45 神隠し/雷
「壱ノ型 落雷!!」
走って逃げてると後ろの方から黒いモヤがかかった紫色の気持ち悪い触手がぼくら目掛けて襲いかかってくる。
それを雷雨くんは空裂く稲妻のごとく斬り裂いた。
触手が来た方では黒いモヤと真っ白い片手剣を持った茜姉が戦ってるのが見て分かる。
あれ? でもさっき許可ないと戦えないって……。
身を守るためなら大丈夫なのだろうか??
そんなこんな考えていると雷雨くんが防ぎこぼした気持ち悪い触手がぼくたち目掛けて襲ってくる。
「———ッ! 氷の幕 弐ノ型」
一瞬、嵐くんはぼくの手を離しぼくの周りを一周するような形を取って、触手に歯向かう。
「氷華!!」
技名を言って抜刀、気づけば斬撃を入れられたであろう痕がついた触手は派手に氷つき、砕ける。
「妖力頂き!」
そう言ってまたぼくの腕を引っ張り走る。
妖力頂き!って言ってたけど、あの技はドレイン系の技なのだろうか?
そうこうして森の中をひた走ってるとボロい吊橋の前たどり着く。
雷雨くんと茜姉の姿は木々に隠れて見えない。
「凪、この吊り橋渡れるか?」
吊り橋の前で嵐くんが聞いてくる。
橋が架かってる岸と岸の長さはだいたいバレーコートの一面分くらいはあるだろうか……。
下を軽く見て背筋がゾクっと震える。
見た感じビル5階回建くらいはあるんじゃないかと思うくらいの深さになっており、下には岩が剥き出しで流れが急な渓流が。
「うん、多分渡れる」
唾を軽く飲み込み心の準備をする。
「よし、じゃぁ行くぞ」
「えあ、ちょっと!?」
心の準備が整う前に嵐くんにぼくの腕を再び引っ張られてボロい吊り橋へ。
ボロい吊り橋は見た目の通りボロく、揺れる揺れる。
これでよくロープが切れずに板も穴が開かない物だ。
「俺の手を離すなよ」
「う、うん」
なんだろ、いつにも増して嵐くんがカッコよく見える。
さっきとは違い、今はカッコいいと思ってしまった眼差しがぼくを見つめていて、胸の鼓動が治らない。
心臓が熱く高鳴り、胸が”キュッ”と引き締められる。
これは……、こ
「凪!! ロープにしっかり掴まれ!!」
脳内がピンクに染まりかけたところでそんな声がした。
直後、上流の方から強い風が吹き上げる。
咄嗟にロープを掴んだ手と嵐くんと繋いだ手に力を入れる。
今更だけど、嵐くんの手……、暖かい。
けど、ぼく手汗とか掻いてないかな? か、仮にも嵐くんはい、異性だし……。
別に、意識してるって訳じゃないけど……。
「——あ……」
そんな声とともに吊り橋は風に煽られ揺れに揺れ、雷鳴が響き渡る。
雷鳴が響く数コンマの間に橋は崩れ落ち、体は宙に舞う。
強風に飛ばされる刹那、視界にはベタついた液体と焼かれた触手。
そして、ボクを包み込む緑色の優しい翼——。
♢
嵐と凪と距離を置いた直後、雷雨は触手を斬り裂きながら茜へと狙いを定めていた。
「……ッ」
狙いを定める一方、雷雨の瞳には焦って判断をミスってしまったかつての自分が重なって見えていた。
そんな中、森はざわめきを増してゆく。
(いつまであわあわしてるよ、茜さんよぉ)
黒いモヤを纏った紫色の怪物からウザいほどに沸いてくる触手のせいで狙いを付けられずにいる者がいる一方、茜はあわあわしながらもしっかり攻撃はしていて、陰陽師のおじさんとバチバチ火花を散らしていた。
「やるねぇ、女子高生。さっきは三人もいたからビクビクしちゃったけど、今は怪魔が来たし君だけなら逃げれるね」
先程までの怯えっぷりはどこえやら、少し余裕ができたことに多少の喜びが垣間見える。
