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凪る嵐に光明を  作者: 雪風風兎
凪&嵐編 第肆幕 レッツGo! クエスト受注
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36 教えて、仕事内容


「大丈夫か、凪?」


 急に調子が悪くなった凪をおんぶして俺たち三人は医務室へ、飛沫は忘れ物を取って大焦熱地獄戻るために自室へと向かった。


 凪をおんぶして気づいたが胸、正しくいうと胸ポケットにある紅魔刀から発せられていた熱はいつの間にか収まっていた。


「うん、だい……じょう……」


「凪?」


「先輩、寝てしまいましたよ」

 

「あぁ……」


 凪が自分の背中で寝ていると思うと少し、ほんの少しだが脈が速くなる。

 それに凪からくる甘い匂い(おそらく汗拭きシート)が鼻を掠めるのも脈が速くなる要因だろう。

 

「ふと思ったんですけど、先輩」


「なんだ、まさか流さんからの伝言を伝え忘れとかなにかあるとか言うんじゃないよな」


 スマホの渡し忘れ、千玄神社の出入り口が変わってしまったこと、これの他にまだになにかあるのだろうか。


「あ、いや。そんなんじゃないです。ただ……」


「ただ?」


「いやぁ、先輩はいつ凪先輩に惚れたのかな〜と、思いまして」


「お前は知らなくていいだろ」


 もう自分自身の顔が赤くなっていることだろう。

 なんたって自分の恋バナを寝ているとはいえ本人の前でさせられるとこだったのだから。


「先輩、……恥ずかしがってますね」


 プププと言いたげな顔をしてこちらを見つめてくる。


 俺が凪を好きになった時の出来事なんか、こいつの記憶からはとっくに消えてるよ。

 あの森での出来事は、妖怪が元々見える者を除いては、忘れているのが掟なのだから……。


「おい椿、医務室前だからニヤニヤしてないで扉開けろ」


 気づけばもう医務室前、これで元々出る予定であった出口からはだいぶ遠ざかってしまった。


「しょうがないですね〜、先輩は手が塞がってますからね」


 なにやら嫌味を言った椿だが、大人しくコンコンとスライド式の扉をノックする。

 ノックをしてすぐに扉の向こう側からはいどうぞと返事が返ってくる。

 椿が医務室の扉を開け、俺たちは部屋の中へと足を踏み入れる。


 医務室に入って目にしたのは……、八寒地獄でお世話になったあの薬剤師であった。



「げぇ、雪柳さん……」


 正直、この鬼神ひとに会いたくなかった……。


「げぇ、じゃないよ君ぃ。お、その背中の子可愛いねぇ」


 理由としてはこの通りどう考えても女たらしだということ、年齢はどこまでが範囲内なのかは知らないけど確実に凪も対象に当たるだろう。

 今、堂々と言ってたしさ。

 というか……、この人閻魔宮殿医務室(ここ)の担当だったけ?



