47 神隠し/夕暮れ
半年ぶりの更新じゃー!!
二つの足跡が壁や天井に反響する。
一歩下がると相手も一歩詰め、だんだんと距離を縮めてくる。
胸が熱い、心臓は今にも飛び出そうなくらい強く鼓動する。
体が暑く、体温が高くなるのを感じる。
なんだか真夏の直射日光をガッツリ浴びてる気分。
「そう逃げるなって〜。嬢ちゃん美味そうだからさぁ、食べてあげようとしてるだけじゃ〜ん?」
「ヒッ……」
壁にぶつかり、もう後はなくなる。
捕食しようとしてくる武士が気持ち悪い顔(見えないけど)で迫って来る。
相手の顔なんぞこれ以上見たくなく、目を閉じてしまう。
「ほーら、捕まえ——」
「わっちが目ぇつけた者を気安く穢す気か?」
気配がすぐそこまで来たところでぼくは体を動かしていないのに”勝手に”口が開き、目を開いては武士を睨む。
勝手に開かれた視界には触れられそうなくらいの近さで武士の右手が近づいており、本体の方は蛇に睨まれた蛙のように静止しているのが映った。
「燃えろ……!」
そう勝手に口から言葉を吐かれ、勝手にぼくの手が武士の手を払う。
「な、何すんだよこのガキ!! 突然……。ん?」
武士が怒鳴ったのも束の間払われた手は金色の炎に包まれる。
あれ? あれってさっき分断される瞬間、嵐くんが包み込まれた炎??
「アチャー!! アツいアツい!! 焼かれる!! 腕が焼かれるぅぁぁぁぁぁ!!」
「ちょっ! 揺らすな馬鹿モン!!!! 年寄りをうやまえ!!」
「うっせージジィ!! あっちいて黙ってろ!!」
燃える腕に騒ぎたて、冷静さを欠く武士の背負われた神様はギャーギャー騒ぎ、挙句神様は壁にぶん投げられ頭からぶっ刺さった。
そんな光景を横目に僕の手はまたもや勝手に動き、嵐くんが付けてくれた紅い刀のネックレスを取って金色の炎に包まれる。
「双銃展開、冠。彩層ON!」
金色の炎に焼かれる武士を前にして、両手に銃、瞳には何かのゲージが二つ表示される。
「ターゲット、ロックオン。右銃、並びに左銃、充填完了」
なにこれ? 何が始まるの?? ぼくの体で何をやろうとしてるの???
何かによって使われ、体は動かせないまま銃口は武士に照準を定められる。
「陽の舞 銃式 玖ノ型」
明らかな殺意を感じる。
それは雷雨くんのと似てるけど、それとは違う。
「仄日」
左から出た弾丸は腹部を、右から出た弾丸が頭部を貫く。
それと共に頭部はポロリ落ちる。
あ、この武士もデュラハン? なんか和風……。
「うわぁぁぁぁぁ!!! 俺、人にこの姿見られたくないのにー!!」
「特式奥義」
その言葉と共に銃は金色の炎を戻って日本刀に変化し、目の前で痛みよりコンプレックスにもがく武士デュラハンに一歩一歩近づいて行く。
「紅炎!」
そうぼくの口から言葉が放たれる。
すると地面の淵から炎を巻き上げる形で斬撃を喰らわす。
ちょっとぼく何やらされてるの!?!?
斬撃? 金色の炎の付いた炎で斬撃!??
「あ゛あ゛ーっ!! 俺の下半身ん゛ーーッ!!」
なんか一気に濁点付いたような話し方になった……。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」などと鎧は焼け、真っ二つに割れた下半身を見ながら泣き叫び、そこらを転がる頭部。
「もう、うるさい!! 外まで聞こえるてるぅ!!」
そんな言葉が聞こえると頭部は斜め上へと打ち上がり、みごと天井にぶっ刺さる。
動かせぬ視界には綺麗な黒髪だけがチラつく。
「良い蹴りするなぁ、茜ちゃん」
「ちゃん呼びはやめてくださいって言いませんでっした?」
「うちから見たら皆んな子どもさかい、ちゃんかくんで十分」
♢♢♢
「どうしたどうした! 受けばかりでは楽しくないぞ!」
「こっちの気も知らないでうるせーなぁ、おい」
「心の声ダダ漏れだぞ?」
ガハハハと笑いながら西洋剣を振り回し挑発するデュラハン相手に俺は守式で攻撃を受け流し身を守る。
高ランクであろう相手によく時間を稼げていると思う。
少し手を抜かれてるか? いや、さっき金色の炎に焼かれてから体が軽い。
それも影響しているのだろう?
