12 地獄に何故来たか
十二月二日
太陽が山の向こう側に沈みかけている今日のこの頃。
「おい、嵐起きろって、下校するぞ」
俺、氷雨 嵐は夕日差し込む教室で昔の夢を見ては気持ちよく寝ていた。
「おい、起きろってば」
「うぅ〜ん、うるさいな、気持ちよく寝てたのに」
「いやいや、帰らなきゃ今度は先生に叩き起こされて暗い中一人で帰るんだぞ、お前は」
それはやだな、先生に怒られるなんざ妖怪関係だけで充分だ。
「おし、帰るか雪兎」
「切り替え早いな!」
かくして俺達は十六時十九分発の電車に乗って、帰路に着く。
「あ、そういえば」
夕日が差し込む車内にて、銀色混じりの黒髪が夕日に照らされ橙色を浴びている雪兎が何かを思い出したように口を開ける。
「どうした雪兎?」
電車に揺られながら俺は雪兎に尋ねる。
いつも通り紅みを帯びかけているであろう富士山が電車の窓から顔を覗かせていた。
「俺らさ、今日バスで来たから歩かなきゃ行けないじゃん」
「今頃かよ」
俺は雪兎にボソッとツッコミを入れる。
「まもなく〜、終点富士、富士です。東海道線は乗り換え熱海行き、十七時四分発 四番線です」
二年乗ってると当たり前に感じてくるアナウンスを聞いて、電車は終点の富士に入線する。
普段の俺達なら富士で降りると自転車で家に直行のところだが、今日の俺らはバスで来たがため(朝大雨だった故に)運動がてら歩くことに朝決めたのだが、このバカは忘れていたようだ。ヤレヤレ
「おい嵐」
「なんだ?」
「今、俺のことバカと思ってたろ」
「人の心の中を読むな!」
たく、バカの癖に勘だけは鋭いんだから困ったもんだ。
「またバカと思ったー」
だから心の中を読むなっての!
「お?」
「どうした? 雪兎」
雪兎は持参した水筒を持ちながら「お茶が切れちった」と言いテヘ☆っと可愛くもないポーズをとる。
てか改札横の売店に行けばいいだろうに。
「いや、俺はプチストップでお茶買うわ」
と言って駅の階段を雪兎は駆け下りていく。
「だから俺の心の中を読むな!」
と言って俺は雪兎を追いかけた。
◯
プチストップに着くとハァハァハァと雪兎は息を切らしていた。
「たく、全力疾走でここまで走るから」
「い、いいだろ別に」
いいだろってのんびり走って信号に2回も引っ掛かった俺に追いつかれてるんだからさ、早く飲みもん買ってこいよなぁ。
「おし、じゃぁ俺買ってくるから、ちょっと待ってろよ」
そう言い残し雪兎は店内へ入っていく。
それから数秒もしないうちにドアが開き目をやると、モスグリーンだっただろうか? 濃い青緑色である学校の制服を着たショートカットの少女が出てきた。
少女もこちらに気づいたようで嬉しそうに歩み寄ってくる。
「嵐、そ、そのここで会うの偶然だね」
とモジモジしてショートカットの少女、凪が幸せオーラを隠しもせず距離を縮める。
「まぁ〜な、雪兎が飲みもん買いに来たのをただ待っとるだけだけど」
俺はそう言いながら凪を撫で撫でする。
凪は俺に対してモジモジする時は大体撫で撫でして欲しい時であるからな。
「も〜、撫で撫では嬉しいけどもっとオブラートに包んで言ってよー」
赤く頬を染めながら俺に訴えてくる。……可愛い。
とそこへ、コンビニのドアの開く音がして一人の少年が出てる。
「あの、俺ってお邪魔? 俺一人で帰るから二人でイチャイチャしててください」
とコンビニでお茶を買ったであろう雪兎はそう言って背を向けて歩きだす。
だけどその背中は呼び止めろよみたいな感じがするから(二人でイチャイチャしたいけど)呼び止める。(友達大事だもん)
「いや、エットー、雪兎くん? 一緒に帰ろうぜ」
雪兎が足を止める。
「皆で帰った方が楽しいからさ」
そして俺に続き凪も察してくれたようで、
「そうだよ三人で帰ろうよ、ぼくたち大丈夫だから」
そして雪兎は「冗談に決まってるだろ〜」と言いこちらに戻ってくる。
なんてわかりやすい性格。
それからは基本的に裏道というか人通りの少ない住宅街の中を歩く、……のだが。
「おい、雪兎」
俺は嫌な予感がして凪を守るように〈鍵〉である六花(雪の結晶)の形をしたペンダントをベルトから外し、柄巻が緑色で目抜きのところが水色になっている俺の武器、氷嵐刀が姿を表す。
姿を表すとともに六花の形が描かれた唾に反射した光により刃の先が黄緑色に鈍く光る。
「……。何かが来るぞ」
「お、おう、言われなくてもわかってる!」
見ると雪兎は自身の〈鍵〉で自身の武器である白魔刀を取り出して構えていた。
黒い柄巻に白い目抜きとシンプルな色合いの白魔刀は俺のと同じく六花の形が描かれた唾が付いた刀で刃先は白く鈍く光っていた。
凪はというと、何が起こっているのかわかりませんという状態だった。
そりゃそうだ、妖力や霊力が無い者や霊感がない者、もしくは力が覚醒前の者にこの微妙な邪気を帯びた妖力が探知できるわけないからだ。
「おいおい嵐」
「あぁ、分かってるて」
次第に邪気が濃くなってきている。
こりゃまずくないか?