「それに、君は聖属性しか使えないでしょ? 女子高生」
その言葉を聞いた茜はあからさまにムッとなり、攻撃力を高めただけの物理攻撃を仕掛ける。
ブレッブレの白い片手剣がおじさんの後頭部を目指して落ちていく。
「はっはっ、分かりやすいなぁ。そのムスッとした顔も可愛いよ。流石、現役女子高生」
が、茜の片手剣による攻撃は揚々と避けられ煽られる。
「聖属性が効かないからって、調子に乗りすぎ!」
煽りに軽く乗せられ片手剣をブンブン振り回す。
もはや状況は悪くなる一方で……。
「そんなにぼくと対峙したいわ——ヒャァッ!!」
突然、体へと流れ込む電流によって茜の動きが止まる。
その間も触手はぬるぬると凪達が逃げた方へと伸びて斬られては再生を繰り返し、おじさんはどんどん距離を離して行く。
「いきなり可愛い声出してどうしたの? 女子高生」
後ろ走りで逃げて行くおじさんは隠しきれない喜びを顔に出し、煽る。
茜はというと、地面に手をつき膝をつき、雷雨にガンを飛ばす。
ガンを飛ばされた雷雨はたじろぐ事はなく、異様な威圧感を出して今か今かと触手を斬りながら茜を見つめていた。
瞳からは光が消えており、まるで、”今”ではなく”いつかの過去”を見つめているよう。
「間切 茜の名の下、戦闘を許可する!!」
地に伏せた茜は大きなため息を吐いた後、息を大きく吸って合図を出す。
それと同時に黒く禍々しい稲妻は敵の方へと駆け巡る。
「雷の舞 弐ノ型 雷撃」
触手を出し続ける紫色の怪物、雷雨は触手を避けて怪物の本体へ———斬撃。
直後紫色の怪物本体に強力な電流が流され、焼き焦げる。
黒いモヤ、否、負の感情が文字となり放出して空気中に溶け込んでいたそれはただの煙に変わる。
それと同時に神域を包んでいた不穏な感じは徐々に晴れ始めた。
「ヒッ、あれを一発で倒すとかなんかのギャグかな? 中学生だよね?」
紫色の怪物を倒され、動揺を隠せないおじさんは更に木々の合間を逃げる逃げる。
「それに、彼のランクでは到底あの怪魔の固まりを倒せないはずなんだけどなぁ」
「それ、どこ情報か後で教えてもらうからな」
「え?」
光の速さで距離を詰めた雷雨はおじさんの耳元でそう言うと、光なき黒い瞳に黄色い光を点して技を発動する。
「漆ノ型 雷霆」
流れるような——斬撃。
強力な雷を纏った斬撃を放った雷雨は地面へと滑り込む。
「安心しろ、峰打ちだ」
と、さっきまでの威圧感はどこへやら、年相応のカッコイイをやってみせる。
だがおじさんは雷雨の数メートル後ろに口から泡出して気絶しているため、聞こえはしない。
「ありゃ? 後半ぼくなんもしてないんですけど」
後を追ってスタスタと歩いてきた茜はとぼけた顔でそう言った。
「自分の得意な属性が効かないからってあわあわと動揺してた人に言われたくなーい」
おじさんを対妖術、呪術のロープでギッチギチに縛りながら雷雨は返答をする。
おじさんは気絶してるので当然何も喋らない。
時は来たりなぎあら教室!!
今回のお題は陰陽師!
陰陽師の最盛期から何百年?何千年?この世界の陰陽師達は黒、灰、白の三つの派閥に分かれて混沌を極めていた!!
白、それは他の祓屋なんかと協力したりして裏側から平和を守るヒーロー的な存在。
灰、中立者であり緊急時白と黒を連携させるためのストレスが溜まる派閥。まぁ、別のとこからもストレスが溜まる要因はあるそうだが……。
黒、犯罪をやっている民度最悪の派閥で白や紅葉組といった別の組織や派閥とは敵対関係にある。ただ、そのほとんどが下っ端であり上層部はまた別らしいとかなんとか?




