第8話『霊斗VS桜』
霊力を纏った霊斗と桜がぶつかり合い、大爆発が起きる。此処は次元の狭間、どこの世界ともつかぬ場所。
紅く染まった瞳に霊斗はため息をつきながらも構え、その攻撃を受け流す。
「幻剣『流殺し』」
強化の果てにスペルカード級の力へと至った剣術を桜が容赦なく振るう。
霊斗は自身の分身を作り出すことによってその攻撃を受け止めると、桜の背後へと回って袈裟斬りをする。
桜はそれをどこからか取り出した刀で、後ろ手に受け止める。霊斗のなんの加護も持たない刀が、桜の武器にかかった武器破壊の概念により朽ち果てる。
「チッ!」
霊斗は桜の攻撃の範囲外から大きく後退し、再び構えを取る。
桜の能力──技術を司る能力。その真価は、技術を扱うことではなく技術への対処法を作り出すことだ。
故に、霊斗は覚悟を決める。技術を用いた達人の戦闘ではなく、ここからは己を獣とした戦いになるだろう、そう予感して。
霊斗の体を毛皮が包み込む。普段武器を持つ手は、武器そのものとなる。
普段の流暢な喋りをする口は一変して、牙の覗く禍々しい異形と化す。
それは、ワーウルフが理性を失った際の姿。満月の夜に限り、ソレは真祖の吸血鬼をも凌駕する夜の神王と化す。
「GO────!!!」
言葉を失ってなお、知的生命としての尊厳を失ってなお。いや、尊厳を失ったからこそ。その目は、獲物を狙う肉食獣のモノとなる。
「GA───!!!」
二本足の獣が、拳を振りかぶる。
桜のソードブレーカーの刃がソレを受け止める──が、獣の拳には傷跡は無く。
獣の武器はその牙、爪、拳であるが霊斗の拳を覆うその毛皮は武器ではない。また、それらの毛皮は龍の鱗に勝らずとも劣らない。要は、武器ではなく防具で相手の桜の攻撃を受けたのだ。
獣は技術もへったくれもなく、ただその力のままに暴虐の限りを尽くす。
獣が振り抜いた右の拳が桜に襲いかかる。桜がそれを逸らせば次は左脚の回し蹴り。流れるような蓮撃を逸らしていくなかで、桜はふと隙を作る。
獣であれば、達人であれば、その隙には容赦なく踏み込む。そして、それを利用されて大きなダメージを喰らうのだ。
獣は、獣故にそれを本能で察する。そして、通常ならありえない攻撃──頭突きを、桜にぶちまけた。
「くっ……!」
頭を抑えながら、桜は悶絶する。
その自然とできた一瞬が、最強たる者同士の戦いでは命取りだ。
桜は上から振り下ろされる獣の一撃を回避して体勢を立て直すと、スペルを宣言する。
「白霊『無想天生〜斬〜』!」
博麗の力を纏った桜の刀が、桜の解析術を伴って霊斗を狙う。
獣の戦闘における癖、弱点を解析し、見極め、桜は容赦なくその刀を振るう。
──だが。桜は、技術にあまりにも頼りきりになっていた。
「カフッ……」
胸が獣の異形の腕に貫かれ、鮮血の飛び散る桜は膝から地面に崩れ落ちた。
なんてことはない。獣は、攻撃されるより早く攻撃したのだ。とある剣術の至った武術の極み。
カウンターの一歩先を行くスピードによって、ありとあらゆる敵を一太刀にて斬りふせる。その力を獣は本能のままに行ったのだ。
桜の肉体は再生して行く。だが、これで洗脳は解けたはずだ。
「……あいつらが、どれだけ上手くやるかだな」
獣の目は、いつの間にか理性の宿った霊斗の目に戻っていた。
◇◆◇◆◇
一方、その頃。
海獣竜を退けた磔たちに、新たな試練が襲いかかっていた。
「なん……なんだ……っ! こいつら!!」
磔が叫ぶ。絢斗が剣を振るう。
その先にいるのは、7騎もの英雄。
「セイバー。ジェンス。召喚に応じ、ここに推参」
「ランサー。クー・フーリン。召喚に応じ参戦した。荊棘の槍をご所望かい?」
7騎の英雄が、元々いた7人の人間達に牙を振るう。──そう。今この瞬間、聖○大戦が始まろうとしていたのである!!