「そんなに力を抑えては刀が泣くぞ! さぁ振るえ振るえ!! 魅せろよ月の型!! 先代のように我を楽しませろ!! なぁ、小僧!!」
「クッ……、氷の幕 陸ノ型」
バチバチ火花を散らす刀から冷気が溢れデュラハンの剣先を軽く凍らす。
「氷雷——」
「おっと、もうそれは喰らわん……、束縛!!
「ッ!?」
瞬間、放とうとした妖力は断ち切られ、右腕に鎖模様の痣が刻まれる。
束縛、ということは氷雷を封じられたな……。
「先代は凛々しく満月のように美しい女性であったが、お前はどうなんだ?」
俺を見つめガハハハと高笑いをするデュラハン。
なんだか力量を試されてるみたいだ。
「何でお前は俺が月の継承者だって分かった? お前の前では月の型は勿論、月読命の名も出してないぞ」
「そんなもの、見れば分かる!!」
力を強めたか、俺は体制を崩され軽く後ろへ飛ばされる。
刹那、空気が痺れ俺とデュラハンの間に稲妻が走る。
俺は命の危機を感じ、耳に氷を張る。
「参ノ型 迅雷!!」
数秒して洞窟内に激しい雷鳴が響き渡る。
反響しまくる洞窟内は正に音地獄、耳栓をしてなければ間違いなく感覚が狂い、最悪鼓膜が破れるだろう。
俺は羽を広げて壁に着地し、視線をデュラハンに定める。
雷鳴に耳をやられたのか、壁に頭をぶったりしたらとフラフラしている。
雷雨が攻撃に入ったってことは茜さんから既に許可が降りているということ、今行かんでいつ行く!!
「そんなに見たきゃ見してやる! 月の幕 陸ノ型」
足に力を入れ、飛翔。
狐が飛び出すような感じで飛翔し、月に見立てた敵へとすれ違いざまに——斬る。
「孤月!!」
刃が胴体の鎧へと刃を通した時、上から剣で叩きつかれる。
妖力で作った羽は散り、唸り声を発して地に落ちる。
「はっ、先代は満月の様に美しく、凛とした立ち振る舞いは正に流麗な侍!しかし、小僧は二日月のように未熟!!哀れ哀れ!!」
俺を踏み躙りデュラハンはそう告げる。
視界にはいつでも攻撃できるよう、構えているのが見える。
俺がピンチにならない限り割り込む気はなささうだ。
……というか、雷雨さっきより感情が希薄になってないか? 普段ならもっと笑顔で——
「それに小僧、貴様は本当に未熟だな。月の巫の癖して刀の変化をさせられないとはな!」
ガハハハと未熟な俺を嘲笑い、踏みつけてくる足は更に強くなる。
俺は唸り声を発するも動けない、しかし雷雨も動こうとはせずこちらの顔を睨む。
まだ自分でやれるだろってか?
そう思った時、鎖の痣が入った自分の右腕が視界に映る。
先程束縛で封じられた印の様なもの……。
「拘束式妖術 氷牙の束縛!!!」
苦し紛れの中、俺は素早く術式を広げて中から氷の鎖を出現させる。
「そんな拘束術なんかで縛られるかよ!」
デュラハンは鎖を剣を振り払い雷雨が来たであろう出口の方へと後退していく。
続々と出てくる鎖に西洋剣では辛いのであろう。
「——逃すかよ、奥義 鳴神」
そう淡々とした声で神々しい雷がデュラハン目掛けて駆け抜け叩き打ち、気絶させる。
わざわざ気絶させる為だけに奥義使うなよ、馬鹿。
♢♢♢♢
「あの、茜さん。雷雨に呪雷、使わせました??」
「怒られる覚悟はできてるよ、嵐。一緒に怒られようね」
「ね……じゃないですよ! まーた養った感情喰われて……。しかも、確か前回も茜さん監督の時ですよね?」
なんだかんだあって逸れた嵐君達と無事合流し、銀狼を先頭に森の出口へと向かう。
合流の際、茜さんは嵐くんに勢いよくハリセンでぶっ叩かれていたけど何かあったのだろう?
