消えた少年と糸
この一話目は少しわかりにくいところがあると思いますが、あとあと、意味がわかる部分もあると思うので、ぜひ読んでみてください!
異世界転移は3話くらいに来そうです。
「あっちゃー。…君、やっちゃったね。」
空間に響く小悪魔のような明るい声は、空気を振動させ、鼓膜に届く。そして少年ーーその鼓膜の持ち主は足を踏み鳴らし、体を震わせる。
何か…何か現状を打破する方法が無いかと。精魂果て、必死にあがく少年に、小悪魔は薄く口を開き言葉を発する。
「何をしようと無駄だよ…。君、前からこうなるって分かってたんだよね?」
その声に少年は、またもや体を震わせ、そして硬直したように下を向く。
彼は、自分はあっている…間違っていない、と自身に訴えかけ…それでも脳内にループする小悪魔の薄ら笑いを隠した声に対抗することが出来ず失望する。
次第に自分の行ったことと、自分の考えていることの矛盾についていけなくなった少年は、考える気力を失くしーーそして口元に笑みを浮かべる。
身も心も自分について行かず、絶望の奥に見つけた淡い光。それを信じて進んだはずだったが…どうやら違ったようだ。
光の先は絶望の中の幸せに過ぎない。つまり少年は、鳥籠の中のただ呆然と外を見る、餌を待つことしか出来ない雛鳥である。
それを知って、ーーそれでも少しは足掻いてやろうと少年は光を見つめ、光を知る。
それまで、きっと何かあるだろうと進み続けた、根性ある少年だったが、その光の前ではそんな感情は塵に等しく…少年は感情を失った。
「あらら…これはちょっと困るな〜」
一部始終を見ていた小悪魔は、明らかに困ったような声を演出し、苦笑する。そして、何を言っても動かない少年に溜息をつき、「面白くねぇ」と声色を変えて呟いた。
その呟きはまるで内蔵を捻るような不快感を醸し出し、少年の紙一重で保っている心を潰しにかかる。
「もっと抗ったりしなくていいのか?ほら…まだ全然やり直せるんじゃね?」
前向きに聞こえてしまうその声に、決して耳を向けようとしない少年は、脳の司令を受けずに何を思ったが立ち上がる。小悪魔はその様子を見て、いいねいいねと手を叩きながらはしゃぎ出した。
「おーー!君凄いね〜!僕はてっきりもう終わりかと思ってたよ〜!」
その言葉が脳に届く前に、少年は足の先から糸を出し始めた。それはとても奇妙なもので、空間を這うように直進していく。
「おお!始めるんだね!まあ、やるとは思わなかったけど応援するよ!」
細い糸は先へ先へと進んでいく。少年はまるで石化されたように固まってーーそれでも目線だけは糸の先を見ていた。
暗闇を突き進む細い糸の先は、次第に見えなくなっていき、空間の果てへと向かっていった。
「じゃあ、恒例のことだけど…。さあ、この上を歩いていこう。」
小悪魔はいつにもまして上機嫌な声で、少年に語りかける。しかし、少年はその声を無視して、空間の果てを見るまでであった。
「どうしたの?早く行かな…」
小悪魔がそう言おうとした瞬間、空間の果てへと向かっていたはずの糸の先端が少年の方へとUターンして戻ってくる。電光石火の如く迫ってくるその糸は、真っ直ぐに少年を目掛け走る。
小悪魔の声の持ち主は、「今少年が死んではまずい」と思ったのか、少年の前に姿を現し、その糸を止めようと試みた。…しかしその影のような不透明で透明な体は、それを止めることなく糸を貫通させることになる。
体を糸で横に貫通させられた小悪魔は、人間業とは到底思うような速さで、次は少年の方へと向かった。糸はしっかり貫通したはずだったが、本当にただの影だったらしく、小悪魔のルックスに影響はなかった。
小悪魔の影は必死に少年の方へと向かい、ーー少年の前へ着くと、「助けに来てやった」というふうに半透明な黒い手を出し、少年を助けようとした。しかし、少年はそれに応えることも無く、硬直して前を見続ける。
それを見た小悪魔は、仕方ない、というふうに少年の手を取り、連れていこうとした。それでも、少年は決して動かずーー逆に手を振り払ってそこを動こうとしない。
そして小悪魔は、少年のやろうとしている真の狙いに気づく。まさか誰でも、「自分から死のうとする」
とは思わないだろう。それを知って、少年の方向を見た。
…しかし、遅かった。
糸は、少年の体を貫通する。その瞬間に溢れ出る大量の血液は、まるでその情景を強調するように激しく咲き乱れた。
ーーそして、残酷な情景は朱色に包まれて何も無かったように消えていった。
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