガム・・・オガ・・・ミ?

男神!!!


ちょっと、待ってください。男神ってあの男神ですよね??

・・・あれ??


「犬の神様ですか?」


私の知っているウイルエル様は、元神官長で、今はお犬様です。

私が死んでからずっとウイルエル様の姿を見ていましたが、人々に信仰を説いてはいても、信仰心を向けられる事はありませんでした。

となると、私が猫に転生している間に何かあったのだと思ったのですが・・・・


「ある意味犬の神様でもありますが、強いて言うのならば、この星の神様です。」


星・・・星・・・星・・・星は、土で出来ていますよね?


「土の神様ですか?」


「違います。」


星・・星・・星・・土の次に多いのは、水でしょうか?


「水の神様ですか?」


「違いますよ。天地創造の神様です。」


「いつの間にそんな変わった神様になったんですか?」


「えっと、この世界が作られた時からですが。驚かないのですね。」


「充分驚いてます。テレンチ製造の神様だなんて・・・テレンチってこの世界が作られた時からあったんですね。色々ビックリです。」


テレンチ、それはテレンの実を粉にして、水と混ぜて丸く焼いた物。

野菜やお肉をくるんで食べると、とても美味しいんですよ。私、テレンチ大好きです。ウイルエル様がテレンチ製造の神様なら、毎日食べ放題ですね。ですよね。

何故そんな呆れた様な目で私を見ているんですか?


「テレンチ製造の神って・・・・テレンチは郷土料理でしょう。しかも、製造の神って何ですか?原材料を加工する神様ですか?テレンチ限定の?」


「ワァー、スゴイデスネ。」


私、真顔ですよ。多分真顔です。引きつっていないはず。

それなのにウイルエル様は、私の額を一舐めすると、小さな溜息を吐き出しました。

何故でしょう、舐められた恥ずかしさよりも、悔しさを感じるのですが。まるで『ファリステは、馬鹿だなぁ。』と言われている気がするのですが。


「この世界を作った者の事ですよ。天地創造の神ですよ。」


「へぇ。」


ウイルエル様、大丈夫でしょうか?

もしかして、これが世に言う思春期病でしょうか?

ウイルエル様は、普段こんな事を言う様な方ではありません。きっと私が魂を落っことしたばかりに、魂に傷が入ってしまったんですね。



「ファリステ、今、とっても失礼な事を考えていますね。」


大丈夫です。私はどんなウイルエル様でも、愛してみせます。他の神々に白い目で見られようとも。

自分が、天地創造の神様という、イタイ妄想に取り憑かれていても。


勿論、ウイルエル様に向かってそんな事は言いませんよ。思春期病の人を否定すると、意固地になってしまうと聞いた事がありますから。


「そっ、そんな事ありませんよ。ただ、ウイルエル様が天地創造の神様なのでしたら、私の様な元女神なだけの猫では、釣り合いがとれないなと・・・。」


一生懸命可愛らしく、それでいて悲しそうに言えば、ウイルエル様は残念な子を見る様な目で、大きな溜息を吐き出します。


「ファリステは、天界で何をしていたのです?神は転生しようとも、人々の信仰心が無くならない限りは、ずっと神ですよ。逆に人々の信仰心が無くなれば、ただの魂として、転生を繰り返す事になりますが。」


「へーソウナンデスカ。」


そういえば、正式に女神となった時に、そんな話を聞いた様な気もしますが、覚えてないです。なんたって、地上に居るウイルエル様の事が気になって、気になって、それどころではなかったので。

浮気を監視していたわけでは、ありませんよ。そもそも勝手に死んだ私が、どうこう言って良いはずなんてありませんからね・・・・

私はただ。ウイルエル様が亡くなったらその魂を迎えに行って、私の手で、きちんと転生させてあげたいと思って、見守っていただけです。

うっかり、最短で犬に転生させてしまいましたが・・・


ともかく、私は猫としての一生を終えれば、女神として天界に帰るんですね。でも、ウイルエル様はどうなるんでしょうか。本人は、天地創造の神だなんて言ってますが、私、天界でウイルエル様の話なんて聞いた事ありませんし、天界で一番偉い神様は、ダイリ様と呼ばれているアレグリオという名の神様ですし。


「ファリステ、私の話を信じていませんね。」


「え?そっそンな事無いですよ。」


目を泳がせる私に、ウイルエル様は溜息を吐き出し、ゆっくりと顔を空へと向けました。


「アレグリオ、ファリステが信じてくれないんだが・・」


アレグリオ・・・通称ダイリ様。はい、私が殴った神様ですね。

ウイルエル様、友人に話かける様に空に向かって話しかけていますが、天界で一番偉い神様がそうそう返事なんて・・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