『プロローグ1』
それは、とても楽しい日々だった。
それは、とても幸せな日々だった。
──そう。彼が来るまでは。彼が来て、あの事件が起こるまで。それは平穏で、されどとても温かい日々だった。
「──ス!!」
叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。そこに意味などない。そこに結末などない。あるのは定められた歴史。覆すことのできない、人理定礎となった歴史。
アーサー王が武器や存在は違っても、ブリテンを統治し、モードレッドに討ち果たされたように。
百年戦争において、オルレアンの乙女がフランスの勝利を導いたように。
2004年、冬木市で聖杯を巡った争いが起きるように。
いくらあがいても、それは覆らぬ歴史。覆らぬ結果。覆らせれば、世界を変えてしまう歴史。
それによって、幸せは崩れた。
世界を壊す力などない。歴史を変える力などない。未来を知っても、象られた歴史の前ではあまりにも無力だった。
──ならば。
作り直そう。
かの悪魔達がしたように。
否。作り直すのではない。それには、力は及ばない。かの悪魔達が敗北したように、自分も歴史の守護者たる存在に負けるだろう。
──故に。
もう1つ、新しく作ろう。自分の、自分による、自分のための幸せの世界を。
かくして、この宇宙はできた。
遊楽調等、いくつかの世界を幹とする多重宇宙。自らの理想のため、モデルとなった世界からありとあらゆる要らないものを排除し、必要なものを創り出した世界。
愛したものと、それを守るものだけで構成された宇宙。
そっくりでいて、少しだけ異なる。そんな宇宙の塊。
そこにはもう、異形となった外なる神はいない。いるのは麗しき姿形の外なる神である。
だが。自分で作り出した以外の宇宙に自分の嫌いな物、事が無数にあるのは耐えられなかった。
自分の創り出したものが、元の形から変化しているのは、許せなかった。
故に。宇宙を巻き込む事業は、新たな宇宙の創世から、それを唯一とする宇宙の創世に切り替わっていった。
そこにはもう、ローマが滅ぶという人理定礎は存在しない。
そこにはもう、エルサレムの十字軍遠征が失敗したという人理定礎は存在しなくなっていた。
歪になった世界で、狂乱の宴が幕を開ける。
◇◆◇◆◇
「……なるほど。確かに、無数の世界の支えたる吾が行くべきやもしれん」
その白蛇と見紛うモノは背中に乗る者の言葉に従い、何もない空間を泳いでいく。
幻想郷の裂け目より飛び出した世界の柱となった神。その神は、今、どこでもない場所に作られたもう1つの宇宙に向かって、ひたすらに泳いでいた。
外なる神の座する窮極の場。それがもしも、もう1つあるなら。それに対応する多重宇宙が生まれているはずだ。
その場所に向かって、世界を支える柱たる白蛇──ファラクは、泳ぎ続ける。そのスピードは光すらも超えてまさに神速、神の域だ。
「さあて……どのタイミングでするのがベストかな」
ファラクの背に乗る者はそう言いながらスマホを取り出した。
狐の仮面を被ったその素顔は見えないが、そのスマホには文のようなものが映っていた。