「この子……凪はやりませんよ。それとここで少し休ませて貰いますから」


 凪を近くのベッドに寝かせ布団をかける。


「……ッ!?」


 うっかり凪の寝顔をみてしまい心臓が高鳴ってしまった。ほんと、可愛いすぎだよ、凪。

 それと同時に地獄へと送られる前に付けられたおでこのあざが、少しばかり気になってしまう。


「嵐先輩、凪先輩にときめいてないでまず座りましょ」


 椿はそう言いながら近くにある桃色のソファーへと腰をかける。

 俺も立ってるのが辛いと感じ始め、ソファーへと腰を下ろす。


 光矢 椿、この名前を大広間で聞いてから少しだけ、椿の部分ではなく光矢のところが突っかかる。

 昔、そう、小学生ぐらいのことなんだが、記憶の戸棚が開かなくて困る。

 日常あるあるというのだろうか、思い出したい時に出てこなくて変な時や不必要な時に思い出す……。


「さっきから見てた感じ、()(彼女)、付き合ってるんでしょ? だから、僕が彼女に目をつけたことに独占欲が沸いたんでしょ?」


 ぐっ、独占欲とか雪柳さんに言われてぐうの音も出ないのが少し悔しい。


「その反応は当たりだねぇ」


「それより椿、本当に凪を仕事に連れて行く気か?」


 話したくない内容であるため、話を逸らすべく椿に話を振る。


「先輩、さっきも言いましたが凪先輩は妖力が多いんです」


「あの、ぼくの話はスルーの方向なの?」



凪を仕事に連れていく、いかないの話をしたのは俺たちが医務室にいる時間(ここ)から時を戻し、大広間にいた時のことだ。

 

 ここにいるのはおれと凪、椿に閻魔拾弍星の飛沫、そして閻魔大王がいる感じである。

 凛蓏は閻魔丁を守護するためについさっき持ち場へと戻って行ったのだった。


「そうだ椿くん、嵐くん、これから君達に一仕事頼んでもいいかな?」


 ある仕事に行くよう、ト◯ロぐらいでっかい閻魔大王に指示を受けた時の事。


「なんですか、一仕事って?」


 待ってました! と言わんばかりに目を輝かせ、椿は閻魔大王に投げかける。


「それがここ最近、女木洞窟(めぎどうくつ)っていう阿鼻地獄付近にある洞窟にクロセルって名乗る魔神がいるんだけどね、その魔人が本当にソロモン七二柱のクロセルくんなのか確認して欲しいんだよ。」


 クロセル、ソロモン七二柱所属の悪魔であり、EU地獄にて四八軍団を指揮下に置く序列四九番にあたる偉大なる公爵なのだとか。

 この魔神(あくま)は陣などで呼び出した場合、容姿は悪魔ならぬ天使の姿で人の目に現れ召喚者が命じれば大水が押し寄せる轟音の幻聴を聞かせたり、温泉が眠る水脈を当てることができる、そんな魔神(悪魔)らしい。

 

 そんな魔神が戦争真っ只中の自国を離れてわざわざくるだろうか……。


 実際、俺は過去に一度クロセルさんに会ったことがあるが、飛び抜けて強いわけではなく、どちらかというと頭脳派という印象だ。


「でね、その洞窟で何かが暴れてうるさいんだけどっていう近所の住人から苦情がきてしぶしぶ桃太郎くんを派遣したんだけど、洞窟に入ってしばらくしたところでクロセルと名乗る悪魔に瞬でボコボコにやられたみたいでさ、顔とか確認できてないのよ」


 桃太郎さん、強いのに今回話の中では噛ませ役ですか、ご苦労様です。


 この場に居ない桃太郎さんに心の中で敬礼をしておく。


 ……ん? あれ、確かクロセル(あの人)ヒョロヒョロとしたもやしっ子とか周りから言われるほど筋肉がなかったような。技とかも幻聴を聴かせて相手を狂わせるような闇と風混合魔法を得意としてる人だし。


「拾弍星組は拾弍星組で各地獄の部署を周ったりここに報告しに来なきゃならないから手が回らないし、十二神獣は(じゅうにしんじゅう)は十二神獣でわしからの指示は出せないからね〜。あそこは八寒のヘルや干支を決めたひと達に従う部隊だからぁ」


 閻魔様の話を聞いているとツンツンと背中を突かれたので後ろへと振り向く。


「ねぇ嵐? じゅ、十二、神獣? てさ、なんなの」


 振り向いた先にはすこし困った顔をして、もじもじと俺に話しかけてくる凪がいた。いや、可愛いすぎ……。


 可愛い凪にやられてる俺だが、今はまだ、説明するには裏世界(この世界)のことを知らなすぎる。そのため——。


「ごめんな、凪。今のところお前に言えるのは八寒地獄で最強の戦士達てぐらいだ、詳しい説明はまたでいいか?」


 十二神獣の話をするにしてはまず閻魔拾弐星とか俺らが所属する紅葉組なんかの説明をしなきゃならない。それに本来妖怪が見えない凪は現世に戻った所であの時と同じように記憶を……。


