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転生先から攫われた

 わたしが、わたしをころすことにした



訳が分からない。

ソレは自殺と違うのか?

それに、その言い方だと、わたしが2人いるようにも聞こえるじゃないか。



 わたしの疑問に、今回は返事は返ってこなかった。

代わりに、それまで行われていたらしい改造工事が終わったらしい。

今日からわたしは神創人間りりんとでも名乗るべきなんだろうか?

なんか主題歌でも考えるべきか。

現実逃避にアホな事を考える。


『用意が出来たから、君を母体に届けるけど……主題歌?

考えておこうか?』


 返事がないから放置かと思ってたら、笑い混じりにツッコミが入った。



要りません。



『残念。

 面白そうだと思ったのに。』


 楽しげなその言葉とともに、フワリと()がなにかに包み込まれると『キトゥンガーデン』の上空を移動し始める。

そうして子猫の尻尾の先端辺りに着くと同時に、地表へと降りはじめた。



早い!

速い!!

下手なジェットコースターより怖い!!!!!!



 心の中で悲鳴を上げていると、機嫌の良さそうな笑い声が聞こえてくる。

このヒト(創造主様)、わざとやってやがる!!!

むき出しの魂だからか、目を瞑る事も出来ずに、恐怖心を犯人(創造主様)をののしる事でなんとかやりすごす。



不敬?

余り気にしそうなタイプじゃない気がするからキニシナイ。



 面白がるような含み笑いが返ってきたところを見ると、問題なさそうだ。

アホな事を考えている間に、小さくて質素な家が見えてくる。

どうやらソコが目的地らしく、速度が緩くなり歩く程度の速さになっていく。

そのまま屋根を通り抜け、部屋の中に入り込むと、まるで絵画の中から抜けだしたんじゃないかと思う程の美男美女が寄り添いあって、暖炉で爆ぜる薪を眺めながら言葉を交わしていた。



これが、私の両親?



『そう。魂の護り手と生命の創造者。

 輝影の支配者の後に創った、僕の子供達。

 さ、お行き。

 ここからはもう、僕は関与しないからね。

 君達の意思で歩くといい。』


 促されて、包み込んでくれていた何かの中を漂い出ると、女性の方がわたしの事を驚いた様に見て、それから嬉しそうに微笑んだ。

それはまさに女神さまの頬笑み。


 この女性(ひと)がわたしの母親になる『魂の護り手』なのだと言う事がすぐに分かったのは、さっき詰め込まれた情報からのモノなんだろう。

彼女の容貌を見て、思わずうっとりしてしまう。

だってね、サラサラの白銀の髪が、彼女の透けるように白い卵型の顔を優しく縁取っていて、紫水晶の様な瞳は少したれ気味で、大き過ぎず小さ過ぎずという絶妙なバランスなんだよ!

紫水晶って言っても、高級品の色が濃いやつじゃなく廉価な方の優しい色合いだから、全体的に白っぽいというか、淡い色彩を纏う彼女の雰囲気にとても良くあっていると思う。

瞳だけが濃い色合いだと、きっとソコにしか目が行かなくなるんじゃないかと思うんだよね。

桜色の唇も厚過ぎず薄過ぎずってところで、良く出来たお人形みたい。

姫カットがとても似合ってる。

なんというか、可愛い・綺麗な女性に見える。


男性の方は、彼女のお腹に視線が向いていて女神の頬笑みには気が付いてはいないみたいだ。

なんと、モッタイナイ。


 この男性(ひと)は、わたしの父親になる『生命の創造者』か。

ふんわりした真っ黒な癖っ毛が、冷たいと言っても良い美貌を少し柔らかい印象に変えている気がする。

釣り目と言う程じゃないけど、切れ長な瞳は灰色で、なんというか……彼女に向ける視線に含まれる甘さがなかったら、きっとめちゃくちゃ怖いんじゃないかと思う。

ぶっちゃけ、苦手なタイプな気がする。

凄い美形なんだけどね!!!

 この2人の髪質が反対だったら、お母さんの方は可愛らし過ぎて、お父さんの方は綺麗過ぎて怖い感じなんじゃないかと思う。

独断と偏見ですが!

……お母さんの方は見てみたいなぁ。

可愛い女の子は、見てるだけで癒されるし。


 創造主様の気配が傍らから消えるのを感じながら、わたしはお母さんに向かってそっと手を伸ばす。

彼女のお腹には、鼓動を打ち始めようとしている新しい生命がある。

それが、わたしの新しい身体らしいとすぐに分かった。

彼女に手が触れそうになったところで、傍らのお父さんもわたしに気付き一瞬だけ目を瞠ると、冷たく見えるその美貌に蕩けそうな笑みを浮かべる。


 そっと、私の手が彼女のお腹に触れようとした瞬間。

周囲から光が失われた。




…ン…………

……リン…………

………リリン…………

…………リリン!…………




 最初は微かに、少しずつ鮮明になっていくその叫び声の主を知ってる。

まるで、心を切りつけられたかのような叫びに、わたしは動揺した。



わたしが、迎えに行くまで眠るって……



 動揺しながらも、そちらに視線を巡らせる。

視線を向けたところで、彼の姿が見える訳じゃない。

でも、その声の主が今、どんな状態になっているのかは、安易に想像が付いた。



このまま、わたしがこの女性の元にいったら(受胎したら)、彼が、狂う。



 それは、確信。

彼を失わない為にと、この世界に引きこまれ、身体(転生先)を用意されたのに?

今、それ(転生)をしたら彼の心が死ぬ?

その確信に近い予測に、心が凍る。

さっきまでの、どこか現実離れした、ふわふわ・のほほんとした気分はふっとんでいた。

死んでしまったのだって、仕方ないとすんなりと思えたのは、彼の側に居る為に必要な事であるらしいとぼんやりとでも思ったからだ。

わたしがここに引き込まれた時点で、創造主様が言う通りに、彼が夢も見ずに眠っているのならば、彼を起こしに行けばいいとそう思ってもいた。

 でも、そうじゃない。

彼は、未だ眠りに落ちてはおらず、『私』を探して既にボロボロな筈の心を更に痛めつけてる。



アルのところに、行かなきゃいけない。

今すぐに。



 何か不穏なものを感じたのか、目の前にいた筈のお母さんが一筋の光も無い闇の中で、思わず引きかけたわたしの手を取る。

実態のない魂のはずのソレを取れたと言う事に驚く中、その手を通して、彼女の胎内(なか)に引き込まれる感覚を覚え、恐怖に襲われる。



今は、駄目!!!



 反射的に拒絶したその瞬間、闇が凝縮してわたしを周囲から隔離した。

嫌な音を立てて、私の魂が彼女の手の中にあった分を残して千切られる。

光が戻る中、彼女が必死でわたしに手を伸ばすのを認めるのと同時に、魂を引き千切られた痛みに耐えられず、わたしは意識を放棄した。



ごめんね

お母さん

きっと、ちゃんと戻ってくるから。

今はちょっとだけ、家出させて下さい。

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