「ねぇ、嵐」
「どうした?凪」
見てみると凪の顔色が少し悪い。
「おいおい嵐、凪が邪気にやられてるぞ」
確実に邪気が濃くなってきている、そりゃ妖の加護を受けていない凪は邪気にやられるのは当たり前だ。
早くこの根元を見つけなければ、凪が、終いには加護を受けている俺たちさえも危ない。
「見つけたぞぉー」
探知をしていたらしい雪兎が、その言葉と同時に刀を構える。
「雪の舞 陸ノ型」
雪兎は元凶がいるであろう方向に向かってメンチを切る。
すると……。
「雲雀殺」
雪兎が見つめる先、邪気が最も濃い方向へと飛んでいく。
「ぐはぁ」
気づくと雪兎は傷だらけで俺の横にぶっ倒れていた。
「何があった」
どうやら雪兎自身もわかっていなかったらしい。
凪は凪で相変わらず気持ち悪そうにしている。
早く終わらせないと・・・。
だがそんな事を思い焦ってしまったせいでこの後地獄に迷い込む訳だが。
「風の舞 肆ノ型」
俺の周りに風が渦巻く。
風の舞で一番速い技、これで決める!
「疾風」
だが、雪兎よりランクが低い俺の刃も通るはずがなく、気づくと元の場所に傷だらけで戻されていた。
「フフフフ、貴方達本当に弱いですね〜」
元凶である妖怪が目の前に降りてきては、俺達にそう言い放った。
目で捉えられる限りでは邪気が濃すぎてどんな妖怪かが分かりやしない、分かることといえば奇妙に動く奇妙な紫色の触手ぐらい。
そして。
「そうだ、凪を人質にしてみましょう、そうすれば嵐が所持している”アレ”と交換条件で交換してあげる」
そう言いながら元凶は凪を連れて行き凪を苦しめる。
「苦しいよ、嵐、助け、て」
「ハハハ、早く出しなさい、さもないと凪の命は無いのよ。ん? アラララ、この子たら良い力を秘めてるじゃないのぉ、あと少し待てば熟して美味そうね」
そう言いながら元凶はその妖力で生成したであろう触手を凪に押しつける。
「や、やめろ!」
最後の方は邪気が濃くなってきてこちらの体に負担がかかって聞き取れなかったが、敵のやってることに我慢できずに声を上げる。
「行くぞ、嵐。負けっぱなしは癪に障る」
「あぁ、同感だ」
「風の」
「雪の」
「舞!!」
「参ノ型 迅風」
「肆ノ型 吹雪」
両者二人の渦巻く刃が元凶を切り裂く。
「くっ、浅いか」
少し油断してたのか、凪を捕まえていた触手を多少傷つけただけで凪を取り戻せた。
「ん〜、嵐? イテテテ」
凪が抑えた場所を見ると腫れてしまっている。女子の顔を、元凶は傷つけやがった。
「許せる訳ないな……」
心の奥からふつふつと怒りが湧いてくる。
「どうした、嵐? おう凪、触手にやられていた所無事だったか、よかったな」
は? 雪兎にはこの痣が見えていないのか? いや可能性はある。これがなんらかの妖術で付けられたものならば見える人にしか見えない痣となっている。
「くっ」
俺が怒りのあまり刃を元凶に向けようとすると同時に……。
「主人様、待たせてすみません!」
雪兎の相棒である烏の妖怪、奏が駆けつけがてらキックで参上してきた。
「あぁ、大丈夫だ」
すると
「グアアアアア」
急に元凶が吠えたと思うと辺りが真っ暗になって、穴に落ちていくかのように闇の中に入っていく。
そして俺の意識はここでぷつりと切れるのであった。
名前 氷雨 嵐
本作の2人目主人公
誕生日 6月1日 氷の日
年齢 17歳
性別 男
血液型 A
身長 180㌢
体重 忘れた
所属 富士宮北富士高校 2年
部活 帰宅部
属性 風 氷 月
守護星座 双子座
好きなもの カレー・塩ラーメン・苺・凪
家族構成 父・母・妹
階級 A +
最近の悩み 小遣いのやりくり




