33 椿ちゃん
急に勢いよく扉が開かれたためビックリして嵐の袖を握ってしまった。
嵐、困ってなきゃいいけど。
「我名は椿、冬に咲き誇る花の名を与えられた完全なる美しさ、妖術の魔法使い!!」
扉を開けてできた中学生ぐらいの少女は赤いラインの入ったとんがり帽子に黒くて長いロングコート・赤いシャツ、指には白くてキラキラと輝いている宝石の指輪を付けた魔女っ子の様な格好を着こなしていた。
これは青空や桜火とまた違う……天さんみたいなガチめに役になりきってる系の中二病だ。
ぼくは目の前の少女、椿のことについて嵐が知ってるかもと思い聞いてみる。
「ねぇ、嵐」
「なんだ?」
「あの人って、生きてるよね」
ここはあの世、そんなこともあり一応聞いてみる。
「生きてるよ。そして今思い出した、椿のこと」
「椿のこと?」
もう一度魔女っ子ぽい格好をした椿ちゃん? をみてみる。
カラーコンタクトだろうか? 黒髪のショートから紅い瞳が覗かせキラキラ輝いている、それはまるでルビーのよう。
椿ちゃんの紅い瞳に魅了されていると嵐が呟き始める。
「光矢 椿、狐の妖怪である九尾と白狐を相棒に活躍していて、小学生でありながら妖術士の称号を獲得した天才。使用する技は俺ら人間が使う妖術より核に近く、妖怪が使用する術と変わらない質だという」
妖術士? 妖術の核? 知らない単語が出てきたよ嵐。けど、椿が凄い人だってことはわかった気がする。
そこへ飛沫が付け加える感じで会話に交じる。
「まぁ、青空や風花・嵐の師匠である隼花、さらには霧空露といった妖術士の称号を獲得してから上の階級へと上がった強者もいるがな」
……青空以外知らない人が出てきた。しかも中に嵐の師匠が入ってたし。妖術を覚えるために弟子入りしたとかかな?
なんかよくわからないけどもやもやする。
ぼくがもやもやしてながらも嵐はそのまま話を進める。
「けど、椿が特別視されるのはその能力で、爆裂系の術を使っていること。本来爆裂の術は妖力を無駄に食うし操作がむずいから人を選ぶ。大半の人が使ってもサブであって、扱いやすい術を使う。そのためにメインで使う奴はそういない」
一呼吸間が空く。
だからと一言いってからもう一度話が進行する。
「人は言う、魔法のごとく妖術を降るうその者を”妖術の魔法使い”と」
「マギアウィザード……」
……ん? 嵐、今振るうを降るうって言ってなかった?
それにマギアウィザードって本人の口から言ってた気が……。
「ん〜、なかなか変なバランス」
「おい凛蓏、椿が来たことでいいバランスが取れたのなんて珍しいだろ。天の酷かった時より扱いづらいし」
天さんの酷かった時より扱いづらいってどんだけ拗らせてるの、椿ちゃん。
てゆうか天さんが最も中二病を拗らせてたのってぼく達が小5の時だから中一の時だっけ? 天さんが。
「まぁまぁ、2人ともそんなこと言わないの。椿くんだってこっちの世界に召喚されちゃった子なんだから」
なんだろう、さっきから思ってるけど閻魔様って過保護なのかな?
親みたいというかなんというか。
てか青空を知ってる時点で薄々思ってたけど、飛沫って天さんのことその頃からしってるんだ。
「む、貴方……」
え? 何、椿ちゃんがぼくの方に指差してるんだけど嵐を指してるのかな?」
「貴方ですよ貴方、どこかで見たことのある先輩の袖を掴んでる」
あ、ぼくのことだ、これ。
「わ、私のこと?」
心配なので一応聞き直す。
「あ、はい、私です」
チラッと嵐を見ると右手で左胸を押さえていた。
胸でも痛いのだろうか? それともぼくが袖を掴んだために左胸と繋がるツボを押してしまったのだろうか?
それとなんだろ、嵐に触れてからぼくの胸、正確には胸の奥が熱いような、そんな感覚。
ぼくの少し不安になってしまったが、椿ちゃんが近づいて来ているためすぐに視線を戻す。
「貴方、その量は凄いですね」
「りょ、量?」
なんの量かは知らないけど、なんか、褒められた。
「お前も見えるんだな妖力」
え? 見えるものなの? 妖力って……。
「どこかで見た先輩も見えるんですか?」
「どこかで見た先輩はやめろ、俺は嵐。氷雨 嵐だ」
嵐が自分の名を名乗るとはぁとため息をつく。
「では、嵐先輩も見えるんですか?」
嵐の名前を聞いた椿ちゃんがもう一度問い直す。
「俺は見えない。今は見えるかは知らんけど、青空は見えたはずだ」
「あぁ、青空先輩ですか。青空先輩は見えたはずですよ。ただ今は弱体化をくらったので見えなくなっちゃてるはずですよ」
「あぁ、雪兎と青空がぶつかって弱体化をモロにくらった、ていう事故だろ? 雪兎から聞いた、てかお前も現場に居たのか?」
あ、その話はここに来る前に青空と飛沫から聞いた。
青空の説明いつも通り雑だったけど……とゆうか妖力の量が見えるって青空とこの椿ちゃんていう子はどんだけ凄いの……。
なんか置いてきぼり感が……、寂しい。
寂しい割に胸が奥がいまだに熱い。
「はい、居ましたよ。最高に気持ちよく爆裂してました。あ、ちゃんと細剣で近接戦してましたよ、ちゃんと」
すこしふんわりとしていて中学生らしい可愛いさ全開である。
……いつもこうなのだろうか?
「お、おい凪。ちょっと、恥ずかしいんだか」
「……ッ!?」
なんでか知らないけど、ぼくは気づいたら嵐の袖から嵐自身を抱きしめていた。
恥ずかしさが込み上げてくるけど、なんか嵐から離れられない。
「ヒューヒュー、やっぱりお前ら……。」
なにやら飛沫がニヤニヤと。
「愛のバランス、なんて美しい」
凛蓏さん、それ二回目です。
「へー、先輩ら付き合ってるんですねぇ。いいですね、両思いってぇ」
椿ちゃんまで。
ねぇ、どんどん話がずれてってなーい?
「まぁまぁ、みんなそんなにいじらないの」
マジで仏に見えますよ、閻魔様〜。
知ってお得、百万倍楽しめなぎあら講座!!☆
椿は紅葉組では居候の身でお世話になってる光矢家の名字を使っているが本名は”伊奈利 椿”である。