「むぅ、分かったよ。嵐がそう言うなら」


 少し考えすぎか、それにしてもほっぺを少し膨らませて拗ねる凪もまた……、可愛い。


「ウッ、ウゥゥゥン」


「あの、イチャイチャは他所か後でやってもらっていいですか」


 飛沫に咳払いをされ、椿には嫌味の入った言葉を吐かれてしまい……、てか視線が痛い!


「そ、それで仕事は引き受けてくれるの?」


「そりゃやります、面白そうですし」


 即答、……まぁ俺もそのクロセルと名乗るやつに会ってみたい。


「閻魔様、俺も行きます」


 椿に釣られる形になってしまったが仕事を引き受けよう。


「仕事へ行くに当たって凪先輩も連れて行きたいんですが……」


「なんで危ない場所に凪を連れていかなきゃならないんだ?」


 ……! 気づいた時にはもうこの一言を口から出し終わっていた。

 

 意識しても言ってそうだけど凪を連れて行くと言うのは少し気が引ける。

 紅魔刀が原因で襲われて痣が付けられるし、ついでに地獄にまで来てしまっている。

 こんな状態なのに更に危ない場所へと連れて行くなんて……。


「え、えっと〜、飛沫くん。これどうしよう? どっちに着いた方がいいの?」


「俺に聞かないでくださいよ、そういうの苦手なんですから」


 ボソボソと閻魔様と飛沫は喋っているが、丸聞こえ。


「何故? それは凪先輩の妖力が非常に多いからですよ。青空先輩や風花ふうか先輩程じゃないですが確実に妖術士になれるぐらいの量があるからです!」


「いや、青空と風花ってさぁ、比較対象がおかしくないか? お前も込みとしてもバケモン級の妖力量持ち合わすアイツらを比較するな」


 ビシッと説明したであろう椿だが、流石に国レベルで上位を争うぐらいの妖力を持ち合わせている青空達を比較対象にするのはおかしい。ただでさえ目の前にいる少女(椿)でさえ普通の人より妖力の量が比べ物にならないくらい多いのに……。


 そんな妖力チート(バケモンクラス)だーとかなんとか言ってると。


「それじゃもう行くね、仕事がまだまだ残ってるから消化しないと」


 夏々知くんが帰って来た時にどんなお仕置きされるか、と呟いて閻魔様は立ち上がる。


「それじゃあ俺達もこの部屋から出るか。ここに居続ける理由はないしな」


といって飛沫は俺たちが入ってきた扉へと向かう。

 俺たちもここに留まる理由もないため部屋から退出しようとしたところ。


 椿が「あっ」と思い出した素振りをみせてからポケットから何かを取り出す。


「すっかり忘れてました。はいどうぞ」


 椿が俺に向けてポケットから出した手には、スマホが握られていた。

 それは現世で使用しているiPhoneとかではなく、あの世とこの世の狭間にある千玄神社に置いてきたはずの霊魔フォン(スマホ)


「なんでお前がこれを?」


「流先輩から渡されるように言われてたんですよ、すっかり忘れてましたけど……。そんで、先輩のこと見たことあるなーとは思ったけど流先輩に見せられた写真で見たんでした」


 今にもテヘッとやりそうな感じの椿からスマホを回収する。


「それと、千玄神社の出入り口が変わってしまったようですよ」


 はっ……? それはどういう……。


「嵐、もうここの部屋閉めるってぇ」

 

 そんな少しキュンとするような凪の声により一時会話が中断されるのであった……。

 

 青空からの電話がかかってきたのはこのすぐ後のこと。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 出来れば時系列順で話が展開されると読みやすいように感じました。
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