「まーまー、俺の事は良いからさ。身延まんじゅう食う?」
割って入る形で雷雨くんが会話に混じる。
なんで身延まんじゅうなんだろ? そしてどっから出したんだろ? 疑問だらけ……。
さっきまで迷子の神様を相手してたのにいつのまに……!?
ぼくの斜め後ろを歩いてる神様に目をやると”のぶ”と刻まれた物を口にしていた。
神様、身延まんじゅうをお召しになられてる……。
というか、雷雨くん逸れる前より感情が希薄になってない?
もしかしてさっきから話してる難しい話と関係あるのかな?
「凪〜、ストップ〜」
少し考えながら歩いていると茜姉から止まるように声がかけられたので足を止めて振り返る。
「どうしたの? 茜姉——」
「ごめんね、凪」
ぼくの言葉を遮るように、温もりのある掌が顔へと触れる。
目の前の茜姉はなんぜだか申し訳なさそうな顔をして後ろに見える嵐くんも、心残りがありそうな顔をしている。
「本来、こんな神域に迷い込んだら巫女やもともと視える体質の人でない限り元の世界に帰せないんだけど……」
茜姉がぼくのおでこにおでこをくっつける。
——凛
風が吹いて木々が揺れ、涼やかな音が青空へと染み込んでいく。
それはまるでおじいちゃん家の縁側で鳴る風鈴のよう。
嵐くんや雷雨くん、銀狼や神様の声が聞こえる。
けどだんだん遠くなっていって何を言ってるか分からない。
あ、そうだ。嵐くんにこのネックレス返さないと……。
視界が揺らぐ、茜色の羽に包まれているのが薄ら見える。
ネックレスを握る手意外に力が入らない、ふわふわした感覚が襲って力が抜けて——。
◯
ひぐらしの鳴き声が耳に入り、目覚めると公園の東屋だった。
……ぼく、運動しに公園へ来たのに寝ちゃった? しかも、夕方まで……。
思い返そうと胸に手を当てると何か小さくて硬い物を感じる。
気になり取り出すとそれは紅い刀のネックレスだった。
「これってー……、——ヒャッ!!」
紅い刀のネックレスを夕焼け空に翳して眺めているといきなり頬っぺたに冷たい物が当たってなんか変な声を出してしまう。
反射的に冷たい物を当てられた方を見ると友達である嵐くんがいた。
「凪、起きたか。……つーか、さっきまで膝枕してた茜姉はどこに行ったんだ」
「う、うん今起きたとこ……。あと、ジュースありがとう」
……ん?
「まって? 茜姉もいるの?? なんで嵐くんいるの?」
起きたてのまだぼけ〜とした頭では考えられない……。
それに、直接聞いた方が早い!!
「あ、あぁ。この辺で用事があってな……、そしたらここで凪が寝てるんだもん、無防備な」
あぁ、そんな恥ずかしいとこを見られたなんて恥ずかしいよぉ。
なんでぼくこんなとこで寝ちゃってたの? バカ〜。
「それと、それは茜さんが凪のカ◯ピス勝手に飲んじゃったお詫び」
そう言って嵐くんはコーラを飲みはじめる。
丁度背景に月もあって、とても絵になる光景で見ていると”キュッ”と胸が締めつられてしまう。
嵐くん、なんかカッコ良すぎい? コーラ飲んでるだけなのに……。
胸の鼓動が止まらない。
「あ、凪起きた? おはよ〜」
そこにそよ風と共に飄々と後ろから声がかけられ振り向くと、にししと笑う茜姉がいた。
「凪置いてどこ行ってたん——」
「ごめんごめん、ちょっと電話を〜」
なんだか誤魔化すように遮る茜姉。
「それじゃ行くよ、嵐。雷雨待ってる」
「はいはい、行きますよ。じゃぁな、凪」
じゃぁねーと言って去っていく茜姉とそれについて行く嵐くんを見届け、私はカル◯スを飲む。
……美味しい。
ふと、胸に手を当てると何か足りない感じに襲われる。
何かここにあった気がするけど、何だっけ?
夕方五時の鐘がなるまでの時間、考えてもこのすっぽりと抜けた物の答えは出てこなかった……。




