37 金色の炎
閻魔宮殿内にある医務室。
そこには俺たち三人だけが残っていた。
雪柳さんは俺たちが過去回想してる間に次期地獄の王たる器とされる蒼炎に宮殿放送で呼びだされ、「留守は頼んだよ」的なこと言い残して行ってしまった。
「結局のところ、過去を思い返して妖力チートぐらいしか話してない気がす――」
「そこです!」
「何がそこです! だ」
いきなりそこです、なんて言うから勢いよくツッコミを入れてしまったじゃんかよ……。たく〜。
「実はですね、凪先輩とさっき会った時からずーと妖力の量がどんどん多くなってるんですよ」
多い? 凪にそんな秘めたる力が眠ってたのか……。
「おいまて、だとすると凪に眠ってた力がめざめたってことか?」
地獄に来た影響か? それとも……。
左胸ポケットの上に右手を当て、少し下を向いて考える。
それと同時に胸ポケットにある紅魔刀がしっかりそこにあることを手の感覚で把握する。
地獄に来たのが原因で妖怪が見えるようになったのなら、昔、中二の時、あの時あの森に迷い込んだ時は何故見えなかった? いや、力が目覚めなかったというべきなのか。
「ねぇ先輩」
トントンと椿が俺の肩を軽く叩く。
「椿、ちょっと今考え中だ。話なら後にしてくれ」
俺はそう言ってトントン軽く叩いてくる椿の手を右手で払い、一人の空間に戻る。
二度にわたってこちら側の世界と干渉したからなのか、はたまたこっちに来た原因と言えるあのバカ気持ち悪い触手を使って俺らをボッコにしたあげく、凪を人質に取りやがった邪気野郎のせいなのか……。
……なんか、思い出しただけでクソイライラしてきたな。取り敢えず、あの邪気野郎にまたあったら今度こそ殺ってやる。
と邪気野郎に少しばかりのイライラを頭に溜め込んでいると。
……なんかこの部屋、少し暑くないか? さっきまで適温だったはずだろ
「ちょっ先輩、先輩ってば! せ! ん! ぱ! い!!」
椿に強く揺らされ視界が歪む。
「やめろ、酔う。視界がぐわんぐわんするからやめろ」
「あ、すみません」
謝罪の言葉とともに俺から椿の手が離れる。
たく、急に揺らすもんだから普段あまり言わない擬音語まで口から出たじゃんか。
揺らされたことによりほんの少し、ほんの少しだが気持ち悪くなる。
手を口にあてつつ視線を前へと向ける。
「それで、俺になん……のよぅ……だぁ、あ?」
視線を向けた先、紅色と場所によっては臙脂色が仄かに混じった金色の炎が紅魔刀を軸に凪が横たわるベッドの上で燃え盛っていた。
今さっきの酔いが治ってしまうほどの衝撃が俺を襲う。
金色の炎は小学生時代に何回か見たことがある。
確か火ノ裏さんにこんなことを言われたっけ――『これは将来、お前の相棒となる者が使う炎だ。しっかり覚えておくんだよ。これは炎属性や晴属性といった派生とは一線を画す太陽属性――』
そんな過去のことを思い出し、改めて金色の炎を見つめる。
金色の炎が本当に太陽属性の炎なら、凪が紅魔刀に選ばれたことになる。
俺達二人が金色の炎に唖然としていると、紅魔刀は炎を纏いながら今日俺があげた地獄桜の花弁の髪飾りの中へと入っていく。
入った瞬間、髪飾りに紅葉のマークが一瞬だけ、浮かび上がったように見えた。
それはどこか、身近なところで見たことのあるマークだったが、ほんの一瞬のため分からない。
ただ一つ、これだけははっきりと言える。
あれはたった今、《鍵》となった。
「よかった、今ので多少の呪いが焼けた」
ん、呪い?
たった今、呪いと発言した椿へと、俺は目を向けた。
紅葉組に伝わる《月の伝承》
月に選ばれし巫(巫女)、太陽の巫女(巫)を探す。後継者となった者、【七つの剣】【英雄】【太陽の巫(巫女)】とともに闇を照らす月となれ。




