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一人は慣れたはずだったのに  作者: 冴橋 春咲
2/4

悲劇は嵐の如く

1話


学校では常に独りだった 、

よく話す人も 仲の良い人もいなかった

学校に行くのも帰るのも

夏休みも 冬休みも 独りだった

いじめられていた訳でもない、

なのに独りだった


彼の名前は千歳 宗矩(ちとせ むねのり)といった。


家に帰れば母親がいた、

母親は千歳 京子(ちとせ きょうこ)

少し時間が経てば父親も帰ってきた

父親は千歳 和宗(ちとせ かずむね)

そんな三人家族だった。

両親とも とても優しく しかし 怒る時は怖かった。

それでも 息子を一番愛していた。

その愛情を たっぷり受けとって育ってきた。


彼にはそれで満足だった…


しかし 悲劇は突然起こる。

なんの前触れもなく 突然何かを奪っていく。

両親が亡くなった、親戚も亡くなった。

原因は空き巣によるものだった。


休みの日に母親に頼まれ

1人でこの辺りで唯一のスーパーへ


この日は親戚一同が集まる日だったのだ

そこで母親が言った。

「宗矩〜 今日はお料理をうーんと

作るからお使いをお願いね〜。」

とても優しい口調だった。

「うん!分かった!すぐ帰ってくるね!」

元気よく返事をした。



当然断る理由もなかった

両親は宗矩を愛していた

宗矩も両親を愛していた


中学一年にして ファザコンとマザコンと

周りからバカにされるに決まっている。

しかし 自分のことをしっかり育ててくれた

両親のことを嫌いだとは言えなかった。


そういって 宗矩はお使いに行ったのだ。


買い物メモを握りしめ

小走りにスーパーへ走っていった。


辺りには山と畑と田んぼと川と

ひまわり畑が一面に拡がっていた

「ここはつくづく田舎だなぁ。」

そう愚痴のようなことを言って

買い物に行って帰ってきた時のことを考えた。


早く行って帰って

(沢山褒めてもらいたい!)

(親戚のおじさんもみんなに褒めてもらえる!)

そう思うと口元が緩んで仕方がなかった。


外はとても暑かった

夏とはいえ太陽の真下は特に暑い

走るとすぐに汗が吹き出してきた。

この辺りでは唯一のスーパーは

宗矩の家から徒歩20分かかった


やっとの事でスーパーに着いた

入ろうとした時にこの辺りでは珍しい音がした

救急車が宗矩の来た道を遡って行ったのだ。


「何かあったのかな?」


そう思いスーパーへ入っていった。

入るとそこは外とは違い涼しかった

冷房がよく効いていたのだろう。

少し肌寒いくらいの温度だった しかし

今はそんなことを気にしている場合ではない。

「早く帰って みんなに褒めてもらうんだ!」


そう呟き宗矩は そうめん お豆腐 豚ひき肉 餃子の皮

ニラ キャベツ しいたけ ニンニク 麺つゆ かつお節

生姜 大葉 ニンジン エビ と流れるようにカゴに入れ

会計を済ませスーパーから出た。


あとは帰るだけだ!

そう思い 宗矩は小走りで来た道を遡って行った。

荷物がある分少しスピードは落ちるが

それでも急いで帰って行った。


家がもう見えてきた頃

1台のパトカーが宗矩の横を通って行った

「どこかで 何かあったのかな…?」


この時 自分には関係がないと考えていた

その次の瞬間 パトカーは宗矩の家の前で止まったのだ


嫌な汗を額に浮かべ家へ向かった。

家の前まで来ると

パトカーがもう1台止まっていることが分かった。

サイレンの音に呼ばれて来たのか

周りには近所の人達が何人かいた。

そして 家のドアが開いていた。


辺りには警察の人がいた

パトカーがあったから自然とそう思った。


でも一つおかしなことがあった

これだけ人がいるのに

両親が 親戚の人達が一切見当たらなかった。

騒ぎに気がついて外に出てきもしなかった。


すごく嫌な予感がした

その予感に背中を押されるように

気がついたら走り出していた。

警察の人が止めていた

近所の人達も止めていた。

でも それでも 止まらずにはいられなかった


靴を脱ぐ前に宗矩は「ただいまー!」と大声で叫んだ


いつものように母親が…父親が…「おかえり、」と

出迎えもなく 言葉もなかった。


(もしかしたらサプライズかもしれない)

そう思った 今日は宗矩の誕生日だった。

みんなで驚かそうとしているのかもしれない。


「だから


早く


行かなきゃ…



みんなの待つ


大広間へ 早く 早く 早く!」


サプライズかもしれないと

思ったはずなのに 焦っていた。


玄関から大広間まで1分 そこそこ広い家だった、

だから入口の前まで来た時は

息が上がっていた。


宗矩は呼吸を落ち着ける暇さえなく

すぐに障子を開いた

「ただいま! お使い行ったよ!

お父さん!お母さん!」


そういって大広間に入った。


そこから先は

もう 記憶がほとんどなかった。

何を見たのか 何があったのか

知りたくはなかった 思い出したくなかった。

ただ そこに広がるものを見て

叫ぶ宗矩がいた


「うわぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああぁああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」












気がついたら

病院にいた 看護師が お医者さんが

何かを言っていた




その日

広い家を残し

千歳 宗矩は 独りぼっちになった。

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