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女子高生勇者と異世界ケイサツ

 衛兵が駆けつけたのは、警報が鳴りはじめてからほんの数分後だった。

 いつの間にか茜色の夕焼けが路地に差し込んでいた。

 けれどもスンナを包む赤い光に触れると消えてしまう。

 人狼少女は目を瞑り、耳を塞ぎ、静かに耐え忍んでいる。

 あの恐ろしい目を閉じてしまえば、不気味な半狼もただの少女のようだった。


「大丈夫ですか? 私たちはヒュン国兵団、治安部隊です」

 彼らは突然、ナナミたちの背後に現れた。

 警報音が彼らの足音をかき消していたのだ。


 彼らはクロガネ色の甲冑を装備した四人の兵士と、リーダーと思われる白金色の兵士で構成されていた。

 兜を頭に装着しており、藍色の瞳が物静かにナナミを覗いている。

 顔の見えない兵士たちがナナミには不気味だった。


「ごめんなさい。私が首輪を外しちゃって……」

「そうですか。事件ではなくてよかったですが、気をつけてください」


 白金の兵士は淡々と言った。

 怒っている様子ではなかったが、ナナミには冷たい物言いに感じた。


「仕方ないだろ」

 エイルが首輪を拾い上げ、クロガネの兵士に渡した。

「ナナミは異世界人だ。この国のルールなんて知らない。それよりも早くこの警報音を止めろ。うるさくて敵わん」


「エ、エイル。そんな言い方は……」

「私は国王様直属の親衛隊。私の方が階級は上だ。厳しくする義務がある。それに本来なら治安部隊はもっと早く到着せねばならないのだ。職務怠慢だろ」

「わかりましたよ。君、首輪つけてあげて」


 首輪をスンナに装着させると、クロガネの兵士は大空に向かって手を掲げ、ブツブツと何かを唱えた。

 突如、部下の手から光が発射された。

 その光は空まで突き進み、見えない天井にぶつかる。

 不思議なことに光が何かに吸い込まれると、警報音と赤い光はプツリと消えた。


 魔法の存在にナナミはひそかに感動した。

 勇者がみたことのある魔法はまだ言語魔法だけなのだ。

 ナナミも魔法を一つだけ授かっているが、それはあまりぱっとしない。


「ご苦労。もう帰っていいぞ」

「だ、だから……エイル。それは……」

「大丈夫です。勇者様。私は慣れていますので」


 白金の兵士は兜を脱いだ。

 衛兵はあでやかな顔をした女性だった。

 群青色の短めの髪。藍色の知的な瞳。

 エイルの凛々しい雰囲気とは反対に、彼女はお淑やかだ。

 いかつい白金の甲冑も彼女には似合っていない。


「やはりオミィか」

 エイルは鼻で笑った。

「どおりで到着が遅れるわけだ」

 それに対しリーダーの女性――オミィはわざとらしいため息を吐いた。


「今はなぜか厳重態勢だから仕方ないでしょ」

「ふん。自分に甘いのは変わらないな。その様子では家の名が泣くぞ。私のリレイプルと並ぶ名家だろ。ま、おかけで地位だけは立派なようだが」

「戦いしか能のない奴がよく言うわよ。勇者様に迷惑をかけてないかしら。そんなオークの奴隷や人狼と人間のハーフなんて引き連れて。芸者から奪ったの?」


 オミィは複雑な目でスンナを一瞥し、兜を持つ手を入れ替えた。


「あ、あのその二人は私に譲ってもらって……」

「……それは失礼しました。ああ、勇者様。紹介が遅れました。ヒュン国兵団治安部隊、三番隊リーダー、オミィ・ヴァルヴァンと申します。それとエイルの同期です。あの子は阿呆ですが、腕だけは確かなのでよろしくお願いします」

 オミィは上品な笑みを浮かべた。

「私は異世界から――」

「知っていますよ。勇者、ナナミ様。ヒュン国兵団でも噂になっております。芸者の奴隷を助けたこともすでに存じております。先代勇者アイル・リレイプルも種族の垣根を越えたと言われていますが、ナナミ様もそうなのですね」

「そ、そんな……」


 ナナミはオミィの社交的な物腰にたじろいだ。

 同年代の女性からの敬わられるような対応に慣れていないのだ。

 けれどもこの大人びた態度はつい頼りたくなってしまうだろう。

 オミィはふふと笑った。


「それでは勇者様。兵団の方においでください。この事故は例え勇者様でも手続きをしなければならないので……」

「おい。オミィ。勇者にそれは横暴じゃないか」

「ルールは誰に対しても横暴なのよ」


 エイルは鋭く彼女を睨むが、オミィは涼しげな顔で受け流す。

 炎と水のような関係だ、とナナミは二人の髪色を見て安直に思った。


「エイル。別に大丈夫だから」

「そ、そうか。しかし――」

「ここでは異世界人で勇者かもしれないけど、私は向こうではただの女子高性だからね。特別扱いなんてしなくてもいいの。じゃあ、オミィさん。お願いします」

「わかりました。それでは兵団の基地までエスコートさせていただきます」


 オミィは気取ったようなお辞儀をした。

 悪ふざけのような態度だったが、ナナミはつい笑ってしまった。

 ナナミはオミィが勇者のために柔らかい態度に変えたことを察した。

 ナナミが堅苦しいのを苦手とすることを悟ったのだろう。


 ――気さくなだなぁ。

 ナナミは彼女の対応に感心しながら、兵士たちに連れられ基地に向かった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

活力に繋がりますので、お気軽に感想や評価、ご指摘ください。

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