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ユメかウツツか

作者: 青イ雛罌粟

見に来ていただきありがとうございます。初めて書いたので読みづらいと思いますが、最後まで読んでいただければ幸いです。

『ふん!仕方ない。お前の言う通り明日の日の出迄は待ってやる。但し!それまでにヨモギ1本、ツツジの蜜1壷、タンポポの葉3枚、キズの無いウメの花1つ、モミジイチゴの実1つを今度こそ!キッチリ!納めるのだぞわかったか!……できなければどうなるかも、わかっておろうな?』


『はひいぃぃい!わかりましたで御座いますです!必ずや!必ずやお納め致します!!猶予を与えて頂き、ほんっとうに有難う御座いますっ!』


(……取り立て屋?)


小暮(おぐれ)は庭の何処かで繰り広げられる不思議なやり取りに、首を傾げた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


やわらかい風が頬を撫で、前髪を軽く揺らす。生暖かい風だが未だ僅かに冷気をはらみ、まだまだ春は始まったばかりであることを告げていた。


だが今日はとりわけ頭上から降り注ぐ陽射しが暖かく、小暮はその陽の眩しさに目を細めた。


(天気が良いなあ……よし、せっかくだ。今日は庭で日向ぼっこしながら寝るとしよう)


静かな決意を胸に、今しがた卒業したばかりの高校に背を向け帰路につく。しかし10歩も歩かない内に、後ろから慌ただしい足音が聞こえてきた。


「コグレー!〈カナコ食堂〉寄ってかねー?ハラ減ったー」


小暮は足を止め、その聞き慣れた声に振り返って僅かに顔をしかめた。


「オグレだ。寄らない。帰る。寝る」


小暮は隣まで駆け寄ってきた友人、楠木(くすき)の提案をバッサリと切り捨て、再びスタスタと歩き始めた。


「今丁度手元に割引券が3枚ある。コグレとカガチと俺で、今ならステーキ定食が3割引で食えるぞ!」


しかし楠木は小暮の素っ気ない返事など聞こえなかったように続ける。小暮は相変わらず他人の話を聞かない友人にうんざりしつつも、律儀に口を開いた。


「オグレだ。今は睡眠の気分なんだ。食事の気分じゃない」

「ならしょうがないね。諦めな、クスキ」


いつの間にか小暮のもう1人の友人、加賀池(かがち)が楠木の隣に並んで歩いていた。


「うおっ!!カガチ!?いきなり現れるんじゃねーよ!びっくりしちゃうだろ!?」

「オグレも、いい加減名前を訂正するの諦めたら?直る気配がないじゃん」

「無視しちゃうの!?」


横で騒ぐ楠木を無視して、呆れたような視線を向けてくる加賀池に、小暮は頬を掻いた。


「それはわかってるんだが、つい」

「あっそ。ま、こんなやりとりも今日で終わりだね」

「…そうだな」


小暮は加賀池の言葉に頷きながら、内心で少し驚いていた。加賀池はかなりドライな性格で、そんな彼女の口から、まるで別れを惜しむかのような言葉が出てくるとは思わなかったのだ。


「これで使い古された漫才じみたものを見ないで済むね」


(…いや、ただ事実を言っただけか)


続けて発せられた加賀池の言葉に、小暮は苦笑した。この方が彼女らしくて良い。

すると、急に楠木が騒ぐのをやめて何故か首を傾げた。


「ん?なんで今日で終わりなんだ?」

「だって私たち、別々の大学に進学するじゃん」


何を今更、と加賀池が言う横で楠木は更に首を捻った。


「何言ってんだ?流石に学部は違うだろうけど、大学は同じだろ?俺ら」

「え?」

「え?」

「・・・え?」


(…そういえば2人の進学先、聞いてなかったな)


加賀池に目を向けると、丁度目が合った。やはり知らなかったようで、加賀池は噓でしょと言わんばかりに顔をしかめていた。


「え?俺言ったよな?同じ大学だぞって、ついこの間言ったよな?」

「「聞いてない」」

「覚えてないの間違いだろ!?」


(試験会場で2人を見た覚えすら無いんだけどなあ…いや、入試形式が違ったのか?というか、こいつはどこでその情報を仕入れたんだ?……まあ、いいか)


同じ大学なようだし、次に会った時にでも聞けばいいだろう。今はとにかく眠い。

再び騒ぎ出した楠木を無視して、小暮は加賀池に声をかけた。


「じゃあな、カガチ」

「同じ大学みたいだし、また今度、だね」


加賀池に別れを告げ、小暮は自分の家へと続く曲がり角を曲がる。


「薄情者ー!!俺には何も無しかあぁぁぁあ!!!!」


楠木の叫び声が辺りに響き渡ったが、既に小暮の頭の中は庭で寝ることで一杯だった為に、その声が小暮に認識されることはなかった。




家に辿り着き背負っていたリュックを自室に放り投げると、小暮はフラフラと庭に続く大窓へ向かった。

そしてガラリと窓を開けると、サンダルをひっかけて庭の片隅にある木のベンチに腰掛けた。


先の期待通り、庭は暖かい日差しが柔らかく降り注ぐ、昼寝にはうってつけの場所だった。

ひじ掛けを台にして頬杖をつくと、小暮は早速目を閉じた。風に揺れる木々が奏でるざわめきをBGMに、睡魔がやってくるのを待った。



『まだ…め………てない……か‼あ…………ひる…………にはと………………ばなら………………ぞ‼』

『も………あり…せ…!しかしあ…すこし………………です!かならず…まにあわ…………で……し…しお…………だけない…………か!!』


(…?なんだ?話し声…?)


