第1話
……俺を包んでいた光が消え、ゆっくりと目を開ける。
「何処だここは…」
目を開けると、冷たい石畳の上に俺は倒れていた。
顔を上げ、周りを見回すと、薄暗くだだっ広い部屋。そしてローブを着た10名ほどの奴らが俺を囲むように立ってこちらを見ている。
「$#$#$='"%」
[&%#$"%$]
何を言ってるのかさっぱりわからない。死後の世界ってこんな感じなのか?
ローブを着ている為、こいつらの表情もわからない。ただ、発している言葉から興奮している様子は伺える。どうしたもんかな。
自分を見てみると、死ぬ前によく着ていた服を着ている。足下を見てみるとお気に入りの靴。
(これは棺に入れてくれてた俺の服か)
徐々に冷静になってきたからか、背中には慣れ親しんだリュックを背負っている感覚もある。どうやら本当に死後の世界へ来たらしい。もしくはこれから三途の川まで行くんだろうか。
ドゴォォォーーンッッ
突然、けたたましい轟音が鳴り響き、視界が砂埃で遮られる。
「いくぞ」
「ちょ………」
声を上げる間もなく、俺の体は何者かによって持ち上げられ、物凄い速度で何処かへと連れ去られた。
視界から砂埃が消え、風圧に耐えながら今まで倒れていた場所を振り返ってみると、建物が崩れており、先程のローブを着た奴らがこちらを向いて立ち尽くしている姿が見えた。
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「……ん…」
「気が付いたか?」
どうやら俺は気を失っていたらしい。
目を開けて起き上がってみると、洞穴の中にいるようだった。
「すまんな。君を奴等に渡すわけにはいかず、少々手荒な真似をしてしまった」
「誰?」
「そうか、まだ名乗っていなかったな。我が名はエポカ。この世界を管理する神、ミサ様に仕えている」
(おいおい、夢かこれは。ただの中二病患者じゃねーか!)
「はぁ、どうも」
「突然のことで困惑していると思うから我から説明しよう。君はこの世界に召喚されたんだ」
「ん?死後の世界じゃないのか?」
「違う。ここは【ミサ】という世界だ」
「それさっき仕えている神って言ってなかったか?」
「そうだ、ミサ様が創造し管理している【ミサ】という世界だ」
「名前のまんまかよ。自己主張の強い神だな。…ん?なんで俺はおまえの言葉がわかるんだ?さっきのローブの奴らが何を言ってるかはさっぱりわからなかったんだが」
「今は我が君の元いた世界の言語で話しているからだ」
「ほう、そいつはありがてえ」
「話を戻すぞ。君がこの世界に召喚されたのは、おそらく戦争のためだろう」
「は?」
「この世界は今、基本的に平和だ。しかし国家間では色々と問題があるようで戦争を企む輩もいる。実際に一部の国では対立関係が悪化し、徐々に溝が深まってきている。これに乗じて他国への侵略を目論んでいる国もある。その戦争の為の駒として先の奴らが君を召喚したのだ」
(何処の世界でもこういう事は繰り広げられてんだなー)
「そんな簡単に関係のない異世界人を召喚していいもんなのか?」
「いや、無論それは禁じられている。それ故この召喚術はミサ様が封印していたはずなのだ。何者かが封印場所を探し出し、封印を解いたのであろう。膨大な魔力と封印したはずの召喚術が展開されていることに気付いたミサ様が我を即座に派遣して君を救出させたということだ」
「魔力に召喚術ねー。でも何故俺が選ばれたんだ?」
「うむ。それはおそらく君の魔力に導かれたのだろう」
「いや、俺人間よ?魔力もなければ魔法も使ったことないっての」
「そのことなのだが、それは君の持ち物によるところだろう」
「持ち物?」
「ああ。その…[&#$"%$]むっ、追ってきたか。これから君を安全な場所へ転移させる」
「おい、まだ説明…「詳しいことは追って話す。《転移》」」
「ちょ!」
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ドサッ
「いってぇー。今度は何処だ?」
打った尻をさすりながら立ち上がり、周りを見渡すと森の中に俺はいた。
穏やかな風で揺れる木々から木漏れ日が降り注ぎ、何処かで鳥がさえずっているのが聞こえる。
とりあえず近くにあった手頃な石に腰を下ろした。
(はぁ、結局なんなんだよ。これからどうしろって言うんだ?…ん?そういやさっきの奴が俺の持ち物って言ってたな!)
背負っていた黒いリュックを下ろし、中を見てみる。
大量のグミにガム、キャンディー、チョコ、ラムネ、おにぎり。やっぱ棺に入れてくれてた物が入ってる。いつの間にか服は着ているし、靴は履いている。これの何処に引っかかって俺が召喚されたんだっつの。本来ならもう生まれ変わってたりするはずなんじゃねえの?
まあ今後のことはさっきの奴に聞くしかないから待つしかないか。
俺はリュックから適当にグミを取り出し、口へ放り込んだ。
「やっぱうめえな」
ピーチ、レモン、グレープ、コーラ、ソーダ。1つ食べてはまた1つ食べ、次は何にしようかなーと考えていると、自分の前に魔法陣のようなものが現れ、光を放った。
「すまん、待たせたな」
光が消えると、その場から先程のエポカとか名乗っていた奴が現れた。
「遅かったな」
「ちょっと厄介な魔法を使ってきてな。幸い奴らは先程の召喚で殆ど魔力を使い果たしていたから大したほどではなかったんだが、捕縛しようと思ったら逃げられてしまった」
「それでも神の部下かよ」
「返す言葉もない。ところで…ん?」
「どうした?」
「それだ。それが奴らの目に留まり、君はこの世界に召喚されてしまったのだ」
エポカは俺の右手を指差し、真剣な眼差しでそう言った。
「は?これ??これただのグミだぞ!?」
俺は右手で持っているマスカット味のグミをエポカに見せ付ける。
「そうだな、君の世界ではただのお菓子かもしれない。しかし、こちらの世界でのそれは【魔法の根源】なのだ」