第7話『霊樹の英霊』
「少年よ」
僕に、目の前の霊体が語りかけてくる。辺り一面が真っ白で……不思議な空間だ。
「少年よ。汝の力を見せてみよ。俺の名は──。半神の剣士だ」
霊体がそう言った瞬間、僕の視界は真っ黒に染まっていった。
◇◆◇◆◇
「……よし。じゃあ、始めるとするか」
磔のその言葉に、霊樹は頷いて剣を構えた。
その瞬間。空間を切り裂くように、『何か』がやってきた。
中心に座する巨大な生命体……フィリアの周囲を漂う煌炎の騎士、ギャグラ。
フィリアの背後に、フィリアに負けず劣らずの巨大な翼を広げる煌翼の騎士、ブリニムティウス。
それら三柱が空間の裂け目から降ってきた。
ギャグラの炎とブリニムティウスの翼が磔たちに襲いかかる。
磔はその炎を切り裂き、襲いくる翼を絢斗が受ける。
「「お前らの相手はこの俺がしてやる!!」」
「*****!?」
「━━━━━━━」
ギャグラは驚き、ブリニムティウスは嘶く。
そして、それを諌めるように3柱の中でも最強であろうフィリスがギャグラとブリニムティウスを搔き消した。
仲間同士で潰し合う、その意味のない行為に快楽を覚えるかのように昂った感情のままにその巨体は暴れ出す。
その姿は鯨のようにも見えるが、背中に生える影のような腕がその可能性を否定する。
──フィリス。またの名を、海獣竜シー・アイランド
海の帝王たるその旧支配者は、しかして陸でもその戦闘力を失わない。
かつてはかのクトゥルフとも争った存在だ。この世界においては、弱体化したクトゥルフよりも強いだろう。
「絢斗!」
「応!」
絢斗を引き連れ、磔が海獣竜に対して突貫する。
「斬符『閃光斬』」
「絆符『ヘクセンチア』」
磔のスペルによって、光の柱が海獣竜を下から貫く。
身動きが取れなくなった瞬間、絢斗の超火力の居合い斬りが海獣竜を切り裂く──ハズだった。
「なんだって……!?」
「なんつー堅さだよ……!!」
しかし。海獣竜の装甲は絢斗の居合い斬りでは切り裂けなかった。絢斗の居合い斬りは、それこそ龍をも切り裂く火力があるだろう。
しかし、旧支配者たる海獣竜の装甲は現在の龍など比べるべくもなかったのだ。
「我が問いかけに応じよ。其の名は『桐月アニマ』。魔王たるが一角、古き世界の繋がり。我が名は山羽霊樹。死霊を司りし憑依たる者!」
霊樹がそう詠唱し終えると、其れは姿を現した。額から生えた二本の角だけ見れば、ソレは鬼のようにも見える。が、鬼のような圧倒的な筋力を持っていない。しかし、されど彼は鬼にも負けぬ強者であった。
「『弾幕ごっこ』という枠組みに落とすならば──魔符『弱化唯甲』」
ソレは、事情を弱める能力の一端。相手の装甲の耐久力という事情を弱める。
霊樹はアルマの父、アニマの力を纏いながら、海獣竜へと走る。ソレは決して速くはない。しかし、動きを止められた海獣竜の元にたどり着くには十分であった。
「異法『鈍斬兼拳』」
剣と鈍器の能力を兼ね備えた拳が、脆くなった海獣竜の装甲に命中した。海獣竜の体内でそのエネルギーは増幅され、海獣竜の肉体を吹き飛ばした。
その勢いによって霊樹は吹き飛ばされる。ソレを磔が受け止めた。
兎にも角にも、こうして迫り来る試練の1つは達成されたのだった。