うつらうつらとし始めた頃、不意にBGMの中に雑音が混じった。

沈みかけていた意識が浮上してくるが、まだ目は開けない。


片方の声の主は相当怒っているのか、その声はなかなかドスがきいている。音量は小さいが。

もう片方の声はそれより少し高く、震えているようだ。そしてこちらの音量もやはり小さい。しかし小声で話しているわけではなさそうなのだ。


まるでネズミが喋ったとしたらこんな声なんだろうな、という感じの、身体がとても小さな生き物が喋っているような、そんな声だった。


一体「何」の会話なのか。

小暮は話の続きを聞くため、その声にしばらく耳を傾けてみることにした。


そして冒頭に戻るわけである。


会話は終わったのか、1つの小さくせわしない足音が遠ざかっていく。

聞いているうちに睡魔は完全に去ってしまったようで、目を閉じていてももうしばらくは寝られそうにない。

諦めて薄目を開けた。完全に開けない。そうすればまだ留まっているであろうもうひとりの何者かがいなくなってしまう気がしたのだ。


あまり広くない庭を見渡すと、何も植わってない逆さまになった植木鉢の上に、小さな生き物らしきものを見つけた。


(…………コビト、か?)


そう。そこには小人と呼ぶにふさわしい、15センチ定規の大きさまで縮めた人間のような形をした生き物がいた。


着ている服は真っ黒な袴のようだが、袖から手は見えない。そして小さな白い卵に丸く黒く塗りつぶした目と口を描き、ドングリの帽子を被せたような頭をしていた。

まるでハニワみたいな顔だ。


(…なんだ、夢か。いつの間にか寝てたんだな、俺)


夢の中ならば小人の1人や2人、出てきてもおかしくない。


小人は自分の身長程はあるであろう何かの葉っぱを植木鉢の上に広げ、何やらブツブツと呟いている。


『ココとココは既に探したな。ココもココも…………あ”~~!!モミジイチゴは一体何処にあるのだ!!あとはコレだけなのに~~!!だいたい、今の時期食べられる実なんて1つも……』


小暮は小人の独り言を聞きながら、ふとあることを思い出した。


(モミジイチゴ……そういえば1株だけ、裏の林に生えていたな。あの株なら丁度食べごろの実がなっているはずだ。…明日にでも行ってみるか)


モミジイチゴは細い枝に白い花を咲かせ、仄かに甘い黄色い実をつける低木だ。

普通その実が熟す時期は5月頃なのだが、小暮の家の裏の林にあるモミジイチゴの実は毎年3月には熟しているのだ。何故かはわからないが。


その時、小人が突然頭を上げ、小暮のいる方向にそのハニワ顔を向けた。


『なんと!!それはマコトか!!よーし、早速行ってみるぞ!!』


先程とは打って変わって明るく嬉しそうな声を上げるや否や、小人は植木鉢から飛び降りて何処かへ走り去ってしまった。


(…………今俺の思っていたことに反応した…いや、気のせいだな)


小人が去ったことで再び庭に心地よい静寂が訪れた。

小鳥のさえずりと木々のざわめきが奏でるBGMに耳を傾けながら、小暮は再びゆっくりと目を閉じた。


その後更にヘンテコな夢を見た。


舞台は何処かの浜辺。

5匹のネズミがそこでフラダンスを踊っていると、真っ黒な猫が乱入してくる。すると踊っていたネズミの1匹が何処からともなく光輝く剣を取り出し、黒猫に立ち向かっていくのだ。

真っ白な鎧らしきものを纏って。

……いつ着たかは不明だ。


両者はさながら物語に登場する勇者と魔王。

夢は白ネズミと黒ネコが剣と爪を交えたところで終わった。


夢からは覚めたものの、小暮は目を閉じたまましばらくその夢の内容を思い返していた。

すると突然、膝の上で「何か」が跳ねた。


『礼を言うぞ人の子。これで無事に貢物を納めることが出来る。さらば!』


続けて聞こえてきた声に目を開けると、黄色い実が1つ、膝の上に転がっていた。


(…まだ夢の中なのか)


モミジイチゴを探す小人にフラダンスを踊るネズミ、更には勇者ネズミに魔王なネコ。

なかなかカオスな内容の夢だ。


(頭の中で一体どんな情報を整理してたんだか)


いつの間にか日は傾き庭は暖かさを失っていた。

小暮は膝の上のモミジイチゴをつまんで口の中に放ると、立ち上がって伸びをし、家の中に戻っていった。

モミジイチゴは口の中で甘さだけを残し、消えていった。

最後まで読んでくださりありがとうございました。


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